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第49話 手を加えるということ

 集められた物は、作業場の中央に並べられた。


 変わった石。

 欠けた剣。

 歪んだ防具。


 どれも、今までなら見向きもされなかった物だ。

 ヒトシは、しばらく無言で眺めていた。

(……売れるかどうかは、分からない)

(……だが)

(……触らなきゃ、何も始まらない)

「……やってみよう」

 それだけ言って、ヒトシは腰を下ろした。


 最初に手を出したのは、例の“変わった石”だった。

 ゴブリンが持ってきた石斧を当てる。

 ――通らない。

「……硬いな」

 ヨークが、別の角度から叩く。

 キン、と澄んだ音。

「……鉄より、音がいいぞ」

 ヒトシは、削る場所を変える。

 角を落とし、形を整える。

 すると、表面に微かな光沢が出た。

「……綺麗だ」

 サラが、率直に言う。

「装飾用なら……」

「街だと、こういうの、好きな人いる」

 だが、すぐに首を振る。

「でも、加工が甘い」

「このままじゃ、石のまま」

 ヒトシは頷いた。

(……やっぱり)

(……知識が、足りない)


 次は、欠けた剣だ。

 メリーが刃を見つめる。

「……焼き直せば、いける」

「完全じゃないけど、刃は戻る」

 ヨークが、鼻で笑う。

「おいおい」

「俺たち、鍛冶屋じゃねぇぞ」

 だが、やってみる。

 火を起こし、

 赤くなるまで熱する。


 打つ。

 打つ。

 打つ。


 完璧ではない。

 刃は波打ち、

 重量バランスも悪い。

 それでも。

「……切れる」

 試し切りで、枝が落ちた。

 アンが、冷静に言う。

「応急用なら、十分」

「街なら、“修理前提”で売れる」

 ヒトシは、息を吐く。

(……完成品じゃなくても)

(……途中、という価値もある)


 歪んだ胸当て。

 ヨークが、力任せに叩く。

「うおおっ!」

 形は、多少戻った。

 だが、完全ではない。

「……重いな」

 サラが言う。

「街なら」

「これは“練習用”か“下位向け”」

「前線じゃ使われない」

 ヒトシは、少しだけ考える。

(……それでも)

(……ゼロじゃない)

 作業が一段落した頃、

 空は赤く染まっていた。


 成果は、微妙だ。

 売れるかどうかは、分からない。

 だが。

 ヒトシは、はっきり感じていた。

(……狩るより)

(……頭と手を使ってる)

 ヨークが、汗を拭う。

「……正直よ」

「これ、すげぇ儲かる気はしねぇ」

 サラも、正直だった。

「でも」

「“やり方”は間違ってない」

 メリーが、ヒトシを見る。

「価値は」

「作るものじゃなくて」

「見つけて、磨くものかもしれませんね」

 ヒトシは、小さく頷いた。

「……ああ」

 まだ、答えは出ない。

 だが。

 捨てられていた物に、

 手を加えた。

 それだけで、

 世界の見え方が、少し変わった。

(……次は)

(……誰かに、見せる番だ)

 ヒトシは、焚き火を見つめながら思った。

 価値は、

 独りで決めるものじゃない。

 誰かに見せて、初めて定まる。

 そうして初めて、

 街という存在が、現実味を帯びてきた。

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