第4話 伸びる型
狩りが、日常になりつつあった。
罠を仕掛け、獣を仕留め、火で焼く。
単純だが、確実に腹は満たされる。
ゴブリンたちの動きも、明らかに良くなっていた。歩く速度、反応、力の入り方。どれも、最初に会った頃とは違う。
「……進んでるな」
だが、それはレベルアップのような分かりやすいものではない。
体が急に大きくなるわけでも、力が跳ね上がるわけでもない。
ただ――“状況に慣れる”のが異様に早い。
それが、気になっていた。
狩りの帰り道。
獣道の脇で、ゴブリンの一体が転んだ。足元の根に躓いたらしい。
「……」
次の瞬間、そのゴブリンは、同じ場所を避けて歩いた。
誰かに教えられたわけでもない。
叱られたわけでもない。
ただ、転んだから、次は避けた。
「……偶然か?」
いや、違う。
似たような場面を、何度も見ている。
罠の設置で失敗した個体は、次から慎重になる。
火に近づきすぎて熱かった個体は、距離を取るようになる。
学習が、早い。
そして――忘れない。
その夜。
火のそばで、俺は一人考え込んでいた。
「……《適応進化》」
あのスキル名が、頭から離れない。
戦って強くなる。
経験値を稼いでレベルが上がる。
そういう“瞬間的な成長”とは、明らかに違う。
「これは……伸びる型、だな」
今すぐ強くはならない。
だが、環境に合わせて、確実に変わる。
火を使えば、火に慣れる。
狩りをすれば、狩りが上手くなる。
危険を知れば、回避が身につく。
しかも、それが俺だけじゃない。
「……群れ全体か」
俺が何かを始める。
群れがそれに触れる。
すると、少しずつだが、全体が底上げされていく。
最初は誤差だ。
だが、それが積み重なれば――
「差になる」
ゴブリンリーダーを、ちらりと見る。
あいつは力がある。
だが、考えていない。
目先の食料。
目先の奪い合い。
それで今まで生き延びてきたのだろう。
だが、それ以上には進めない。
「……俺は、違う」
強くなる必要はある。
だが、今すぐ最強になる必要はない。
必要なのは、
「生き残り続けることだ」
一回勝つより、十回負けない。
一瞬の力より、積み重なる変化。
このスキルは、そういう戦い方を求めている。
【《適応進化》が反応】
【進化方針:環境適応型を確認】
【成長傾向:継続・蓄積】
はっきりとした変化はない。
だが、確信がある。
このやり方なら――
時間をかければ、必ず差をつけられる。
弱いゴブリンが、
弱いまま生き残るための力。
「……いいスキルだ」
俺は火に枝をくべる。
炎が、静かに揺れた。
焦らない。
無理をしない。
だが、止まらない。
ゴブリンは、とにかく生き残る。
そのために――
俺は、この“伸びる型”でいく。




