第51話 不格好な完成品
洞穴の奥、作業場と呼ぶには雑然とした空間。
だが――
生活の跡が、はっきりと残っていた。
壁際に並べられたものを見て、ヒトシは思わず足を止めた。
木彫りの置物。
弓矢。
槍。
そして――剣。
どれも、洗練されてはいない。
刃は歪み、
柄は太すぎ、
装飾は荒い。
だが。
(……ちゃんとしてる)
ヒトシは、直感的にそう思った。
使える。
それだけでなく、
考えて作られている。
弓は、無理に引けば折れそうだが、
張力は一定だ。
矢羽は左右非対称だが、
真っ直ぐ飛ぶよう調整されている。
剣も同じ。
刃の欠けを誤魔化すように、
重心が工夫されている。
「……これ」
ヒトシは、思わず口に出した。
「全部、お前が作ったのか?」
グルマは、鼻で笑った。
「他に誰がいるってんだ」
「完璧じゃねぇが」
「使えりゃいい」
その言葉を聞いた瞬間。
ヒトシの中で、
はっきりと何かが繋がった。
(……適応進化の恩恵を受けたら)
(……こいつは、間違いなく伸びる)
狩りでもない。
群れの統率でもない。
作る才能。
それは、今の自分たちに、
喉から手が出るほど欲しいものだった。
ヒトシは、無意識に目を細めていた。
「……何だ、その目は?」
グルマが、不審そうに言う。
「さっきも言っただろ」
「俺は、群れには戻らねぇ」
「命令も、上下関係も――」
そこへ。
「いやいやいや!」
唐突に、
大きな声が割り込んだ。
ヨークだ。
「戻る戻らねぇの前にだ!」
弓を手に取り、感心したように頷く。
「これ、いいぞ」
「引きが素直だ」
次に、槍。
「穂先の角度も悪くねぇ」
「実戦で使うこと、ちゃんと考えてる」
グルマは、目を瞬かせた。
「……お前」
「なかなか、見る目あるじゃねぇか」
少し、嬉しそうだ。
「そうだな……」
「グルドの野郎を、思い出す」
その名前に、ヨークの口が止まる。
そして――
勢いのまま、言ってしまった。
「グルドなら死んだぜ」
「ここにいる我が主が、トドメ刺した」
得意げに言い切った。
次の瞬間。
(……あ)
ヨークの顔が、
目に見えて青くなる。
ヒトシも、息を呑んだ。
(……やった)
空気が、凍る。
グルマは、
しばらく動かなかった。
そして。
「…………」
膝から、崩れ落ちた。
ドサッ。
両手で顔を覆う。
「……やっと」
声が、震える。
「やっと……洞窟から、出られる……!」
次の瞬間。
「うおおおおおおお!!」
泣いていると思った。
だが、違った。
泣き笑いだった。
「アイツが死んだなら!」
「もう、逃げる必要ねぇじゃねぇか!」
顔を上げたグルマの表情は、
解放感に満ちていた。
「……ああ、クソ」
「長かった……」
ヒトシは、言葉を失っていた。
(……そうか)
(……洞穴は、隠れ家じゃない)
(……檻だった)
グルドという存在。
名を持つゴブリン。
それだけで、
グルマは縛られていたのだ。
ヨークが、頭を掻きながら言う。
「……悪ぃ」
「でも、よ」
「今は、悪くねぇ気分だろ?」
グルマは、涙を拭い、笑った。
「ああ」
「最高だ」
そして、ヒトシを見る。
「……なぁ」
「お前」
「さっきから、変な目で見てたな」
ヒトシは、少しだけ間を置いて答えた。
「……仲間に、なれとは言わない」
「だが」
「……一緒に、作らないか」
グルマは、一瞬だけ黙った。
それから、
口の端を吊り上げる。
「……面白ぇこと言うな」
洞穴の奥で。
捨てられていた才能が、
初めて、外の世界に向けて顔を上げた。




