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第124話 適応進化とテイム

 空気が、張りつめていた。

 ヨークの前に立つ二体の魔物。

 ――グルナと、名もなきコボルト。

 だが、違う。

 “中身”が違う。

「嬉しい……嬉しいぞ!」

 グルナの口から漏れた声は、いつもの穏やかな調子ではなかった。

 喉の奥を引っかくような、妙に弾んだ声。

「ヨーク? ヒトシ?

 はは、はははっ……三体目の名前持ちじゃないか!」

 目が、違う。

 焦点が合っているのに、誰を見ているのか分からない。

 獲物を見る目だ。

 ヨークは歯を食いしばった。

「……ふざけんなよ」

 右腕に力が入る。

 本能が叫ぶ。

 ――叩け。止めろ。

 だが、体が言うことをきかない。

「グルナだぞ……!

 俺たちの仲間だ……!」

 ヒトシも、剣を構えながら動けずにいた。

 斬れない。

 当てられない。

 “敵”と分かっていても、身体が拒絶する。

 次の瞬間。

 グルナが、踏み込んだ。

 速い。

 明らかに、普段以上だ。

 岩を蹴り、体重を乗せた一撃。

 ヨークは咄嗟に受けに回る。

「――っ!」

 衝撃が腕を貫く。

 骨が軋む感覚。

 続けて、コボルトが横から飛びかかる。

 ヒトシは剣で弾くが、完全には止めきれない。

「くっ……!」

 防戦。

 ただ、それだけ。

 その瞬間だった。

【適応進化が急激に反応】

 頭の奥に、冷たい声が流れ込む。

【テイマースキルを解析中】

【従属関係を解析】

【完全操作を解析】

【視覚共有を解析】

【力の循環を解析】

 ヒトシの視界が、一瞬、歪む。

 見えた。

 “糸”だ。

 グルナと、どこか遠く。

 見えない場所と繋がる、細く、しかし強靭な繋がり。

【適応進化との親和性を確認】

 声が続く。

【テイマースキルの一部を適応しますか?】

 ヒトシは、攻撃をかわしながら、迷わなかった。

「……YESだ」

【了解】

 次の瞬間。

【支配権を上書きします】

 ――世界が、跳ねた。

 グルナとコボルトたちの身体が、同時に跳ねた。

 糸を引かれた操り人形のように、びくり、と不自然な痙攣。  

それは攻撃でも、防御でもない。

 “命令が切り替わった”瞬間の反射だった。

「……っ」

 ヨークが息を呑む。

 今まで何度も見てきた戦闘の中で、こんな反応は一度もなかった。

 グルナの瞳が揺れる。

さきほどまでの狂喜は消え、焦点が合わない。

だが――完全に戻ってはいない。

「……な、にを……」

 声が、途切れた。

 その瞬間。

【適応進化が更新を開始】

 ヒトシの脳裏に、これまでと明らかに質の違う感覚が流れ込む。

 情報ではない。  警告でもない。  命令でもない。

 ――思考そのものの再構築。

【既存スキル構造を再定義します】

【対象:テイマースキル(外部支配系)】

【結果:適応進化システムへの統合可能】

「……統合?」

 ヒトシは、思わず呟いた。

 これまでの適応進化は、

 ・剣を振れば剣に慣れる

・痛みを受ければ耐性がつく

・恐怖に晒されれば精神が強くなる

 ――常に“受け身”だった。

 だが、今は違う。

【適応進化は“技術”を理解しました】

【適応進化は“支配構造”を学習しました】

【適応進化は“意思の流れ”を解析しました】

 ヒトシの背筋が、ぞくりと冷える。

(……これ、学んでる?)

 進化ではない。  適応でもない。

 理解している。

 一方、その頃。

「――ぐ、あぁっ!!」

 森の外縁。  アークは突然、頭を押さえて膝をついた。

 視界が、ぐにゃりと歪む。  共有していた視覚が、一斉に遮断される。

「な、なんだ……!?

 俺の魔物が……!」

 ありえない。

 完全操作。  服従。  意識支配。  力の循環。

 どれも、長年磨き上げてきたテイマーの技術だ。  理論も、実績もある。

 それが――

「……切られた?」

 否。

 切られたのではない。

 上書きされた。

 しかも、暴力的にではない。  奪い取るようでもない。

 まるで――

「……“より合理的な管理者”に、

 席を譲らされた……?」

 アークの額から、冷や汗が流れ落ちる。

 テイマーとは、

 魔物を理解し、屈服させ、繋ぎ止める存在だ。

 だが今起きた現象は、

 魔物側が、支配という概念そのものを理解したことを意味していた。

「……ふざけるな」

 アークは歯を食いしばる。

「魔物が……

 “支配を学ぶ”だと……?」

 村側。

 グルナが、膝をついた。

 呼吸が荒い。  額に汗が滲む。

 だが、もう刃を振るわない。

「……ヒト、シ……」

 かすれた声。  だが、確かに自分の意思で発せられた言葉だった。

 ヒトシは、静かに頷く。

「大丈夫だ。

 まだ完全じゃないけど……戻ってきてる」

 ヨークが、唸るように言う。

「……なあ、王。

 これ、ただの解除じゃねぇよな?」

「ああ」

 ヒトシは、短く答えた。

「適応進化が……

 “適応進化そのもの”を、書き換え始めてる」

【適応進化:第二段階への移行兆候を確認】

【外部スキルの吸収・再定義が可能】

【コミュニティ保護を最優先項目に設定】

 ヒトシは、拳を握りしめる。

(……俺は、

 どこまで行こうとしてる?)

 だが、迷いは一瞬だった。

 操られ、奪われ、使い捨てられる世界を――

 見過ごすことだけは、もう出来ない。

 森の奥で、アークが低く呟く。

「……面白い」

 だが、その声は震えていた。

「ようやく見つけたぞ。

 俺の“獲物”じゃない……

 俺と同じ土俵に立つ存在を」

 戦いは、

 力比べから、世界の法則を巡る争いへと変わり始めていた。

 ――それを、誰よりも強く理解していたのは。

 ヒトシ自身だった。

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