表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/114

第44話 数が、力に変わる時

 静けさの中で、

 ヒトシは一度、深く息を吐いた。

 グルナの一族を迎え入れるかどうか。

 まだ答えは出していない。

 だが――

 《適応進化》は、すでに“次”を見ていた。

【――《適応進化》が大規模反応】

 これまでとは違う。

 音も、表示も、

 はっきりしている。

【勢力構成を再確認】

 数字が、順に浮かび上がる。

【ゴブリン:27】

【オーク:5】

【人間:3】

【コボルト:70】

 ヒトシの意識が、数字をなぞる。

(……合計)

 次の瞬間。

【総数:105】

【判定:閾値超過】

 空気が、ぴんと張りつめた。

 グルナが、はっと顔を上げる。

「……来る」

「……この数は……」

 ヨークが、思わず呟いた。

「百、超えたな」

【集団規模が100を超過】

【群れ → 勢力 → 組織】

【段階更新を開始】

 ヒトシの胸に、重たい感覚が落ちる。

 これは、進化ではない。

 昇格だ。

【ボーナス付与】

 一つずつ、確実に表示される。

【① 統治補正:付与】

【指示伝達範囲:拡張】

【言語理解率:上昇】

【命令ではなく“意図”が伝達可能】

 ヒトシは、理解した。

(……言わなくても)

(……伝わる、部分が増える)

 ゴブリンやオークたちが、

 自然と動きを揃え始める。

 誰かが合図したわけでもないのに。

【② 異種族摩擦低減】

【人間・魔物間の衝突率:低下】

【恐怖反応:抑制】

【価値観共有効率:上昇】

 サラが、ぽつりと呟く。

「……さっきより」

「……息、しやすい」

 アンも、同意する。

「……変な緊張が、消えた」

 それは錯覚ではない。

 “違う種族”であることが、致命的な壁ではなくなった。

【③ 勢力意識の発生】

【帰属意識:形成】

【離脱率:低下】

【“ここに属する”という認識を付与】

 グルナの尻尾が、静かに揺れる。

「……なるほど」

「……傘下を求める理由が、分かる」

 コボルトたちが、自然とヒトシの方を見る。

 命令を待つ視線ではない。

 判断を預ける視線だ。

【④ 王性ボーナス(暫定)】

 最後の表示は、重かった。

【条件達成】

【人の魂を持つ統治個体】

【異種族混成率:基準値超過】

【王性:暫定付与】

 ヒトシの背筋が、わずかに震える。

(……王、か)

(……まだ、名乗ってもいないのに)

 《適応進化》は、最後に告げた。

【注意】

【このボーナスは不可逆】

【勢力を失えば、反動が発生】

 それは、祝福であり、

 同時に――枷だった。

 ヒトシは、全員を見回す。

 ゴブリン。

 オーク。

 人間。

 コボルト。

 種族は違う。

 考え方も違う。

 だが、

 同じ数の中に、まとめられた。

「……数が増えたな」

 ヒトシは、穏やかに言った。

「……その分」

「……守る責任も、増えた」

 グルナが、深く頭を下げる。

「……だからこそ」

「……あなたに、預けたい」

 ヨークが、肩をすくめる。

「いやぁ」

「百人超えの家族か」

「にぎやかになるな」

 ヒトシは、苦笑した。

「……覚悟は、しておけ」

 その言葉に、

 誰も異を唱えなかった。

 この瞬間。

 《適応進化》は、

 群れを――一つの組織として認めた。

 もう、“小さな集落”ではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ