表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/127

第1話 ゴブリンかよ

 視界がやけに低い。

 いや、低いというより、世界そのものが大きい。草の一本一本がやけに主張してくるし、木の根は人の太腿ほどもある。空気は湿っていて、鼻につく青臭さがあった。

「……なんだ、ここ」

 声を出した瞬間、違和感に気づく。

 声が、低い。

 喉の奥で鳴るような、掠れた声だった。

 嫌な予感がして、自分の手を見る。

 ――緑色だった。

 小さく、節くれだった指。爪は黒く硬い。肌は人間のそれではない。

「……は?」

 慌てて体を触る。腕も脚も短い。筋肉はあるが、しなやかさよりも粗さが勝つ体つきだ。腹のあたりには、妙にしぶとそうな皮膚の感触がある。

 理解が、遅れて追いついた。

「……ゴブリン、かよ」

 どうやら俺は、事故で死んだらしい。そこまでは分かる。問題はその先だ。異世界転生。よくある話だ。だが、なぜゴブリンなのか。

 人間ですらない。

 勇者でも、貴族でも、せめて人型の何かですらない。

「異世界転生って……普通、もうちょっとこう……」

 文句を言っても仕方がない。現実は変わらない。俺はゴブリンで、ここは森の中だ。

 周囲を見渡すと、同じような緑色の体をした存在がちらほら見える。数は……三十ほどか。簡素な巣穴のような集落があり、木の枝と草で作られた寝床が点在している。

 なるほど。

「……弱いな、この村」

 自然と、そんな言葉が口をついた。

 武器らしい武器はない。棍棒とも言えない木切れが数本あるだけ。装備も皆無。知能も高くないらしく、周囲のゴブリンたちは意味のない声を上げたり、ぼんやりと地面を掘ったりしている。

 中心には、少しだけ体格のいい個体が一体いる。おそらく、ゴブリンリーダーなのだろう。

 だが――弱い。

 外敵が来たら、ひとたまりもない。オークどころか、獣に襲われても終わるだろう。

 その瞬間、理解した。

 ここは、詰んでいる。

 ゴブリンという種族は、弱い。

 数が多いだけで、知恵も力も乏しい。

 冒険者にとっては経験値でしかない存在だ。

 つまり。

「……とにかく、生き残らないといけない」

 高尚な目的なんていらない。

 世界を救う? 無理だ。

 人間と仲良く? 夢物語だ。

 まずは今日を生きる。

 次に明日を生きる。

 それだけでいい。

 腹が鳴った。

 見ると、近くのゴブリンが木の実のようなものをかじっている。渋そうな顔をしているが、食べられないわけではなさそうだ。

 ――食料の確保。

 ――安全な場所。

 ――敵から逃げる手段。

 考えるべきことは山ほどある。

 だが、不思議と恐怖はなかった。

 人間だった頃よりも、頭が冴えている気がする。余計な感情が削ぎ落とされ、必要なことだけを考えられる。

 そのとき。

【スキル《適応進化》を獲得しました】

 脳裏に、無機質な声が響いた。

「……適応、進化?」

 意味は分からない。だが、嫌な感じはしなかった。

 むしろ、しっくりくる。

 弱いなら、適応すればいい。

 不利なら、変わればいい。

 ゴブリンであることを嘆くより、

 ゴブリンとして生き残る方法を探す。

「よし」

 小さく頷く。

「まずは、生きる」

 それだけを目標に、

 俺の――ゴブリンとしての人生は始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ