表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/114

第53話 名をもらった者たち

 村の入口で、グルマは立ち止まった。

 簡素な柵。

 焚き火の煙。

 行き交うゴブリンとオーク、コボルト。

 洞穴とは違う。

 騒がしいが、生きている。

「……へぇ」

 鼻で笑う。

「思ったより、ちゃんとしてるじゃねぇか」

 ヒトシは、横を歩きながら言った。

「……必要だったからな」

「作った」

 それだけの答えだった。

 だが、グルマは満足そうに頷いた。

 村の中心に近づいた、その時だった。

「……?」

 コボルトの一体が、足を止める。

 次の瞬間。

「……グルマ?」

 声が震えた。

 前に出てきたのは、グルナだった。

「……生きてたのか!」

 目を見開き、信じられないものを見るように見つめる。

 グルマは、しばらく黙っていたが――

 やがて、照れたように鼻を鳴らした。

「……ああ」

「しぶといんでな」

 グルナは、思わず笑った。

 そして、すぐに真剣な顔になる。

「……そうか」

「じゃあ、あの話も……」

 ヒトシが視線を向ける。

「……話?」

 グルナは、静かに語り始めた。

「グルドと、グルマと、俺はな」

「昔、同じ場所にいた」

「……ドラゴンから、名をもらった」

 村が、静まる。

 ドラゴン。

 その言葉だけで、

 空気が変わる。

「“森の秩序は、お前たちに任せた”」

「そう言って、名をくれた」

 グルマは、少しだけ視線を逸らした。

 グルナは続ける。

「……グルドとグルマは」

「昔は、仲が良かった」

「だが、ある日だ」

 声が、低くなる。

「グルドが」

「グルマの住んでいた、ゴブリンの領域に進出した」

「奪った」

 村の魔物たちが、息を呑む。

「その時」

「グルマは……死んだと、思われていた」

 グルナは、グルマを見る。

「……生きてるとは、思わなかった」

 グルマは、肩をすくめた。

「……そんな昔話は、どうでもいい」

 だが、すぐに言葉を続ける。

「……とはいえ、だ」

 村を見渡す。

「俺の拠点に」

「こんな形で、戻ってくるとはな」

 少しだけ、声が落ちる。

「……グルドに、奪われた時はよ」

「何も、残らなかった」

 焚き火の火が、揺れた。

 ヒトシは、何も言わない。

 ただ、聞いていた。

 グルマは、しばらく黙り込み――

 やがて、鼻で笑った。

「……まあ、いい」

「今は、こうして立ってる」

「それで、十分だ」

 グルナが、深く頭を下げる。

「……森の秩序は」

「お前たちに、任せていいんだな」

 ヒトシは、静かに答えた。

「……守る」

「奪うためじゃない」

「生きるために」

 グルマは、その言葉を聞いて――

 初めて、はっきりと笑った。

「……ああ」

「それなら」

「俺も、ここでやることがある」

 洞穴で止まっていた時間が、

 ようやく、流れ始めた。

 名を持つ者たちの過去は、

 この村に集まり――

 次の形へと、組み替えられていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ