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第11話 勝者の食卓

 火の勢いが、安定してきた。

 オークとの戦いが終わり、緊張がほどけた森には、奇妙な静けさが戻っていた。

 血の匂いはまだ残っているが、恐怖のそれではない。

 今は――勝利の匂いだ。

 ヒトシは、倒したオークの死体を見下ろしていた。

(……食える)

 その判断に、もう迷いはない。

 仲間を殺された。

 ならばこちらも、奪い返すだけだ。

「……解体する」

 短く告げると、ゴブリンたちが動き出した。

 最初はおっかなびっくりだった手つきも、次第に慣れていく。

 皮は厚く、脂が多い。

 だが、筋肉の質は悪くない。

 火にかけると、すぐに脂が落ち、

 じゅうっという音とともに、香ばしい匂いが広がった。

「……おお」

 誰かが、思わず声を漏らす。

 焼けた肉の表面はこんがりと色づき、

 中からは肉汁が溢れている。

 ヒトシは、一切れを手に取り、口に運んだ。

 噛んだ瞬間、

 じゅわりと脂が広がる。

(……豚肉だな)

 臭みは、確かにある。

 だが、嫌なものではない。

 野性味のある香り。

 噛めば噛むほど、肉の甘みが出てくる。

「……うまい」

 正直な感想だった。

 ゴブリンたちも、恐る恐る口にする。

 一口。

 そして、もう一口。

 次の瞬間。

「……!」

 表情が、はっきり変わった。

 歓声は上がらない。

 だが、目が輝いている。

 生き残った実感が、そこにあった。

【《適応進化》が反応】

【捕食行為を確認】

【捕食者としての成功を評価】

【適応進化:身体能力微増】

 ヒトシは、皆の様子を眺めながら、静かに息を吐いた。

(……暗くならなくて、よかったな)

 戦いは、確かに過酷だった。

 だが、その後まで沈み込む必要はない。

 生きている。

 勝った。

 そして、食えている。

 それで、十分だ。

 ふと、一体のゴブリンが口を開いた。

「……正直なところ」

 言葉が、妙に流暢だった。

「今回の戦いは、無理かと思ったぜ」

 周囲が、一瞬静まり返る。

 次の瞬間。

「俺もチビった」

「いや、あれは無理だろ」

 そんな声が、ぽつぽつと上がる。

 ヒトシは、目を見開いた。

(……喋ってる)

 単語だけではない。

 感情を込めた、会話だ。

 ゴブリンたちも、互いに顔を見合わせ、驚いている。

「……でもよ」

 最初に話したゴブリンが、肉をかじりながら続ける。

「勝ったな、俺たち」

 その一言で、空気が変わった。

 笑い声が、漏れる。

 ぎこちないが、確かな笑いだ。

【《適応進化》が反応】

【集団の精神的安定を確認】

【知能成長:軽微】

【言語能力の発達を検知】

 ヒトシは、焚き火を見つめながら、静かに思う。

(……変わったな)

 自分も。

 仲間も。

 オークの肉は、

 ただの食料ではなかった。

 勝利の証であり、

 生き残ったという実感そのものだった。

 そして。

 誰かが、冗談めかして言った。

「なあ……またオーク、来ねえかな」

 一瞬、沈黙。

 だが次の瞬間、

 笑いが起きた。

 ヒトシも、思わず口元を緩める。

「……ほどほどにな」

 夜は、静かに更けていく。

 この夜、ゴブリンたちは知った。

 奪われるだけの存在ではない。

 恐怖に縛られるだけの存在でもない。

 狩ることができる。

 生き残ることができる。

 それを、確かな味とともに。

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