第48話 拾われなかったもの
探索班は、三組に分かれた。
ヒトシが全体を見渡し、簡単に役割を決める。
「……深入りはするな」
「危険を感じたら、引け」
命令というより、確認だった。
皆が頷く。
今回は狩りではない。
敵を倒す必要もない。
見るための探索だ。
最初に動いたのは、ゴブリン二体とコボルト一体。
山の中腹、露出した岩肌。
「……これだ」
ゴブリンが指差す。
そこにあったのは、
灰色とも黒ともつかない石。
だが、表面が異様に滑らかだった。
「……光、反射するな」
角度を変えると、
鈍く光る。
コボルトが鼻を鳴らす。
「硬い」
「石斧、通らなかった」
試しに、別の石で叩く。
キン、と澄んだ音が返ってきた。
「……鉄?」
だが、錆はない。
ゴブリンが首を傾げる。
「……剣じゃない」
「……でも、普通の石でもない」
彼らはそれを、
慎重に袋へ入れた。
価値は分からない。
だが、捨てる理由もなかった。
別働隊は、ヨークを中心に動いていた。
森の奥、崩れた木の根元。
「……あったぞ」
半分、土に埋もれた剣。
刃は欠け、柄は朽ちている。
だが――
「鉄だ」
ヨークが、断言する。
防具もあった。
胸当て。
歪み、ひび割れ。
「……人間のだな」
サラが、静かに言う。
アンが周囲を見る。
「戦場じゃない」
「……捨てられた?」
メリーは、しゃがみ込み、剣を見る。
「……直せば、使えるかも」
ヨークが笑う。
「おいおい」
「これ、ゴミじゃねぇのか?」
サラは、首を振った。
「街なら」
「鉄は、ゴミじゃない」
ヨークが、目を丸くする。
「……へぇ」
ヒトシは、黙ってそれを見ていた。
(……捨てられた物)
(……拾う価値が、ある)
それだけで、
今までとは違う視点だった。
最後の組は、ヒトシ自身が向かった。
森の奥、岩陰に口を開ける洞穴。
風が、内側から吹いてくる。
「……冷たいな」
湿った空気。
奥は、暗い。
「……今日は、入口だけだ」
ヒトシは、そう決めていた。
一歩、踏み込む。
足元に、小石。
壁には、何かを削った跡。
(……自然じゃない)
だが、奥へは行かない。
今は――
存在を確認するだけ。
ヒトシは、洞穴を後にした。
(……何か、ある)
(……だが)
(……今じゃない)
夕方。
探索班が、戻ってきた。
集められたのは、
変わった石
欠けた剣と歪んだ防具
洞穴の位置情報
どれも、
即座に金になるものではない。
だが。
ヒトシは、それらを見渡し、静かに言った。
「……今までなら」
「全部、見過ごしてた」
ヨークが、肩をすくめる。
「だな」
「食えねぇし」
ヒトシは、小さく笑う。
「……だからだ」
「拾われなかった」
冒険者三人は、黙って頷いた。
価値は、まだ分からない。
だが――
探し始めたこと自体が、変化だった。
森は、まだ何も答えをくれない。
それでも。
ヒトシは、確信していた。
(……この中に)
(……次の一歩がある)
金ではない。
狩りでもない。
選択肢が、少しずつ増えていた。




