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第131話 再びテイム

 個別会談が終わったあとだった。

 ラバル男爵は満足げに席を立ち、護衛と共に退出していく。

 残されたのは、ヒトシと――アーク。

 静寂が落ちた。

 外では風が森を揺らし、遠くで工房の音が微かに響いている。

 それらが急に遠いものに感じられた。

「……やはり、君か」

 アークが、低く呟いた。

 声には笑いも怒りもない。

 ただ、確信だけがあった。

「魔笛に抗い、

 奴隷魔法を無効化し、

 群れを“街”として成立させた存在」

 アークは、ゆっくりとヒトシに近づく。

 距離は、三歩。

 攻撃距離ではない。

 だが――スキル距離だった。

「ヒトシ。君は知らないだろうが」

 アークは、胸に手を当てる。

「テイマーにとって“名前持ち”は宝だ

 ましてや――統べる者は」

 視線が、粘つく。

 ヒトシは直感的に理解していた。

 これは交渉ではない。

 観察でもない。

 ――狙われている。

「君は、私の人生で最高の獲物だ」

 次の瞬間。

 アークの魔力が、開放された。

 空気が歪む。

 視界の端が揺れ、耳鳴りが走る。

【テイマースキル発動】

【完全操作】

【対象:ヒトシ】

 ――命令が、流れ込んできた。

 言葉ではない。

 感情でもない。

 **「従え」**という概念そのもの。

(……来た)

 ヒトシは、歯を食いしばる。

 意識の奥に、

 無数の“糸”が伸びてくる感覚。

 引かれれば、逆らえない。

 名前持ちであろうと関係ない。

 ――普通なら。

【警告】

【強力な従属スキルを検知】

【コミュニティ中枢への直接干渉】

 適応進化の声が、重なる。

【解析を開始します】

【対象スキル:テイマー系統】

 アークは、眉をひそめた。

「……抵抗するか。

 いい反応だ」

 だが、その余裕が――

 一瞬で消える。

「……?」

 糸が、止まった。

 いや、違う。

 ――切られた。

【完全操作:構造解析完了】

【支配権の流れを確認】

【主従関係の成立条件を特定】

 アークの目が、見開かれる。

「何を……した?」

 ヒトシは、答えない。

 ――答える必要がなかった。

【適応進化:進化段階を更新】

【テイム系スキルとの親和性:臨界値突破】

【提案】

【従属関係の上書きを実行しますか?】

 ヒトシは、迷わなかった。

(YES)

 世界が、反転した。

 糸は切られただけではない。

 ――逆流した。

「ぐっ……!?」

 アークが、膝をつく。

 頭を押さえ、呻く。

「な、なんだ……これは……!」

 彼の中で、

 テイマーとして築いてきた“感覚”が――

 崩れていく。

【支配構造を無効化】

【対象は“支配されない存在”と認識されました】

【適応進化:上位系統へ移行中】

 ヒトシの中で、

 何かが静かに書き換わっていく。

 アークは、荒い息のまま顔を上げた。

「……君は……」

 恐怖と、

 興奮と、

 理解不能な欲望が混じった目。

「テイムできない……

 いや――してはいけない存在だ」

 ヒトシは、静かに言った。

「二度と、俺や仲間に触れるな」

 アークは、答えなかった。

 だが――

 その沈黙が、すべてだった。

 この瞬間。

 テイマー・アークは知った。

 森の街フロンティアには、

 支配の外側にいる王がいるということを。

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