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第109話 終わらせ方

 戦いは、終わっていた。

 地面には倒れ伏した戦闘奴隷たちが横たわり、武器は砕け、血と泥が混じり合っている。

 森は静まり返り、あれほど荒れ狂っていた気配が、嘘のように消えていた。

 ヒトシは、地面に座り込んでいた。

 メイの治療魔法が致命傷を辛うじて繋ぎ止めている。

 だが、全身が鉛のように重く、視界の端が白く霞む。

(……生きてる、か)

 それが奇跡であることは、嫌というほど理解していた。

「ヒトシ……!」

 サラが駆け寄り、安堵と恐怖が入り混じった表情で覗き込む。

 メリーとアンも、少し遅れて続いた。

「大丈夫だ。……まだ、死んでない」

 冗談めかして言ったつもりだったが、声は掠れていた。

 その少し離れた場所で。

 ガイウスは、膝をついていた。

 いや、立てなかったと言うほうが正しい。

 奴隷魔法の糸は完全に断たれ、支配の感覚は何一つ残っていない。

 戦闘奴隷たちは、誰一人として彼の命令に応えなかった。

 ――それが、何よりの敗北だった。

「……は、はは」

 乾いた笑いが、喉から漏れる。

「魔物に……負けた、か」

 そう呟いた瞬間。

「違う」

 声が、正面から飛んできた。

 顔を上げると、そこにはエドガーが立っていた。

 目ははっきりとガイウスを見据えている。

「負けたのは、あんた自身だ」

 ガイウスの眉が、わずかに動いた。

「……エドガー」

「俺は、あんたを信じてた」

 エドガーは、一歩踏み出す。

「昔のあんたは、違った。

 仲間を見捨てず、弱い奴を笑わなかった」

 ガイウスは、何も言わない。

「奴隷を買ったと聞いたときも……

 それでも、あんたなら何か理由があると思った」

 拳が、震えていた。

「でもな。

 今日、はっきり分かった」

 エドガーは、吐き捨てるように言う。

「俺たちは“道具”だったんだ。

 死んでもいい、使い潰すための存在だった」

 沈黙。

 ガイウスは、ゆっくりと息を吐いた。

「……それが、現実だ」

 かすれた声。

「人間社会は、そうやって成り立っている。

 奪う側と、奪われる側だ」

「だから?」

 エドガーの声が、低くなる。

「だから、正しかったと?」

 ガイウスは答えない。

 その沈黙が、答えだった。

 ヒトシは、ふらつきながら立ち上がった。

 ヨークがすぐに支えに回る。

「無理すんな、王」

「……最後くらい、俺が話す」

 ヒトシは、ガイウスの前に立つ。

 人間と魔物。

 かつてなら、考えられなかった距離だ。

「ガイウス」

 名を呼ぶ。

「俺は、自分が正しいとは思っていない」

 ガイウスが、顔を歪める。

「だがな」

 ヒトシは、続けた。

「俺たちは、こう生きると決めた」

 村の方角を、ちらりと見る。

 ゴブリン、オーク、コボルト、人間。

 混じり合い、支え合い、ここまで来た。

「奪わない。

 縛らない。

 生きたいと思う奴を、切り捨てない」

 それは、理想論かもしれない。

 だが。

「それが、俺たちの生き方だ」

 ガイウスは、歯噛みした。

「……甘いな」

「かもしれない」

 ヒトシは、静かに頷く。

「だが、今日の結果がすべてだ」

 沈黙が落ちる。

 やがて、ガイウスは立ち上がった。

 足元は覚束ないが、背筋だけは無理に伸ばす。

「殺さないのか」

「殺さない」

「後悔するぞ」

「それでもいい」

 ヒトシは、目を逸らさなかった。

 ガイウスは、鼻で笑う。

「必ず戻る。

 次は、もっと大きな力を連れてな」

「来い」

 ヒトシは、短く答えた。

「その時も、俺たちはここにいる」

 ガイウスは踵を返し、森の外へと歩き出す。

 振り返ることはなかった。

 戦いは、終わった。

 だが。

 選んだ道の重さは、これから始まる。

 ヒトシは、仲間たちの顔を見回す。

 失ったものは、多い。

 それでも。

(守るものは、残った)

 それだけで、今は十分だった。

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