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第236話 魔力枯渇問題

魔力列車の運行が始まってから、街の空気は確かに変わった。

フロンティアからフェールへ。

フェールからシッパル、カームへ。

人と物が流れ、情報が巡る。

ラバルは執務室の窓から線路を眺めながら、何度目か分からない溜息を吐いた。

「物流があるというのは……ここまで違うものか」

書類の山は減り、報告の速度は上がり、街の反応は即座に返ってくる。

政治とは情報だと理解していたつもりだったが、実感として突きつけられると、その重みは違った。

「もっと列車を増やせば、さらに良くなる」

その言葉に、会議室の空気が一瞬だけ硬くなる。

最初に口を開いたのはメイだった。

「……それは、難しいと思います」

ラバルが眉をひそめる。

「魔力供給の問題か?」

「はい」

メイは正直だった。

いや、正直であるしかなかった。

「現在、魔力列車への供給は、私とメリーを含めた魔法使いが交代で行っています。

 ですが……正直に言えば、今が限界です」

「限界、とは?」

「街の魔法、防衛、治療、建築。

 それらに回す分を削って、列車に流しています。

 これ以上増やせば……どこかが必ず破綻します」

沈黙が落ちた。

列車は便利だ。

誰もがそう思っている。

だが、その裏で魔法使いたちが消耗している事実を、ヒトシは初めて明確に突きつけられた。

「……魔力ってさ」

ヒトシが、ぽつりと口を開いた。

「そもそも、どんなものなんだ?」

メイは少し考えてから答える。

「簡単に言えば……常に存在しています」

「空気みたいなものか?」

「ええ、近いです。

 ただし均等になろうとする性質があります。

 霧のように、薄いところへ流れようとする」

ヒトシは頷く。

「じゃあ、魔法使いは?」

「魔法使いは……“力場”を持っています。

 魔力を引き寄せ、体内に溜め込む器官、あるいは性質です」

「それを、式に従って外に出す」

「はい」

ヒトシは椅子にもたれ、天井を見上げた。

「……つまり今は」

言葉を選びながら続ける。

「魔法使い個人の力場を、街と列車が食いつぶしてる状態か」

メイは否定しなかった。

その瞬間、ヒトシの中で、何かが静かに噛み合った。

適応進化が反応する。

【魔力が存在する世界を認識】

【力場理論を整理】

【都市規模での魔力循環モデルを提示可能】

(……今さらか)

ヒトシは内心で苦笑する。

だが同時に、自分の身体に、微かに魔力が集まる感覚を覚えた。

霧が、静かに集まってくるような感触。

「なあ」

ヒトシは、メイを見る。

「街に、力場を作れないのか?」

一瞬、理解されなかった。

「……街、に?」

「魔法使いが魔力を引き寄せるなら、

 街そのものが引き寄せてもいいだろ」

会議室が、静まり返った。

「……それは」

メイは、ゆっくりと言葉を探した。

「理論上は……あり得ます」

ラバルが身を乗り出す。

「人工の力場、ということか?」

「はい。

 ですが、それは都市魔法の最終段階に近い話です」

「最終段階?」

「国家魔法、あるいは聖域構築に分類される領域です。

 成功例は……神殿国家くらいしか知りません」

ヒトシは肩をすくめた。

「神じゃなくても、街は作れるだろ」

メイは思わず笑いそうになり、慌てて口元を引き締めた。

「……問題は、制御です」

「制御?」

「力場は、魔力を引き寄せます。

 強すぎれば、周囲の魔力を枯渇させる。

 弱すぎれば、意味がない」

ラバルが低く唸る。

「だが、成功すれば……」

「はい」

メイは頷いた。

「魔法使い個人への依存はなくなります。

 列車、防衛、建築……すべてが安定します」

会議室に、ざわめきが広がる。

ヨークが腕を組んだまま言った。

「つまり、街が魔法使いになるってことか」

「近いですね」

「……王」

ヨークはヒトシを見る。

「それ、失敗したらどうなる?」

ヒトシは即答しなかった。

「……街が壊れるかもしれない」

正直な言葉だった。

だが、ヒトシは続ける。

「でもな」

視線を、全員に向ける。

「今のままでも、限界は来る」

「魔法使いが倒れれば、街も止まる」

「それなら」

ヒトシは、静かに言った。

「街が、魔法使いを守る形にしたい」

その言葉に、メイは目を見開いた。

適応進化が反応する。

【提案を評価】

【集団維持効率の向上を確認】

【長期的生存率の上昇を予測】

(……やっぱりな)

ヒトシは内心で思う。

「すぐに全部やるつもりはない」

「小さく作って、試す」

「失敗したら、やめる」

ラバルが、ゆっくりと頷いた。

「……国とは、本来そういうものだな」

メイは深く息を吸い、そして吐いた。

「分かりました。

 設計、始めましょう」

ヒトシは笑った。

「頼む」

会議室の外では、列車の走る音が微かに聞こえていた。

その音を聞きながら、ヒトシは思う。

(街が、自分で立てるようになるなら)

(俺は……少し、楽になる)

だが同時に理解していた。

これは、戻れない一歩だと。

魔力を「使う国」から、

魔力を「抱える国」へ。

フロンティアは、また一つ、形を変えようとしていた。

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