第137話 戦うべきではない相手
森の縁が、ざわついている。
正確には――森そのものではない。
森の外、視界の届く丘や林、そのさらに先。
人の気配が、あまりにも多すぎた。
「……多いな」
ヒトシは、木陰から外を見つめながら、低く呟いた。
人間だ。
冒険者。
数は、ざっと見積もっても百を超える。
旗も、統一された装備もない。
だが、武器の質と構えからして、素人ではない。
それぞれが小さな集団を作り、距離を取りながら、森を囲むように陣取っている。
(……包囲、か)
攻めるための配置ではない。
だが、逃がさないための配置だ。
背後で、足音が重なった。
「ヒトシ」
サラだった。
続いて、メリーとアン、ヨーク、メイ、グルマ、エドガーが集まる。
「……やっぱり、来ましたね」
メリーが、険しい顔で言う。
「ええ。噂が噂を呼んだ結果でしょう」
アンは、盾を地面に立てかけながら、冷静に周囲を見回していた。
ヒトシは、皆に視線を向けた。
「戦うのは、間違ってる」
その言葉は、即断だった。
一瞬、誰も反論しなかった。
「人間相手に戦えば、終わりだ」
「勝っても、負けてもな」
ヨークが、歯を鳴らす。
「……分かっちゃいますけどよ」
「向こうは、やる気満々に見えますぜ」
「だからこそよ」
ヒトシは、強く言った。
「ここで刃を向けたら、俺たちは“敵”になる」
「理由も背景も、全部無視されてな」
サラが、一歩前に出る。
「……説得しましょう」
その言葉に、ヒトシは少しだけ目を見開いた。
「私たちは冒険者よ」
「冒険者の論理も、恐怖も、焦りも、分かる」
メリーも頷く。
「今の彼らは、“何か大きなもの”があると信じて集まっている」
「でも、実際に目で見て、話を聞けば……揺らぐ人もいるはずです」
アンが、静かに言葉を添えた。
「全員を納得させる必要はありません」
「“戦う理由がない”と気づかせるだけでいい」
ヨークが腕を組む。
「……その間に、何かあったらどうする?」
ヒトシが答える前に、ヨーク自身が続けた。
「第二拠点の出番だな」
「非難するぞ」
グルマが、顔をしかめる。
「おいおい……」
「また工房が壊される前提かよ」
「最悪を想定しろって話だ」
ヨークは、珍しく冗談を言わなかった。
メイが、地面に指を這わせながら言う。
「時間を稼ぎます」
「土魔法で壁を作る。森の入口を限定すれば、すぐには踏み込めない」
「……助かる」
ヒトシは、短く答えた。
最後に、エドガーが口を開いた。
「……俺は、街に残ります」
全員の視線が集まる。
「人間は……殺されないと思う」
「少なくとも、あいつらは“街”を壊すつもりはないはずだ」
エドガーは、歯を食いしばった。
「建物を守る。物資を守る」
「俺にできるのは、それだ」
ヒトシは、しばらく黙っていたが――
「……頼む」
それだけを言った。
その瞬間。
【適応進化が反応】
【集団対峙状況を検知】
【対話優先判断を評価】
【防衛・遅延・避難の三軸行動を確認】
ヒトシは、胸の奥で小さく息を吐いた。
(……まだだ)
(まだ、戦う段階じゃない)
突如コボルトが影から現れヒトシに告げる。
「王、森の中で人間が人間を連れ去っています」
「冒険者の弓使いの女が引きずられていました」
「不穏な動きに見えましたので報告です」
ヒトシは考える。
この状況を利用した人間の行動_。
「状況が掴めない」
「ヨーク、メイ、サラ、メリー、アン ついてきてくれ」
森のなかでの思惑に立ち向かう。




