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第136話 エトワール

 フロンティア近郊――森と街道の境目。

 簡易野営地が、いくつも点在していた。

 焚き火の数だけ、人がいる。

 それはつまり、冒険者が集まりすぎているということだった。

「……また増えてるな」

 低く呟いたのは、ロディだった。

 腰には魔剣。軽装に見えて、隙のない立ち姿。

 彼はA級冒険者パーティー――エトワールのリーダーであり、

 この場で最も名が知られた男の一人だった。

「そりゃあね」

 焚き火の向こう側から、ナレンが答える。

 長い杖を膝に置き、ローブの裾を整えながら周囲を見回している。

「“森に魔物の王がいる”

 “人間を操るゴブリンロードがいる”

 “街を狙ってる”

 ……噂なんて、広まる時は一瞬よ」

「一瞬で、尾ひれも百本付くけどな」

 バイドが肩をすくめる。

 重戦士らしい分厚い鎧。その上からでも分かる体格。

 だが表情は硬い。

「今回の空気は、正直、嫌な感じだ」

 最後に、焚き火の影から姿を現したのがミヤリだった。

 弓を背負い、軽やかな動きで全体を見渡している。

「……うん。

 いつもの“依頼前のざわつき”とは違う」

 ミヤリは、斥候としての直感を信じるタイプだった。

 そして、その直感は、これまで一度も外れたことがない。

「“敵”を見る目じゃない」

 彼女は静かに言った。

「“獲物を見る目”が、混じってる」

 その言葉に、場が一瞬静まる。

 ロディは焚き火に薪を放り込み、火花を散らせた。

「……いつものことだ」

 そう言ったが、声は重い。

「俺たちは、目立ちすぎた」

 エトワール。

 実力、戦果、安定性。

 どれを取っても、今の冒険者社会で“トップクラス”と呼ばれる存在。

 それは称賛と同時に、

 妬みと敵意を集める立場でもあった。

「前の迷宮攻略も、覚えてるでしょ」

 ナレンが言う。

「後衛の回復役が、

 “たまたま”魔力切れを起こして――

 その後ろから、別パーティーが突っ込んできた」

「偶然にしちゃ、出来すぎだったな」

 バイドが吐き捨てる。

「今回もだ」

 ロディは、全員を見渡した。

「いいか。

 俺たちは“フロンティアを攻める側”でも、

 “魔物の味方”でもない」

「ただの冒険者よね」

 ミヤリが頷く。

「依頼も、正式な討伐命令も、まだ出てない。

 それなのに、ここまで集まってるのは――」

「誰かが、“何か”を期待してる」

 ナレンが言葉を継いだ。

「英雄の失墜。

 あるいは、厄介者の排除」

 バイドが拳を握る。

「……狙われてると?」

「“可能性がある”じゃない」

 ロディは即答した。

「既に、何度も狙われてきた」

 焚き火の向こうで、別の冒険者たちがこちらを見ている。

 声は聞こえないが、視線だけははっきり分かる。

 値踏み。

 探る目。

 期待と、悪意。

「だから、今回も言う」

 ロディは低く、しかしはっきり言った。

「単独行動はしない。

 夜は必ず二人以上。

 戦闘になっても、無理に前に出るな」

「了解」

「分かってる」

「当然よ」

 それぞれが応える。

 ミヤリは最後に、森の方角を見た。

「……それに」

「ん?」

「“本当に危険なのは、森の中じゃない気がする”」

 彼女は、そう言った。

「今、一番不穏なのは――

 ここに集まってる、人間たち」

 誰も、否定しなかった。

 遠く、森の奥。

 フロンティアの方角では、何も動いていない。

 だが――

 嵐の前の静けさという言葉が、

 この場ほど似合う場所はなかった。

 エトワールは、その最前線に立っていた。

 知らぬまま、

 “誤解を解く鍵”として、

 そして――

 次の大きな流れに巻き込まれる存在として。

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