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第143話 協力関係の芽

 フェールの冒険者ギルドは、久しぶりにざわついていた。

 理由は単純だ。

 A級パーティー《エトワール》が、全員揃ってギルドの中央に立っている。

 ロディを先頭に、ナレン、バイド、ミヤリ。

 誰一人欠けていない。

 それだけで、空気は張り詰めた。

「聞いてくれ」

 ロディの声は、意外なほど落ち着いていた。

「俺たち《エトワール》は――拠点を移す」

 ざわっ、とどよめきが走る。

「移す先は――森のフロンティアだ」

 一瞬、誰も言葉を発せなかった。

 次の瞬間。

「……は?」

「森……魔物の街だろ?」

「正気か?」

 罵声とも、困惑ともつかない声が飛ぶ。

 ロディは一つ、深く息を吸った。

「正気だ」

 その断言に、空気が一段階冷える。

 ナレンが一歩前に出る。

「誤解が多いから、先に言っておくわ」 「フロンティアは、冒険者を敵視していない」 「今回の件で分かったでしょう? 私たちは助けられた」

 ミヤリは、少し俯いたまま、だがはっきりと口を開いた。

「……私を救ったのは、ゴブリンロード――ヒトシだった」 「森で、命を狙われていた私を」

 バイドが腕を組み、重く言う。

「力はある。統率もある」 「それに……あの街は、今の冒険者社会よりずっと“まとも”だ」

 ギルド内が、ざわつきを増す。

「ふざけるな!」 「魔物に媚びるのか!」 「利用されるだけだ!」

 ロディは、それを遮るように言った。

「逆だ」

 静かな声だった。

「俺たちは、魔物に利用されたんじゃない」 「俺たちが“冒険者として扱われた”んだ」

 その言葉に、空気が変わる。

「今回の騒動で分かった」 「フロンティアを脅威と叫ぶ奴らの多くは、見ていない」 「ただ“ゴブリン”という言葉に反応しているだけだ」

 ロディは、ギルドの奥――役人席の方を見る。

「フェールの街を守るためにも」 「無意味な衝突は避けるべきだ」

 その場にいた役人が、喉を鳴らした。

「……ラバル男爵も、この件については把握しています」 「《エトワール》の判断を、無下にはしないでしょう」

 再び、ざわめき。

 だが今度は、否定だけではなかった。

「……A級が拠点を移す?」 「それって……」 「フロンティアと、正式に関係を結ぶってことか?」

 ロディは、頷いた。

「俺たちは、フロンティアの“盾”になるつもりはない」 「だが――橋にはなる」

 ミヤリが、小さく微笑む。

「森と街を繋ぐ、ね」

 バイドが肩をすくめる。

「嫌なら来なきゃいい」 「俺たちは、俺たちの判断で動く」

 ナレンは、少しだけ楽しそうに言った。

「それに……」 「魔物の街に拠点を置く冒険者パーティーなんて、前代未聞よ?」

 その一言で、空気が少し緩む。

 そして――。

 フェールの街に、噂が走った。

 A級パーティー《エトワール》、森の街フロンティアへ。

 魔物と人間が“正式に協力する”前例が生まれた。

 その知らせは、当然――フロンティアにも届く。

 ヒトシは報告を聞き、少しだけ目を細めた。

「……ややこしくなるな」

 ヨークが笑う。

「でもよ、王」 「向こうから橋を渡ってきたんだ」 「悪くない話じゃねぇか?」

 ヒトシは、静かに頷いた。

 これはまだ“同盟”ではない。

 だが――

 確かに、世界が一歩動いた瞬間だった。

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