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第100話 招かれざる客

 開拓団が村の外縁に姿を現したとき、森は静まり返っていた。

 武装した人間は数えるほどしかいない。

 その大半は疲弊し、隊列も乱れている。

 だが――数は多い。

 ヒトシは、柵の内側からその様子を眺めていた。

(百人規模……)

(侵略ではない)

(だが、無視できる存在でもない)

 彼は、すぐに結論を出した。

「入口まで招く」

 周囲がざわつく。

 サラが一歩前に出る。

「話し合うつもり?」

「そうだ」

 ヒトシは頷いた。

「ここで追い払えば、森のどこかで問題を起こす」

「受け入れる気もない」

「だが、相手の意図は知る必要がある」

 それは、ゴブリンロードとしての判断だった。

 村の入口。

 石造りの門の前に、開拓団が集まる。

 その中心にいたのが――ガイウスだった。

 年の頃は四十前後。

 傷の残る体。

 だが、姿勢と目つきは、元冒険者のそれだった。

「……ほう」

 ガイウスは、門と柵、背後に見える石造りの建物を一瞥する。

「随分と、手の込んだ“巣”だな」

 言葉は穏やかだが、視線は値踏みしている。

 ヒトシは一歩前に出た。

「この村の代表だ」

「話がしたい」

 ガイウスは笑った。

「魔物が、話し合い?」

「いやぁ……面白い」

 その声音に、敵意はない。

 だが、敬意もない。

 興味――それだけだった。

「で?」

「俺たちを招いた理由は?」

「開拓か」

「それとも、取引か?」

 ヒトシは、短く答える。

「確認だ」

「お前たちが、ここで何をするつもりか」

 ガイウスは肩をすくめた。

「開拓だよ」

「森を切り、畑を作る」

「人が住める場所に変える」

 その言葉に、ヒトシの背後で空気が張り詰める。

「……この森は、我々の住処だ」

 ヒトシの声は低い。

「無断で踏み込むつもりなら、看過できない」

 ガイウスは一瞬だけ目を細め――すぐに笑った。

「はは」

「なるほど」

「そう来るか」

 そして、あからさまに言った。

「だがな」

「魔物が住んでいようが、森は森だ」

「人間が必要とすれば、切り開く」

 ヒトシは、その言葉を噛みしめる。

 まだ、断定はしない。

 だが――

(ズレている)

 根本的に。

 ガイウスは、話を続けながら周囲を見回していた。

 工房の煙突。

 乾燥棚。

 整えられた動線。

(……交易しているな)

(武器か? 家具か?)

(石造り……金になる)

 計算は、早かった。

 表情には出さないが、内心でははっきりと結論を出している。

(奪えば、儲かる)

 その視線を、ヒトシは見逃さなかった。

「……今日はここまでだ」

 ヒトシは、話を切り上げる。

「開拓を始める前に」

「話し合いたい」

 ガイウスは、楽しげに頷いた。

「いいだろう」

「魔物と人間が、対等に話し合う場……か」

「もっと踏み込んだ話をしよう」

 その言葉に、含みがあった。

 ヒトシは確信する。

(和解は)

(簡単ではない)

 だが、この時点では――

 まだ、決裂とは言えなかった。

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