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第135話 裏で進む冒険者動員

フェールの朝は、いつもよりざわついていた。

石畳を行き交う足音が多い。

荷車の数が増え、武器屋の前に人が溜まる。

掲示板には、まだ正式な依頼書は貼られていない――それでも、空気は確実に変わっていた。

冒険者ギルド

「……なあ、聞いたか?」

木製のテーブルに肘をついた若い剣士が、声を潜める。

「森の奥に“街”があるって話」 「魔物と人間が一緒に住んでるとか……」

向かいに座る女魔術師が鼻で笑った。

「どうせ誇張でしょ。最近は噂が一人歩きしてる」 「スタンピートの後だし、皆ピリピリしてるだけ」

だが、隣の重装戦士は、酒杯を置いて首を振った。

「いや……今回は違う」 「実際に見た奴がいる。森に“道”が通ってるって」 「しかも、ゴブリンが斥候してるらしい」

場が、静まった。

ゴブリン。

それは冒険者にとって、狩る側であり、警戒する側ではない存在だった。

「……テイマーの仕業じゃないのか?」 「人間を操る魔物……って話も出てる」

「笑えねぇな」

誰かが呟いた。

「もし本当なら」 「俺たちがいつ“操られる側”になるか分からない」

その言葉に、否定する声は出なかった。

冒険者の心情

別の卓では、年嵩の斧使いが若手を諭していた。

「焦るな。まだ“敵”と決まったわけじゃねぇ」 「依頼も出てない」

「でも、動くなら今だろ?」 「大きくなる前に叩くってのは、定石だ」

「定石、な……」

斧使いは苦い顔をした。

「相手は“街”だぞ」 「魔物だろうが、人が住んでるなら――」 「殺しになる」

若手は口を噤んだ。

冒険者は、仕事として人を殺すことは少ない。

魔物相手とは、重みが違う。

それでも。

「……金は出るんだろ?」

誰かが、現実的な問いを投げた。

沈黙が、肯定だった。

フェール領主館

その頃、石造りの館の奥では、重い会話が交わされていた。

ラバル男爵は、窓の外を見つめたまま、役人の報告を聞いている。

「冒険者ギルド周辺で、私的な動員が始まっています」 「依頼は出ていませんが……空気が」

「分かっている」

ラバルは短く答えた。

「人は、分からないものを恐れる」 「特に“理性的な魔物”などという存在はな」

役人が慎重に言葉を選ぶ。

「軍を動かすべきでは?」

「愚策だ」

即答だった。

「軍を出せば、それは“敵対”になる」 「今はまだ、彼らは何もしていない」

「では、冒険者との連携を……」

ラバルは、そこで初めて振り返った。

「冒険者では、勝てない」

断言だった。

「少なくとも、ヒトシというゴブリンロードにはな」 「彼は“力”よりも“統治”を理解している」

役人は息を呑む。

「……では、放置ですか?」

「いや」

ラバルは、静かに机に手を置いた。

「知らせろ」 「街で何が起きているかを、正確に伝えろ」 「我々が“敵対していない”ことを示すためにも」

「それで、冒険者が暴走したら?」

ラバルは、わずかに目を伏せた。

「……その時は」 「彼ら自身が、選んだということだ」

フロンティア側

森の中。

斥候のコボルトが、足を止めた。

風の匂いが、違う。

人間の数が、増えている。

「……王」

ヒトシのもとに、報告が届く。

「街道側が、騒がしいです」 「冒険者が……増えています」

ヒトシは、即答しなかった。

ただ、胸の奥に、嫌な感触が広がる。

(来るな……)

理由は、分からない。

だが、あの時と同じだ。

スタンピートの前。

空気が、静かに歪んでいく感覚。

「……監視を強めろ」 「手は出すな。絶対にだ」

ヨークが眉をひそめる。

「向こうが先に来たら?」

「それでもだ」

ヒトシは、強く言った。

「俺たちは“街”だ」 「襲撃者にはならない」

その言葉に、誰も異を唱えなかった。

だが。

見えないところで、歯車は回り始めている。

適応進化

【政治的不安定化を検知】

【外部勢力による非公式動員を確認】

【コミュニティ防衛意識:上昇】

アナウンスは、まだ淡々としている。

だが、ヒトシには分かっていた。

これは、戦争ではない。

だが――

戦争に至る“前段階”だ。

誰も、まだ引き金を引いていない。

それでも、銃は、確実に向けられ始めていた。

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