第44話 数が、力に変わる時
静けさの中で、
ヒトシは一度、深く息を吐いた。
グルナの一族を迎え入れるかどうか。
まだ答えは出していない。
だが――
《適応進化》は、すでに“次”を見ていた。
【――《適応進化》が大規模反応】
これまでとは違う。
音も、表示も、
はっきりしている。
【勢力構成を再確認】
数字が、順に浮かび上がる。
【ゴブリン:27】
【オーク:5】
【人間:3】
【コボルト:70】
ヒトシの意識が、数字をなぞる。
(……合計)
次の瞬間。
【総数:105】
【判定:閾値超過】
空気が、ぴんと張りつめた。
グルナが、はっと顔を上げる。
「……来る」
「……この数は……」
ヨークが、思わず呟いた。
「百、超えたな」
【集団規模が100を超過】
【群れ → 勢力 → 組織】
【段階更新を開始】
ヒトシの胸に、重たい感覚が落ちる。
これは、進化ではない。
昇格だ。
【ボーナス付与】
一つずつ、確実に表示される。
【① 統治補正:付与】
【指示伝達範囲:拡張】
【言語理解率:上昇】
【命令ではなく“意図”が伝達可能】
ヒトシは、理解した。
(……言わなくても)
(……伝わる、部分が増える)
ゴブリンやオークたちが、
自然と動きを揃え始める。
誰かが合図したわけでもないのに。
【② 異種族摩擦低減】
【人間・魔物間の衝突率:低下】
【恐怖反応:抑制】
【価値観共有効率:上昇】
サラが、ぽつりと呟く。
「……さっきより」
「……息、しやすい」
アンも、同意する。
「……変な緊張が、消えた」
それは錯覚ではない。
“違う種族”であることが、致命的な壁ではなくなった。
【③ 勢力意識の発生】
【帰属意識:形成】
【離脱率:低下】
【“ここに属する”という認識を付与】
グルナの尻尾が、静かに揺れる。
「……なるほど」
「……傘下を求める理由が、分かる」
コボルトたちが、自然とヒトシの方を見る。
命令を待つ視線ではない。
判断を預ける視線だ。
【④ 王性ボーナス(暫定)】
最後の表示は、重かった。
【条件達成】
【人の魂を持つ統治個体】
【異種族混成率:基準値超過】
【王性:暫定付与】
ヒトシの背筋が、わずかに震える。
(……王、か)
(……まだ、名乗ってもいないのに)
《適応進化》は、最後に告げた。
【注意】
【このボーナスは不可逆】
【勢力を失えば、反動が発生】
それは、祝福であり、
同時に――枷だった。
ヒトシは、全員を見回す。
ゴブリン。
オーク。
人間。
コボルト。
種族は違う。
考え方も違う。
だが、
同じ数の中に、まとめられた。
「……数が増えたな」
ヒトシは、穏やかに言った。
「……その分」
「……守る責任も、増えた」
グルナが、深く頭を下げる。
「……だからこそ」
「……あなたに、預けたい」
ヨークが、肩をすくめる。
「いやぁ」
「百人超えの家族か」
「にぎやかになるな」
ヒトシは、苦笑した。
「……覚悟は、しておけ」
その言葉に、
誰も異を唱えなかった。
この瞬間。
《適応進化》は、
群れを――一つの組織として認めた。
もう、“小さな集落”ではない。




