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第61話 使えなくなった選択肢

 工房は、静かだった。

 音が消えたわけではない。

 木を削る音も、金属を打つ音も、変わらずそこにある。

 だが――

 熱がなかった。

 ヒトシは、完成した剣を一本、手に取った。

 グルマが作り、

 村全体で仕上げた一本。

 刃の通りは良い。

 重心も安定している。

 飾り気はないが、実用一点張りの、誠実な剣だ。

「……悪くない」

 口に出してみるが、

 それが空気を変えることはなかった。

 売れなくなった。

 理由は、分かっている。

 数日前、ナンが戻ってきた時の話だ。

「……売れましたよ。売れはしました」

 だが、彼女の表情は晴れなかった。

「ただし、数が出ない」

「問い合わせは多い。でも、決まらない」

 理由を尋ねると、ナンは少し言いづらそうに言った。

「“どこで作られている武器か分からない”って」

「それと……」

 一拍置いてから、続ける。

「最近、武器の流通がうるさいんです」

「街の中で、“出所不明の武器”を嫌がる空気が強くなってます」

 貴族が直接動いたわけではない。

 だが、

 ・正規工房の証明

 ・ギルドの認可

 ・流通経路の明確化

 そういった**“当たり前”が強調され始めた**。

 結果として、

 無名の工房。

 森の奥。

 噂だけが先行する存在。

 それらは、自然と避けられる。

(……締め出された、か)

 ヒトシは、そう結論づけた。

 力で排除されたわけじゃない。

 敵意を向けられたわけでもない。

 市場が、選ばなくなっただけだ。

「王」

 ヨークが声をかける。

「武器、やめますか?」

 ヒトシは、少し考えてから答えた。

「“今は”やめる」

 ヨークは、すぐに理解した。

「売れなくなった理由が、腕じゃないからですね」

「そうだ」

 ヒトシは頷く。

「品質の問題なら、改善すればいい」

「だがこれは――」

「立場の問題だ」

 正規。

 証明。

 信頼。

 それらを得るには、

 街の論理に深く入り込む必要がある。

(……今じゃない)

 無理に踏み込めば、

 争いになる。

 ヒトシは、それを望まない。

「じゃあ、何を売る?」

 グルマが腕を組む。

 ヒトシは、即答しなかった。

 剣を棚に戻し、

 工房全体を見渡す。

 木屑。

 削り台。

 作業台。

(……武器は)

(“使うための物”だ)

(なら)

(“暮らすための物”はどうだ?)


 武器が売れなくなった。

 それは、敗北じゃない。

 選択肢が一つ、絞られただけだ。


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