表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/213

第107話 戦う準備

 準備は、静かに始まった。

 怒号も、剣戟もない。

 だが、村の空気は確実に変わっていた。

 ガイウスが去ったあと、

 ヒトシはすぐに皆を集めたわけではない。

 まずやったのは、確認だった。

 逃げ道。

 隠れる場所。

 傷ついた者の数。

 動けない者の割合。

 それらを、一つずつ洗い出す。

「……二週間」

 ヒトシは、小さく呟いた。

 長くはない。

 だが、短すぎるとも言えない。

(準備する時間は、ある)

(だが)

(余裕はない) 


 一方その頃。

 開拓団の野営地では、

 空気が明確に荒れていた。

「戦闘奴隷を集めろ」

 ガイウスは、短く命じた。

 怒鳴り声ではない。

 だが、逆らえる余地のない声だった。

 武器庫が開かれる。

 鎖が鳴る。

 人が、人を“数”として扱われる音。

 集められるのは、

 まだ動ける者。

 まだ殺せる者。

 ガイウスは、腕を組みながら考える。

(……ゴブリンロード)

(あの魔物)

 村の規模。

 石造りの建物。

 工房。

 交易の痕跡。

 そして、何より――

 統制された群れ。

(正直)

(俺一人では分が悪い)

 それは、素直な判断だった。

 だからこそ、

 戦闘奴隷を使う。

 正面からではなく、

 消耗させ、削り、踏み潰す。

(人間同士の戦いに)

(魔物が耐えられると思うな)

 ガイウスは、そう信じていた。


 村では、別の準備が進んでいた。

「第二拠点への避難路、再確認します」

 メイが、地図を広げる。

「戦闘になった場合、

 ここが最初に崩れます」

 指差すのは、

 森の外縁。

「住居は後回しでいい。

 まず人――いや、仲間を守る」

 ヒトシの声は、静かだった。

 それでも、誰も反論しない。

「元奴隷の人たちは?」

 サラが尋ねる。

「戦闘には出さない」

 即答だった。

「彼らは守る側だ。

 守る理由を、最初に失わせたくない」

 アンが、頷く。

「私が前に立ちます。

 盾役は任せてください」

 メリーも続く。

「治療と支援に集中するわ。

 無理はさせない」

 役割が、自然と固まっていく。

 誰かが命じたわけではない。

 必要だから、そうなった。


 その時だった。

 ヒトシの意識の端で、

 微かな“反応”が走る。

【適応進化が反応】

【状況解析:対人戦想定】

【敵対存在:知性を持つ人間】

【集団防衛行動を再定義】

 派手な音も、

 眩い光もない。

 ただ、理解が深まる感覚。

(……人と戦う)

(初めてじゃないが)

(本格的なのは、初めてだ)

 魔物同士の戦いとは違う。

 恐怖を知り、

 計算し、

 命を道具として使う敵。

(……だからこそ)

(準備が必要だ)

 ヒトシは、深く息を吸った。

「俺たちは、戦いたくて戦うわけじゃない」

 皆の視線が集まる。

「だが」

「守るためなら、逃げない」

 その言葉に、

 誰も異を唱えなかった。

 二週間後。

 人と魔物の価値観が、

 正面からぶつかる。

 静かな準備の時間は、

 確実に終わりへ向かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ