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第105話 宣戦布告

 夜明け前。

 村の外れで、ガイウスは一人、立っていた。

 手綱を握る手に、知らず力が入る。

 ――戻ってこない。

 奴隷たちが、誰一人として。

 命令を出しても、

 魔法の感触が、薄い。

「……チッ」

 ガイウスは舌打ちした。

 ありえない。

 奴隷魔法は、人間社会そのものだ。

 契約。

 所有。

 上下関係。

 それを根底から否定すれば、

 社会は崩れる。

 だからこそ、

 魔物に触れさせていい領域ではない。

「……面白い」

 そう呟きながらも、

 胸の奥がざわつく。

 捨てるつもりだった。

 病人も、

 怪我人も、

 老人も。

 開拓という名の口減らし。

 使い潰し。

 それだけの存在だった。

 だが――

(……俺の“所有物”だ)

 奪われるのは、話が違う。

 村の方角を見る。

 石造りの建物。

 柵と石垣。

 工房の跡。

 そして――

 ゴブリンロード。

 ガイウスは、昼間の光景を思い出す。

 堂々と立つ魔物。

 言葉を持ち、

 考え、

 判断する存在。

(……あいつ)

(ただの魔物じゃねぇ)

 群れも同じだ。

 ゴブリン。

 オーク。

 コボルト。

 統率が取れている。

 怯えない。

 逃げない。

 奪わない。

 それが逆に、

 異様だった。

(正面からやれば)

(俺一人じゃ、分が悪い)

 ガイウスは、冷静だった。

 怒りはある。

 屈辱もある。

 だが、冒険者上がりだ。

 勝てない喧嘩はしない。

 ましてや相手は、

 ゴブリンロードとその群れ。

 無傷で勝てる相手ではない。

(……戦闘奴隷だ)

(あれなら)

(数で押せる)

(命を惜しまない)

 そう考えた瞬間、

 怒りが、はっきりと形を持った。

 ガイウスは、村へ向かって声を張り上げる。

「おい! ゴブリンロード!」

 村の門が開き、

 ヒトシが姿を現す。

 その背後には、

 仲間たち。

 警戒はしているが、

 攻撃の構えではない。

 ――それが、気に入らない。

「俺はな」

 ガイウスは、笑った。

 だが、その目は笑っていない。

「お前の言う理想の世界に」

「一度だけ、付き合ってやった」

「奴隷に飯を食わせ」

「治療もさせ」

「寝床まで与えた」

 肩をすくめる。

「結果がこれだ」

「奪われた」

「俺の“財産”をな」

 ヒトシは、静かに答える。

「彼らは」

「自分で、ここに残ると選んだ」

 その言葉に、

 ガイウスの顔が歪む。

「選ぶ?」

 鼻で笑う。

「選べるわけがない」

「奴隷に意思などない」

「使えるか、使えないかだ」

 そして、吐き捨てる。

「どうせ、あいつらは死ぬ運命だった」

「お前が少し延命しただけだ」

 その瞬間。

 村の空気が、凍りついた。

 ガイウスは、一歩前に出る。

「安心しろ」

「今すぐ、潰したりはしない」

 内心では、

 今は無理だと分かっている。

 だからこそ。

「二週間だ」

「二週間後」

「戦闘奴隷を率いて、ここに来る」

 はっきりと、宣言する。

「正々堂々だ」

「人の権利を語る魔物」

「人と同じ顔をする異端」

「まとめて、叩き潰す」

 それは、

 宣戦布告だった。

 ガイウスは、背を向ける。

 だが、最後に一言、残す。

「その時までに」

「逃げる準備でもしておけ」

「……出来るならな」

 そう言って、去っていった。

 ヒトシは、その背中を見送りながら、

 拳を握りしめていた。

(……来る)

(本気で)

 数の差。

 戦闘奴隷。

 この村が、

 正面から耐えられるとは思えない。

 だが。

(……第二拠点)

 山岳地帯。

 避難路。

 要塞。

 頭の中で、

 地図が浮かぶ。

 ヒトシは、静かに息を吐いた。

(守る)

(今度は)

(守るために、戦う)

 宣戦布告は、

 終わりではない。

 始まりだった。

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