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第47話 街という選択肢

 朝の森は、いつも通りだった。


 焚き火の残り香。

 木を打つ音。

 誰かの笑い声。


 だが、ヒトシの中では、確実に何かが変わっていた。


(……塩ひとつで、あれだけ違う)


 昨日の食事が、頭から離れない。


 今までは「食えればいい」。

 だが、あの瞬間だけは違った。


 美味いと、はっきり思った。


(……金があれば、もっとできる)


 そう考え始めてしまった以上、

 もう無視はできない。


 ヒトシは、皆を集めた。


 ゴブリン。

 オーク。

 コボルト。

 そして、人間の冒険者三人。


「……金が必要だ」


 率直な言葉だった。


「そのために」


「……売れそうなものを、探す」


 ざわり、と空気が動く。


 サラが、腕を組んだ。


「つまり……」


「何が売れるか、分からないまま探すってこと?」


 ヒトシは、頷く。


「……分からないから、探す」


 メリーが苦笑する。


「それ、街だと一番危ないやり方なんだけど」


 アンが、冷静に続ける。


「でも、最初は誰でもそう」


「失敗しないと、基準は身につかない」


 ヨークが、頭を掻いた。


「……で?」


「何を探せばいいんだ?」


 ヒトシは、少し考え、答えた。


「……そのままじゃないものだ」


「手を加えたもの」


「工夫したもの」


 全員が、ヒトシを見る。


「……俺たちは」


「狩るのは得意だ」


「だが、それだけじゃ、先はない」


 昨日の肉を思い出す。


「……焼き方」


「……味付け」


「……保存」


「同じ肉でも、価値は変わる」


 それは、はっきりとした方針だった。


【――《適応進化》が反応】


【加工・創意による生存戦略を検知】


【手先の器用さ:向上】

【味覚感度:強化】

【付加価値創出能力:上昇】


 だが、誰もそれを“奇跡”とは思わない。


 ただ――

 やると決めた結果、体が応えただけだった。


「……それなら」


 声を上げたのは、ゴブリンの一人だった。


「そういえば」


「あの山に、変わった石があったぞ」


 別の声が重なる。


「捨てられた剣、見つけたことある」


「刃は欠けてたけど、鉄だった」


 コボルトが、鼻を鳴らす。


「あの洞穴」


「奥まで行ったこと、ない」


「……変な風の音、する」


 声が、次々に上がる。


 ヒトシは、黙ってそれを聞いていた。


(……今までなら)


(……気にも留めなかった)


 だが、今は違う。


 それらはすべて、

 **“可能性”**だった。


 サラが、少し驚いた顔で言う。


「……宝探し、みたいね」


 アンは、首を振る。


「違う」


「これは、棚卸し」


 メリーが、ゆっくりと頷く。


「……自分たちが、何を持ってるか」


「それを、初めて見直す段階」


 ヨークが、豪快に笑った。


「面白ぇじゃねぇか!」


「今まで、食うか捨てるかだったもんな!」


 ヒトシは、小さく息を吐いた。


「……売れるかどうかは、後だ」


「まずは、集める」


「作る」


「試す」


 結果は、分からない。


 失敗するかもしれない。


 だが――

 狩る以外の道を、探し始めた。


 それだけで、十分だった。


 ヒトシは、森を見渡す。


(……街は、まだ遠い)


(……だが)


(……行く意味は、見えてきた)


 街という選択肢は、

 逃げ道ではない。


 次の段階だった。


 そしてその第一歩は、

 足元に転がっているものを

 拾い直すことから始まった。

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