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第208話 ナラカイム王激怒

昼過ぎ。

ナラカイム王国、王城の中枢にある会議室は、いつもと変わらぬ空気に包まれていた。

高い天井。磨かれた石床。壁に掛けられた歴代王の肖像画。

ナラカイム王は、昼食を終えたばかりだった。

銀の食器はすでに下げられ、指先にはまだ温い感覚が残っている。

玉座に深く腰を掛け、片肘をついた姿勢で、王は淡々と続く報告を聞いていた。

「――以上が、今期の税の集計状況となります」

役人の声は単調で、感情を含まない。

数字が読み上げられ、帳簿が捲られる。

王の瞼が、わずかに重くなる。

(……つまらん)

辺境は順調に締め付けられている。

四都市は疲弊し、反抗の兆しもない。

フロンティアという厄介な存在は生まれたが、所詮は魔物の王国だ。

時間をかければ、いずれ潰れる。

そう思っていた。

その時だった。

会議室の扉が、音を立てて開かれた。

「――急報!」

空気が、一瞬で変わる。

駆け込んできた兵士は、息を切らし、膝をついた。

「カームにて……カームにて、奴隷が解放されました!」

「……何?」

ナラカイム王の目が、はっきりと開かれる。

眠気は、完全に消えた。

「続けろ」

声は低く、だがはっきりとした命令だった。

「原因は不明ですが、奴隷魔法が一斉に解除されたとのこと……街は混乱状態にあります!」

会議室が、ざわめく。

奴隷魔法の一斉解除。

あり得ない。

それは王国の「前提」そのものを揺るがす事態だった。

ナラカイム王が、玉座の肘掛けを強く握る。

「……馬鹿な」

その瞬間、また扉が開いた。

「急報!」

今度の兵士は、先ほどよりも顔色が悪かった。

「シッパルにて……同様の事態が発生しました! 奴隷魔法が解除され、市内が混乱しております!」

一瞬、沈黙。

次の瞬間。

「――ふざけるな!!」

ナラカイム王が、玉座から立ち上がった。

響き渡る怒号に、役人たちは一斉に頭を下げる。

「ゴブリンキング! あいつか!?」

王の声は、怒りに震えていた。

「腹が立つ……腹が立つぞ、この辺境が!!」

拳が、机に叩きつけられる。

「大体、スラトムは何をしている!?」

誰も答えない。

答えられる者が、いなかった。

スラトム侯爵。

辺境を束ねる男。

有能で、冷静で、王国に従う存在。

そのスラトムが、この急展開を止められていない。

それ自体が、異常だった。

ナラカイム王は、荒い呼吸のまま叫ぶ。

「ベスコはどうなっている!?」

「次はベスコだろう!?」

苛立ちが、会議室を満たす。

誰も口を開かない。

進言すれば、怒りの矛先が自分に向く。

だが、それ以上に。

――理解できなかった。

一人で、だ。

軍を動かしたわけでもなく。

宣戦布告もなく。

ただ、街の前提を壊している。

「……殲滅魔法を使うか?」

王が、ぽつりと呟く。

宰相が、言葉を選びながら口を開く。

「陛下……殲滅魔法は、正統性を著しく損ないます」

「分かっている!」

王は吠える。

「分かっているからこそ、使っていない!!」

怒りの中に、苛立ちと、焦りが混じる。

正義の顔をしたまま、支配する。

それがナラカイム王国のやり方だった。

だが今。

その“正義”が、通用しない相手が現れている。

「……ベスコを監視しろ」

王は、低く命じた。

「そして、スラトムに伝えろ」

「これ以上の失態は、許されんとな」

誰もが理解していた。

これは、ただの辺境の問題ではない。

王国の在り方そのものが、問われ始めているのだと。

ナラカイム王は、玉座に座り直す。

だが、その背中は、先ほどよりも小さく見えた。

怒りの奥底で、

王は初めて――

恐怖に、触れていた。

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