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第25話 知が生む力、知が生む火種

 村に戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。

 オークの村――いや、今はヒトシたちの拠点となった場所に、

 いつもよりざわついた空気が漂っている。

(……様子が違うな)

 争いの気配ではない。

 だが、落ち着きもない。

 ヒトシは、自然と歩調を早めた。

「……ボス!」

 斥候の一体が、駆け寄ってくる。

「……メイが」

「……ちょっと、騒ぎになってまして」

 ヒトシは、眉をひそめた。

「……何をした?」

「……それが」

「……火、出しました」

「……は?」

 思わず、間の抜けた声が出た。

 問題の場所に向かうと、

 小屋の外に、ゴブリンたちが集まっていた。

 中心には――

 メイが立っている。

 その前の地面には、

 焦げ跡。

 黒く焼けた土。

(……マジで火だな)

 ヒトシは、内心で息を吐いた。

「……メイ」

 名を呼ぶ。

 メイは、すぐに振り返った。

「……ボス」

「……お戻りでしたか」

 落ち着いた態度だ。

 だが、周囲のゴブリンたちは、明らかに動揺している。

「……説明してくれ」

 ヒトシが言うと、

 メイは頷いた。

「……魔力の確認をしていました」

「……この体になってから」

「……意図的に、魔力を扱えるかどうかを」

 ヒトシは、地面の焦げ跡を見る。

「……それで、火?」

「……はい」

 即答だった。

「……正確には」

「……小規模な、火属性の発現です」

 ヒトシは、額を押さえた。

(……火か)

(……便利だが、危険だぞ)

「……どこまでできる?」

 ヒトシは、率直に聞いた。

 メイは、少し考えてから答える。

「……現時点では」

「……火を生む」

「……小さく操る」

「……それだけです」

「……大きな術式は、まだ無理ですね」

 ヒトシは、内心で安堵した。

(……村ごと燃やされる心配は、まだないな)

 だが、同時に理解する。

(……これは、戦力だ)

 石も、骨も関係ない。

 魔法は、質が違う。

「……見せてみろ」

 ヒトシが言うと、

 周囲がざわついた。

「……ここで?」

「……危なくない?」

 ヒトシは、手を上げて制した。

「……場所を選ぶ」

「……外だ」

 少し離れた、

 岩場へ移動する。

 燃え移るものがない場所。

 メイは、静かに立ち、息を整えた。

 目を閉じる。

 そして――

 手を前に出す。

 空気が、わずかに揺れた。

 次の瞬間。

 ぽっ

 小さな炎が、生まれた。

 焚き火ほどではない。

 だが、確かに――

(……魔法だ)

 ヒトシは、目を見開いた。

 石も、火打ちもいらない。

 意思だけで、火が生まれる。

「……維持できるのか?」

 ヒトシが聞く。

「……短時間なら」

 メイは、集中を保つ。

 炎が、揺れながらも消えない。

 やがて、ふっと消えた。

 メイは、息を吐く。

「……これが、限界です」

 ヒトシは、静かに頷いた。

(……十分すぎる)

 戦闘。

 調理。

 威嚇。

 用途は、いくらでもある。

(……扱いを間違えなければ、だ)

 だが。

 問題は、そこではなかった。

 戻る途中、

 口論の声が聞こえた。

「……勝手に火を出すな!」

「……村が燃えたら、どうする!」

「……いや、便利だろ!」

「……オークの畑が!」

 ヒトシは、足を止める。

(……これか)

 知能が上がった弊害。

 考えるからこそ、

 意見が割れる。

 ヒトシは、輪の中心に出た。

「……静かに」

 それだけで、声が止む。

 全員が、ヒトシを見る。

「……メイの力は、使い方次第だ」

「……危険でもあり、武器にもなる」

 視線を、メイに向ける。

「……勝手に使うな」

「……必ず、俺に報告しろ」

 次に、周囲を見る。

「……怖がるのも、もっともだ」

「……だが、拒絶するな」

 言葉を、区切る。

「……俺たちは」

「……もう、昔のゴブリンじゃない」

 沈黙。

 誰も、反論しない。

「……決める」

 ヒトシは、はっきりと言った。

「……メイは」

「……魔法の管理を担当する」

「……使用は、原則許可制」

「……訓練場所も、決める」

 全員が、頷いた。

 秩序が、形になる。

 それは、

 生き延びるために必要なことだ。

 夜。

 焚き火の前で、

 ヒトシは一人、考えていた。

(……魔法か)

 便利だ。

 強力だ。

 だが――

(……火種にもなる)

 力が増えれば、

 問題も増える。

 それでも。

(……進むしかない)

 生き残るために。

 ヒトシは、焚き火を見つめた。

 炎は、静かに揺れている。

 制御できている限り――

 味方だ。

 制御を失えば――

 敵になる。

 その境界を、

 決めるのは自分だ。

 ヒトシは、そう理解していた。

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