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運の悪い俺は、今日も湾岸の地下へ降りていく  作者: シドロンモドロン


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第22話 魔法

「生きてるか!」


叫んだ拍子に粉塵が肺に入り、むせ返る。

ライトの輪の中で瓦礫が落ちてまた粉が舞った。


「……なんとか!」「……っぶねー!」「ほんとヤダ……!」「はぁ、はぁ、死ぬかと思いました」


俺はシールドを頭の上に掲げて瓦礫へ近づき、隙間に目を凝らした。


「大熊さん!危ないですよ!」

「境と吉永さんは!」

「後ろです!崩落で塞がってます!」


日向の叫びが背中に刺さる。

嫌な想像が勝手に膨らむ。潰れて、埋まって、声も――


「境、無事です!」


求めていた声が聞こえた!少し心が軽くなる。


「よし! 吉永さんは!」


瓦礫の向こうへ呼びかける。

――返事はない。


瓦礫の隙間に、弱いランプが一つ見えた。

もう一つは見えない。

胸がどくんと跳ねる。


『吉永!どうした!――吉永!クソ!大熊!聞こえるか!』


森山隊長の声。通信が生きている。

ありがたい――と思ったのは一瞬だった。


「――はい!大熊聞こえます!」


隊長は俺への確認を最小限で切り上げ、境へ問いを投げる。


『大熊には確認した。境、そっち何人残ってる』

『――2人。いや、1人です。吉永さんが――』


空気が止まる。


『……了解。後ろ側は完全に潰れてる。救出は無理だ。今は生きてる側を帰す』


――そういうことか。

頭が理解したつもりだが、追いつかない。

あっけない。なんてあっけないんだ。


周りを見れば、皆、黙っている。

日向も、榊さんも、三宅も、高梨も。


『……了解』


境が単独でC2へ向かう指示が出る。

淡々とした声が続くのを聞いていると、逆に落ち着いてくる。

いや、落ち着こうとしているだけかもしれない。


だが、なんであんなに淡々と行けるんだ?

目の前で一人死んだんだぞ?


そんな感情も境と隊長の話し声を聞いていると、不思議と落ち着いてきた。

そうだ、俺も心を強く持て。大丈夫だ。

回廊で命を懸けて稼ぐってのは、きっとこういう事じゃないか。

しょうがない。しょうがないんだ。


前を向くと、ふらふらと日向が瓦礫に近づいていく姿が見えた。

瓦礫に手を伸ばしている。

二次災害。

そんな言葉が頭をよぎり、急いで近づいて肩を掴む。

瓦礫を触ったところで止めることができた。


「日向、進もう。皆いいな?」


榊さんが頷き、三宅が短く息を吸う。

高梨が口を開きかけて、言葉にならない言葉が響く。

日向だけが、少し遅れて頷いた。


その瞬間だった。


「……っ」


声にならない声。

日向の膝が折れ、ふらりと身体が壁にぶつかった。

三宅が心配そうに肩を抑える。


「日向さん!?」


日向は片手で口元を押さえ、苦しそうにくの字に体を曲げている。

息を吸おうとして、吸えない。

目が泳ぐ。焦点が合っていない。


「大熊さん……ごめん、これちょっと、無理」


弱音…とは違う。諦めに近い声だった。


「日向…辛いかもしれんが…」


相当ショックだったのだろうか。

さっきまでいた人間が急に消えたからな。


いや、悲しんで泣いているのとは様子が違う。

おかしい。苦しそうだ。

榊さんが日向に促す。


「座ってください。皆さん、周囲の警戒を」


俺は通路の中央にシールドを立て、背中で壁を作った。

最低限の位置確保のつもりだった。


高梨と三宅が通路の少し先へ立ち、シールドを構えた。

榊さんが周囲を確認しながら、声を落とす。


「吐き気? 眩暈?」


日向は頷こうとして、頷けずにそのまま吐いた。

粉塵と胃液が混ざった臭いが、湿気に乗って広がる。

高梨が慌てたように荷物を漁ってタオルと水を出していた。


日向は笑おうとして、口角だけが引きつった。


「崩れたとこ触ってから…頭がキーンとして…二日酔い……みたい

 ……頭が、ぐらぐらする……」


次の瞬間、日向の身体が跳ねた。


「……っ、あ……!」


喉が閉まる。

息が吸えない。

胸が上下しているのに、空気が入ってないかのようだ。


目だけが大きく開いて、涙が滲んでいる。

内から湧き出る気持ち悪さと戦うように胸に手を当て

何かを拒むように頭も抑えている。


俺は反射で日向の手を押さえた。


「日向、こっち見ろ。息。吐け」


日向は頷けず、短く短く、喉を鳴らすだけだった。

吐いて、吐いて、吐いたあと、やっと息が入ったようだ。


「……なに、これ……」


日向の声が震える。

震えながら、怒っているようにも聞こえた。


榊さんが鋭い視線で日向の様子を伺っていた。


「毒か病気か…判断できません。

 情報が足りない、まずは戻りましょう」


大熊は無線を入れた。さっきは繋がったんだ。きっと繋がる。

よし、応答があった。


「森山隊長、日向が倒れました。意識はありますが、かなり悪そうです。

 俺が担いで出口を目指します」

『…そうか、了解した。各自フォローに回りつつ撤退だ』

「了解です。日向、歩けるか?」


日向は目を閉じたまま、ゆっくり頷いた。

辛いのだろう。歯を食いしばった音が聞こえてきそうだ。


「歩く。……倒れたままは、嫌」

「よく言った」


大熊が肩を貸す。

日向は一歩目でまたふらつき、軽く吐いた。

そして、フラフラと足だけを動かして進み始めた。



進んでいる途中、遠くで床を掻く音がする。

カラカラ、カラカラ、と乾いたものを引き摺る音。

ぴたぴたと複数の足音。

ライトの輪の端で、影が低く揺れる。


「え?」


その声は、誰だったか。

角から顔を出したのは小柄な二足歩行、醜悪な緑の顔、みすぼらしい服。

ゲームでよく見る小鬼だった。


「ゴ、ゴブリン!?とうとうファンタジーかよ!」


高梨の声が何故か嬉しそうだ。

だが、すぐに顔を青くする。


多い。


1、2、3⋯⋯見えるだけで7。

マズイ。多すぎる。


俺はゆっくりと三宅へ日向を預けシールドを前に出し構えた。


榊さんが日向と三宅を壁際へ寄せる。

三宅は震えながらもシールドを構えた。

高梨もナイフに手をかける。


小鬼達がこちらに気づいたようだ。

日向に視線が集まってニヤニヤ笑っている気がした。

嫌な未来が頭をよぎる。

小鬼たちが声を荒げ、威嚇するように何か叫んでいる。


「オ、オオオオオォォ!」


大熊はシールドを強く握り直し、負けじと声を張り上げる。

せめて何か効果があれば儲けものだ。

だが、効果は薄い。

ジリジリ、ジリジリと近づいてくる。


ガツン!

ボコン!


構えた俺のシールドに何かが当たり、ぽとりと落ちた。

岩だ。

あいつら、投石してきやがった!


矢継ぎ早に何かを放り投げてきやがった。


ゴン、ガキン、ボコン


手当たり次第に岩や瓦礫も投げていやがるのか?

後のメンバーもシールドで防いでいるが、このまま動けないのはまずい。


榊さんが叫んだ。


「大熊君!高梨君!三人で固まって前に出ます!

 三宅君は日向さんと防御態勢!」

「了解!出るぞ!シールド下げるな!体出すな!脇締めろ!

 訓練でも飛び道具対策で練習したろ!思い出せ!」


俺には射程の短いナイフぐらいしか攻撃手段が無い。

あとはシールドでぶん殴るぐらいだ。


アタッカーは境の短槍と榊さんの簡易槍。

森山隊長の後釜に入った吉永さんが兼ねていた。


何とかしなければ。

そんなことを考えた時だった。


ガツン


「ぐぅ!」


日向の声だ。当たったのか。


「落ち着け!一匹ずつ処理するぞ!」


俺が視線だけ日向に向けると、日向がふらつきながら片手を上げた。


「痛ったいなぁ!いい加減にして!!」


ぼひゅう


「あっちぃ!」


少し間の抜けた音と高梨の声。

日向の手から炎の線が放たれた。


高梨の横を掠めたらしいが、すでに先頭の小鬼に着弾していた。


ボジュウゥゥウ!!


激しい音とともに小鬼の半身を焼く。

ギャギャギャーー

バタバタと転がる小鬼を見て、周囲の小鬼は慌てているようだ。


「い、今です!」

「…おぉ!」


榊さんの号令で俺と高梨と3人で猛然と飛び出す。

その勢いと燃える小鬼を見て、他の小鬼たちは声を上げながら逃げ出した。


燃えて転がる小鬼を足で抑えつけ

俺はシールドのフチを首目掛けて振り下ろした。


ゴキン


ぐひゅ


聞きなれない音と共に、小鬼が砂になり、塵になって消えていく。

後には見慣れない指先サイズの光る石。

榊さんが怪訝な顔をしながら石を回収し、日向を見返す。


なんだったんだあれ。


日向は自分の手を見て固まっていた。

肩を貸している三宅も口を開いて日向の顔を見つめたままだ。


日向はそのまま口を手で押さえ、また辛そうにしている。

高梨が先に息を吐く。


「……今の、なんだよ。

 横すり抜けてったとき、めっちゃ熱かったぞ。」


日向は首を振った。


「わかんない……勝手に……。それに、さっきよりしんどい」

「……でも、いま確かに、なんか出ましたね。データ取りたかった」


三宅が小さく言った。

榊さんが続ける。


「皆さん。考えるのは後にしましょう。今は帰ることが先です」


大熊は頷いた。


「…そうだな。わからんことを考えても無駄だ。今は進もう」


日向は目を伏せて、短く「うん」と呟いた。



再度隊列を組み、前へ進む。

榊さんが無線で何度か報告をしたが、応答はなかった。

ノイズだけが響く。


榊さんが暫定的に指揮をとることになり前に進む。


前から高梨、榊さん、肩を貸す俺と日向、三宅が殿だ。

俺に掴まりながら、日向が悪いねと呟いた。

今、実質マトモに動けるのは4人。


高梨がボヤく。


「ボーナスでも貰わなきゃやってらんないわ」


そんな軽口に、少し空気が軽くなった。


あれから揺れや崩落は無い。だが、やはり普通じゃない。

目印が薄くなったり、妙に新しく見えたりする。

俺の目のせいかもしれない。


角を曲がった気がするのに、景色が違う気がする。

体も心もしんどい。

だが、進むしかない。帰りたい。


立ち止まりたくなるたび日向の荒い呼吸が聞こえて

突き動かされるように足が前へ出た。


また何かいる。

今度はなんだ。

俺はしっかりとシールドを持ち直した。



どれだけ歩いたか。

いくつかの戦闘を乗り越えた。


何度も遭遇している犬っぽいのもいたし、でかい昆虫もいた。

全て少数だったため、追い払いながら何とか進む。


知ってるはずの道が永遠に感じる。

本当に進んでいるのか?

回廊の電灯が相変わらず無機質に光っている。

この電灯、回廊ができた当初からあるらしい。

意味が解らない。


あ。

通路の先に違う光が見えた。

あれは、見慣れたエレベーターホールの光だ。

多分そうだ。

そのはずだ。


いや、油断するな。

安心した瞬間がいちばん危ない。

シールドを下ろさずに周囲を見回す。


生きて帰る。


それだけだ。

光の先から、隊長の声が聞こえた気がした。

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― 新着の感想 ―
ワクワクしてきたな。
とうとう魔法使えるように……またよくわからない壁のシミがたまにスキルゲットみたいなまるでダンジョンの作成過程のような 実はずっと工事中だったのか?電灯も初期からあるの怖えよ
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