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1話

 


 王城の大広間は、幼い声と笑い声で満ちあふれていた。


 王族や貴族の子どもたちに交じり、兵士や職人の子どもたちも集められ、総勢四十名ほどの子どもたちが織りなす賑わいに、格式高い広間もどこか柔らかい空気をまとっている。


 中央に設えられた長大なテーブルには、銀の大皿に盛られたご馳走が所狭しと並んでいた。仔豚の丸焼き、芳醇なチーズ、蜂蜜をたっぷりかけた菓子パンまで、豪奢な料理が子どもたちの目を輝かせる。


 その中で、手にした真っ白な皿の上に何も乗せず、部屋の隅の椅子にひとり座る少女がいた。


 第十二王女リナ。


 小食で偏食のために痩せすぎていて、おまけに人見知りでもある彼女のために――いや、彼女を矯正しようとするお節介な誰かによって――開かれたこのパーティーは、リナにとっては地獄のような時間だった。


 周囲をそっと見回し、誰も近くにいないことを確かめてから、リナはまた小さなため息をつく。あとどれくらい我慢すれば終わるのだろうか。


 その時、甲高い声が響き渡った。


「ちょっとあなた!」


 顔を上げる前から、教育係マチルダの声だと分かった。


 地味な色のドレス、髪をきっちり撫でつけて後頭部でお団子のようにまとめた、いつもの姿。規則を何よりも重んじ、曲がったことを許さない彼女は、王女に対しても容赦なく厳しい。


「あなたはこの場を何だと心得ているのですか!野生動物のように貪ったりしてみっともない!恥を知りなさい恥を!これだから平民は!私は最初から反対していたのです、碌な教育も受けていない平民がこの場にいることには!」


 静まり返った視線の先には、あまり上等とは言えない服をまとった赤髪の少年がいた。


 ――かわいそうに。


 マチルダの言葉は正しい。いつも正しい。けれど、それを武器にして言い過ぎるのもまた常だ。リナは少年に同情し、自分と重ねてしまった。だが次の瞬間、予想外の行動に目を見開く。


「ちょっとあなた!私が話しているのだから、食べるのをやめなさい!」


 少年は一瞬顔を上げただけで、食べ続けたのだ。


 もし自分なら、恥ずかしさに耐えきれず席を立ち、部屋に閉じこもって泣いていただろう。だが彼は違った。


 注がれる視線をものともせず、皿をきれいに平らげた少年は、それをテーブルに置き、吐き捨てるように言った。


「黙れババア!」


 マチルダが息を吸い込み、金切り声をあげるよりも早く、少年の手が伸びる。彼女の後頭部でまとめられたお団子髪をがっちりと掴んだ。


「ひゃっはー!」


 盗賊のような叫びと共に走り出す。マチルダの髪をつかんだまま。


「ちょっとあなた!やめなさい!」


 悲鳴、歓声、笑い声。


 大広間は混乱に包まれる。その中でリナは思わず立ち上がっていた。――なに、この人……。こんな行動、考えたこともなかった。


 少年は力強く、そして結構なスピードでマチルダを引きずっている。どこかで見たような光景だと思ったら、馬だ。ああやって引かれていく馬の姿を何度も見たことがある。


「お前もこいつのこと嫌いなんだな」


 少年は部屋の隅に立ち尽くしているリナの前で一度立ち止まり、言った。


「え?」


「笑ってるぞ。パーティーが始まってから、初めてだ」


 日焼けした顔で笑う少年を前に、リナは言葉を失った。なんと返したらいいのか分からなかったし、大人たちが騒ぎを聞きつけて一斉に駆け込んできたからでもある。


 数人がかりで少年の手を引き剥がすのに、大人たちはずいぶん苦労していた。


「あー、すっきりした。動いたら腹減ったんだけど、まだ食ってもいいか?」


 騒ぎの中で、とんでもないことを言って大人たちを黙らせていた。この人は違う。今まで出会ってきた人とは全く違う。


 背中に震えが走った。


 目が合った少年が大きな手柄を立てた英雄のように、ガッツポーズをして笑っている。


 ――これが、リナとドゴランの出会いだった。






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