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第144話 “幻の鍛冶”と呼ばれた男

 最初に変化に気づいたのは、グルマだった。

「……おい、なんか森の入口、騒がしくねぇか?」

 工房の前で槌を振るっていたグルマは、手を止めて耳を澄ました。

 風に乗って、聞き慣れない音が混じっている。

 人の話し声。

 複数だ。

「まさか……」

 外に出ると、森の街フロンティアの入口付近に、見慣れない人影が増えていた。

 革鎧、マント、弓、杖。

 どう見ても――冒険者だ。

「来たか……」

 ヒトシもすでに気づいていたらしく、ヨーク、メイと共に入口へ向かっていた。

「数は多くないが、様子見だな」 「噂が動き出したってやつですかね」

 メイの言葉に、グルマは鼻を鳴らした。

「へっ、噂なら上等だ。

 ……だが、目的は一つだろ?」

 グルマの視線は、冒険者たちが腰に下げた剣へ向いていた。

 冒険者たちは、最初こそ警戒していた。

 魔物と人間が並んで立つ街。

 石造りの建物。

 整備された道。

「……本当に、街だな」 「魔物の集落って話じゃなかったのか?」

 だが、その中の一人が、ある武器を見て足を止めた。

「――あれ?」

 彼は、工房の前に並べられた一本の剣に目を奪われていた。

「おい……これ、まさか……」

 剣の柄頭に、控えめだが確かな刻印がある。

 ――Gruma

 ざわ、と空気が変わった。

「嘘だろ……」 「まさか、ここに?」 「いや、待て……“幻のグルマ”って、あの?」

 次の瞬間。

「やっと……やっと会えたぞ!!」

 冒険者の一人が、工房に向かって叫んだ。

 グルマは、きょとんとした顔でそちらを見る。

「……あ?」 「ちょ、ちょっと待て! 本人だ!」 「間違いない、銘が同じだ!」

 冒険者たちは一斉に集まり始めた。

「街で少しだけ出回った剣……覚えてるか?」 「あの切れ味、バランス……」 「値段も異様に安かったのに、上の下クラスだった」

 グルマは目を見開き、次の瞬間、破顔した。

「――売れたのか!?」

 ヨークが肩をすくめる。

「売れたどころじゃねぇよ」 「名前が独り歩きしてる」

 グルマは、腹の底から笑った。

「はははははっ!!

 武器が売れるぞぉ!!」

 工房の前で、拳を突き上げる。

「やっぱ銘打っといて正解だったな!」 「どうせならって入れたが……」

 冒険者の一人が、深く頭を下げた。

「あなたが……グルマさんですね」 「この剣、命を救われました」

 グルマは一瞬、言葉に詰まった。

「……大げさだな」 「だが、そう言われるのは悪くねぇ」

 ヒトシは、その光景を静かに見ていた。

(――流れが、変わった)

 剣一本。

 銘一つ。

 それだけで、人が動く。

 フロンティアは、もはや「恐れられる場所」だけではない。

 求められる場所になり始めている。

【適応進化が反応】

【外部からの自発的流入を確認】

【街としての信頼値が上昇】

【生産活動の社会的価値が認識されました】

 グルマは槌を取り直し、にやりと笑う。

「……よし」 「忙しくなるぞ、こりゃ」

 その背中を見て、ヒトシは思った。

(剣が売れたんじゃない) (“人が来る理由”が、できたんだ)


噂は、速い。

 その日のうちに、  翌日には、  三日も経てば。

 ・武器を見に来る冒険者

 ・交易商人

 ・護衛を求める者

 ・情報を嗅ぎ回る者

 フロンティアの門前には、人が絶えなくなった。

 ヒトシは、少し離れた場所からその様子を見ていた。

「……来すぎじゃないか?」

 率直な感想だった。

 メイが隣で苦笑する。

「ええ。

 でも止まりませんよ、これは」

「理由は?」

「“安全”と“利益”が、同時にあるからです」

 ヒトシは、息を吐く。

「……厄介だな」

 その瞬間。

【適応進化が反応しました】

【集団規模の変化を検知】

【外部交流の増加を確認】

【街:フロンティア】

【人口流動が発生】

【経済活動が活性化】

【街としての格が上昇しています】

 ヒトシは、目を細めた。

「……街が、勝手に育っていく感覚だな」

 ヨークが肩をすくめる。

「俺たち、何もしてねぇのに?」

「してるだろ」

 ヒトシは答える。

「守った。

 殺さなかった。

 拒まなかった」

 それだけで、世界は動く。

 それが、フロンティアだった。

 遠くで、グルマの声が響く。

「順番守れよ!

 一人一本だ!

 いや、二本でもいいが値引きはしねぇぞ!」

 人と魔物が入り混じる、雑多な声。

 サラがぽつりと呟く。

「……戦わなくても、こんなふうに変えられるのね」

 ヒトシは、静かに頷いた。

 だが同時に、理解していた。

 人が集まるということは、

 必ず“目”も集まる。

 フロンティアは、もう隠れ里ではない。

 それでも。

「……ここまで来たら、戻れないな」

 ヒトシは、街を見渡した。

 守るものは、確実に増えていた。

 そして――

 世界は、もうフロンティアを見ている。

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