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第55話 それぞれの仕事

 工房の火が、三日続いた。

 最初は珍しさからだった。

 だが、三日も経つと、村の動きがはっきり変わり始める。

 狩りに出る者。

 木を集める者。

 皮を干す者。

 そして――工房の周囲に残る者。

 誰かが命じたわけではない。

 だが、自然と、そうなった。

「……なぁ」

 若いゴブリンが、ヒトシに声をかける。

「今日は、俺は狩りじゃなくていいか?」

 ヒトシは、少し驚いた。

「……理由は?」

「昨日」

「グルマのとこで、槍の柄削ってた」

「……手が、慣れてきた」

 ヒトシは、一瞬考え――頷いた。

「……いい」

「だが」

「狩りに出る者の数は、減らすな」

「分かった!」

 ゴブリンは、嬉しそうに走っていった。

 ヒトシは、その背中を見つめる。

(……頼まれるようになった)

(……指示じゃない)

(……相談だ)

 それだけで、空気が違う。

 工房では、グルマが腕を組んでいた。

「……増えすぎだ」

「全員、集まるな」

 だが、追い払わない。

 見るだけの者。

 真似をする者。

 質問する者。

 グルマは、苛立ちつつも、答える。

「……そこは、削りすぎるな」

「……火、強すぎだ」

 教えるつもりはない。

 だが、伝わっている。

 ヨークが、腕を振りながら言う。

「おい、俺は何すりゃいい?」

 グルマは、即答した。

「力仕事」

「鉄、叩け」

 ヨークは、満足そうに笑う。

「分かりやすいな!」

 夕方。

 狩り組が戻る。

「今日は、鹿一頭だ!」

「……十分だな」

 誰かが、そう言う。

 前なら、

 もっと欲しがった。

 だが今は、

 量より流れを見るようになっている。

 皮は工房へ。

 肉は分配。

 骨は保管。

 誰も疑問に思わない。

 そのときだった。

 ヒトシの頭に、

 いつもの感覚が走る。

【――《適応進化》が反応】

【集団内役割分業を確認】

【群れの生存効率:上昇】

【無駄行動の低減】

【協調思考の強化】

 音も、光もない。

 だが、はっきり分かる。

 戻れなくなった。

 狩るだけの群れには。

 変化は、すぐに表れた。

 言い争いが減った。

 奪い合いが消えた。

 代わりに。

「それ、俺の仕事だ」

「いや、今日はお前休め」

 そんな会話が、普通に交わされる。

 サラが、小さく呟く。

「……組織」

 アンが頷く。

「命令じゃないのに、回ってる」

 メリーは、工房を見る。

「役割があると」

「……自分の居場所が、分かるんですね」

 夜。

 ヒトシは、焚き火の前で考えていた。

(……狩らなくてもいい)

(……作らなくてもいい)

(……それぞれが、やる)

 それは、

 王になるための道ではない。

 だが。

 群れが、国になる前兆だった。

 グルマが、隣に腰を下ろす。

「……なぁ」

「俺、洞穴にいた頃」

「全部、一人でやってた」

「だから、楽だった」

 少し間を置いて、続ける。

「……でも、今は」

「考えること、増えたな」

 ヒトシは、静かに答える。

「……だが」

「一人じゃ、作れないものがある」

 グルマは、鼻で笑った。

「……言うじゃねぇか」

 火が、揺れる。

 村の中で、

 それぞれが、それぞれの場所にいる。

 その光景を見て、

 ヒトシは確信した。

(……これは)

(……もう“群れ”じゃない)

 名前のない組織が、

 確かに、ここに生まれ始めていた。

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