第95話 再建された村
森の空気が、変わっていた。
以前と同じ匂いのはずなのに、どこか澄んでいる。
木々の間を抜ける風は整えられ、足元の地面は踏み固められていた。
村の周囲には、柵がある。
かつての簡素な木柵ではない。太い丸太を組み、要所を補強したものだ。
さらにその外側――胸の高さほどの石垣が巡らされている。
石は無骨だが、隙間なく積まれていた。
魔物の手で、何度も調整され、叩かれ、噛み合わされている。
ヒトシは、足を止めた。
村の中を、見渡す。
建物は、石造りだった。
木と石を組み合わせた家屋は、雨にも火にも強い。
屋根の角度、窓の位置、通路の幅――どれも実用性を優先している。
だが、無骨ではない。
人間の街と比べても、見劣りしない。
むしろ、無駄がないぶん、整って見える。
「……村というより、街だな」
ヨークが、素直にそう呟いた。
ヒトシは、否定しなかった。
確かに、もう「村」という言葉は小さすぎる。
「人間の街と、変わらないわ」
サラが周囲を見回しながら言う。
「でも……街と違って、息苦しさはない」
人の往来はある。
作業の音も、会話もある。
それでも、急かされる感じがない。
誰も、誰かを押しのけていない。
ヒトシは、その言葉に小さく頷いた。
(競争がないわけじゃない)
(でも、奪い合っていない)
それが、この場所の空気だった。
「森の工房も、山の予備工房も……」
グルマが腕を組み、少し照れたように言う。
「どっちも、気に入ってる」
工房は二つある。
森の中心にある主工房。
そして、山岳地帯に設けた予備工房。
どちらも同じ技術を共有し、同じ基準で作られている。
壊れても、止まらない。
奪われても、終わらない。
生き延びるための構造だった。
「ブランコと、滑り台は……」
グルナが、少し誇らしげに言った。
「私の希望だったので、公園も作りました」
村の中央。
広場には、子どもたちがいる。
ゴブリンの子。
コボルトの子。
新たに合流した魔物の幼体。
笑い声が、木々に反響していた。
ヒトシは、目を細める。
(……守れたな)
全てではない。
失ったものは、数え切れない。
それでも。
「森に、石造りの家……」
ロックオーガが、低い声で感心したように言う。
「岩を運ぶのは大変でしたが……壮観ですね」
彼の背後には、同族がいる。
肩に石の粉を残し、誇らしげに胸を張っている。
彼らは、力を振るうために来たのではない。
積むために来た。
ヒトシは、ゆっくりと息を吐いた。
戦うために集めた力が、
今は、生きるための形に変わっている。
(……ここまで来た)
(でも、終わりじゃない)
再建された村は、完成ではない。
これは、次に進むための土台だ。
ヒトシは、仲間たちを見る。
ヨーク。
サラ。
グルマ。
グルナ。
ロックオーガ。
そして、名を持たぬ多くの魔物たち。
「……良い場所だ」
それだけを、ヒトシは口にした。
誰も異論を唱えなかった。
森の中に築かれたこの街は、
もう「仮の住処」ではない。
帰る場所だった。




