第113話 復興の森にて
森の入口に、見慣れた影が現れた。
軽やかな足取り。
背負った荷袋。
そして、ぴんと立った――猫耳。
「……あ、やっぱり」
ナンは、思わず足を止めた。
前に来た時より、道がはっきりしている。
踏み固められ、枝は払われ、
迷わず進める。
「……道、出来てる」
それも、ただの獣道じゃない。
人も荷車も通れる幅。
ナンは、にやりと笑った。
「ふふ……これは、いい匂い」
商人の嗅覚が、確かに告げている。
発展している。
村の外縁に近づいた瞬間、
コボルトの斥候が姿を現した。
「ナンさん、おつかれさまです」
「……え?」
あまりに自然な挨拶に、ナンは一瞬固まった。
「え、ええ……お久しぶり」
「どうぞ。王がお待ちです」
「……王、ね」
ナンは苦笑しながら、歩き出す。
村は、さらに変わっていた。
壊れた建物は見当たらない。
石造りの家屋が増え、
工房の煙が規則正しく立ち上っている。
「……これは」
ナンは、正直に言った。
「ちょっとした村じゃないわね」
「村というより……」
視線を巡らせて、言葉を選ぶ。
「街、かしら」
中央で、ヒトシが待っていた。
「久しぶりだな、ナン」
「ええ、本当に」
ナンは、ぐるりと見回しながら言う。
「復興、順調そうですね」
「なんとかな」
「……それどころじゃないわ」
ナンは、くいっと猫耳を揺らした。
「森と街の交易路、完成してましたよ」
ナンは、商人の顔になる。
「人が増えれば、物資も増える。
流れを管理したくなるのは当然です」
そして、少し楽しそうに続けた。
「……正直、商人としてはありがたいです」
「商人スイッチ入ったな」
「ええ、入りました」
胸を張って言う。
「人が増えれば、必要な物資も増えますから」
ヒトシは、少し表情を和らげた。
「こっちは、だいぶ落ち着いた」
「だから、街の様子を聞きたい」
「復興はどうだ?」
ナンは、少し考えてから答える。
「街も、同じですよ」
「建物は直りつつあります」
「人も戻ってきてる」
そして、ふと視線を村へ戻す。
「……ただ」
「かなり人間が増えましたね」
ヒトシは、隠さず答えた。
「元奴隷だ」
「村を攻めてきたが、今は仲間だ」
「皆、口減らしにあっていたらしい」
ナンは、目を細める。
「……なるほど」
「確かに」
猫耳が、ぴくりと動く。
「スタンピートで畑も失いましたから」
「街の食糧事情は、前より厳しいです」
「仕事も、足りていない」
ナンは、はっきりと言った。
「この村は」
「受け皿になりますよ」
ヒトシは、静かに息を吐いた。
「奪うつもりはない」
「争う気もない」
「ただ、生き残りたいだけだ」
ナンは、くすっと笑った。
「……だから、危ないんですよ」
「ヒトシさん」
「その考え方」
「人間社会では、だいぶ目立ちます」
「でも」
にやり、と口角を上げる。
「商人としては」
「かなり、信用できます」
森の中、
復興した村の音が響く。
木を削る音。
石を積む音。
笑い声。
ナンは、荷袋を下ろした。
「じゃあ」
「今回も、交易の相談といきましょうか」
「この村には」
「まだまだ、可能性がありますから」
ヒトシは、頷いた。
戦争は終わった。
だが――
流れは、止まっていない。
森と街を結ぶ道の上で、
新しい日常が、静かに動き出していた。




