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第140話 合成された悪意

 ヨークの足が、ぴたりと止まった。

「……ここだな」

 木々が不自然に倒れ、地面には複数の足跡が残っている。

 獣でも魔物でもない――人間の歩幅だ。

 ロディが息を呑む。

「ミヤリ……」

 その名を呼んだ瞬間だった。

「――動くな」

 低く、乾いた声。

 木陰から現れたのは、一人の男だった。

 革鎧に複数の武器。

 だが何より異様なのは――その立ち方だった。

 構えが、定まらない。

 剣士の足運びでもない。

 弓使いの重心でもない。

 魔法使いの呼吸でもない。

 それらが、無理やり一つにまとめられたような動き。

 そして男の腕には――

「ミヤリッ!!」

 ロディの叫びが、森に響いた。

 ミヤリは縛られ、男の背後に引き寄せられていた。

 口は塞がれていない。だが、動けない。

 彼女の喉元には、短剣が添えられている。

「安心しろ。まだ殺す気はない」

 男は薄く笑った。

「名前はゾルゲルト。冒険者だ。

 ……まあ、同業者同士、ってやつだな?」

 ロディが一歩踏み出そうとした瞬間。

「来るな」

 刃が、わずかにミヤリの肌に食い込む。

「――ッ」

 ロディの足が止まる。

 ヒトシは、男を見据えたまま動かなかった。

(……スキル合成か)

 直感だった。

 だが、確信に近い。

 ゾルゲルトの体からは、複数の訓練痕が読み取れる。

 剣を振った者の筋肉。

 魔法を詠唱した者の喉。

 弓を引いた者の肩。

 それらが、同時に存在している。

「面白いだろ?」

 ゾルゲルトは誇らしげに言った。

「剣士の身体能力に、魔法使いの感知、

 斥候の索敵に、弓使いの精度。

 ――全部、俺のもんだ」

 ヒトシの背後で、メイが息を呑む。

「……無理やり、繋げてる」

 メイの言葉に、ゾルゲルトが笑う。

「そうだよ。

 “適性”なんて関係ない。

 奪って、混ぜて、使えればいい」

 その瞬間――

 ヒトシの中で、はっきりとした嫌悪が生まれた。

(こいつは……

 “生き方”を奪うタイプだ)

 ヒトシが一歩前に出る。

「目的は何だ」

「簡単さ」

 ゾルゲルトは即答した。

「エトワールを潰す。

 邪魔だからな」

 ロディが歯を食いしばる。

「……やはり、お前か」

「妬み? 嫉妬? そんな高尚なもんじゃない」

 ゾルゲルトは肩をすくめる。

「上にいる連中が気に食わないだけだ。

 だから、孤立させて、削る」

 短剣が、ミヤリの喉に近づく。

「まずは、斥候からな」

「やめろ!」

 ロディの声が震える。

 その瞬間――

【適応進化が反応】

【敵対スキル:合成型能力を検知】

【危険度:高】

【判定:直接戦闘は非推奨】

 だが。

 ヒトシは、迷わなかった。

「……ヨーク」

「おう」

「合図は俺が出す」

 ゾルゲルトが眉をひそめる。

「何だ? 今さら抵抗か?」

 ヒトシは、静かに言った。

「ミヤリを離せ」

「断る」

 即答。

 ――次の瞬間。

 ヒトシが一歩、踏み出した。

「な――」

 ゾルゲルトの視界が揺れる。

 土が盛り上がり、視線を遮る。

「今だ!」

 メイの声。

 土壁が生まれ、一瞬だけ視界が切れた。

 その刹那。

 ヨークが、走った。

 人ではない。

 オークの膂力。

 獣の速度。

「――ッ!?」

 ゾルゲルトが反応するより早く、

 ヨークの腕が、ミヤリを抱き寄せる。

 短剣が空を切った。

「チッ!」

 ゾルゲルトが距離を取る。

 だが――

「もう、人質はないぞ」

 ヒトシが、前に立った。

 ロディは、ミヤリを抱きしめる。

「……すまない」

「謝るな」

 ミヤリは、かすかに笑った。

「……生きてる」

 ゾルゲルトが舌打ちする。

「やっぱり、面倒な連中だな……」

 だが、その目は笑っていなかった。

「いい。今日は引く」

 そう言い残し、森の奥へ消える。

 ヒトシは、背中を見送りながら呟いた。

「……逃がしたか」

 だが。

 適応進化のアナウンスが、静かに鳴った。

【解析継続】

【スキル合成の構造を記録】

【対抗手段の構築を開始】

 ヒトシは、理解した。

(次は……

 “街”が狙われる)

 これは偶発ではない。

 意図的な敵意だ。

 そして。

 エトワールも、フロンティアも――

 もう、無関係ではいられない。

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