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第122話 不思議なゴブリン

 村の外縁。

 交易路からわずかに外れた獣道で、コボルトの斥候が足を止めた。

「……止まれ」

 低く、鋭い声だった。

 前方、木々の隙間から現れたのは――ゴブリン。

 だが、違う。

 粗末な腰巻き。

 武器なし。

 動きが鈍く、視線が定まっていない。

(村の……じゃない)

 それは一瞬で分かった。

 この村のゴブリンは、もっと周囲を見ている。

 足運びも違う。

 目が、生きている。

 対して目の前のゴブリンは――

「……?」

 声をかけられた瞬間、びくりと跳ねた。

 次の瞬間だった。

「ギャアッ!? ギャギャギャギャ!!」

 突然、騒ぎ出した。

 意味のない叫び。

 腕を振り回し、後ずさり、木にぶつかり、転びそうになる。

「……なんだ?」

 コボルトは眉をひそめる。

 威嚇ではない。

 攻撃の意思もない。

 ただ――怯えている。

(知能が、低い?)

 いや、違う。

 低いというより、不自然だ。

「……何かに、怯えている?」

 ゴブリンは森の奥ではなく、自分自身の内側から逃げるように叫んでいた。

「ギャア! ギャアア!」

 視線が泳ぎ、焦点が合わない。

 まるで、見えているものが違うかのように。

 コボルトは一歩近づこうとして、止まった。

(これは……)

「もう一体呼んでくる」

 隣のコボルトが小声で言った。

「グルナ様に報告する。

 この反応、普通じゃない」

「頼む」

 仲間はすぐに森の奥へと消えた。

 残されたコボルトは、距離を保ったままゴブリンを見る。

「落ち着け。

 ここは敵地じゃない」

 言葉が通じているかは分からない。

 だが、声を荒げるのは逆効果だ。

「ギャ……ギャ……」

 ゴブリンは一瞬、声を弱めた。

 だがすぐに頭を抱え、首を振る。

「……まいったな」

 コボルトは小さく呟いた。

 この森では、

 ゴブリンは群れだ。

 単独で、しかもこんな状態で歩くことはない。

(外から、来た)

 それも――

 意図的に送り込まれた。

 ゴブリンが突然、こちらを見た。

 その目は、一瞬だけ――

 知性を帯びていた。

 そして、次の瞬間。

「ギャアアアア!!」

 再び、意味のない叫び。

 コボルトの背に、冷たいものが走る。

(……誰かが、見ている)

 このゴブリンの向こう側。

 森のさらに外。

 もっと遠く。

 ――何かが、繋がっている。

 コボルトは、ゆっくりと息を吐いた。

「……グルナ様に、急いで報告だな」

 これは、

 ただの迷いゴブリンじゃない。

 村にとって、

 新しい“異物”の始まりだった。

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