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脱走

作者: euReka

 123回目の自殺だった。俺は、点滴の針を抜いて機関銃を構えた。引金を引くと病室中が穴だらけになった。俺は壊れた窓ガラスに向かって助走し、地上456階の病室から朝の光の中へ飛びこんだ……

「何回やっても同じことよ」

 眼帯をした女の子は月曜日のバナナを頬張りながら、ベッドに横たわる俺を見下ろしていた。

「あなたも食べる?」

 女の子は、包帯の巻かれた俺の手に火曜日のバナナを握らせた。

「じゃあ君は何回自殺したんだ」

「この間、医師とかナースの前で78回目のピストル自殺をしたわ。でもあいつら、顔色一つ変えなかった」

 病室の窓からは、飛行機や、渡り鳥や、水曜日の無力感なんかがゆっくりと移動しているのが見える。

「あたし、ずっと考えていたことがあるの」

 眼帯の女の子は、病室のカーテンにぎゅっとくるまりながら俺を見た。

「でも、すごくヘンテコなの」

「教えろよ」

 女の子はカーテンの中から、印籠を見せるような感じでバナナを出した。

「ここから、脱走する方法よ」


 俺たちは出来る限りの準備を整えると病棟の出口へ向かった。途中で、守衛の男に声をかけられた。

「お前ら、ずいぶん楽しそうだな」

 眼帯の女の子は、木曜日のバナナと金曜日のバナナをモミアゲ風に、俺は土曜日のバナナをチョンマゲ風に頭にくくりつけていた。

「あたしたち、脱走するの」

「なんだって?」

 話はすぐに伝わり、出口のまわりに医師や守衛たちが集まってきた。

「いったい何のつもりだ」と一人の医師が俺たちに問いただした。

 俺は手に持った日曜日のバナナに、ライターの火を近付けた。

「よせ!」

 医師の顔はみるみる歪んでいく。

「君たちは病気なんだぞ!」

「あんたもな」

 出口のロックが解除され、俺たちは口笛を吹きながら病棟を抜けだした。9歩だけ呑気に歩いたあと、お互いに顔を見合わせて走り出した。

「ねえ、追いかけてくるよ!」

 俺たちは、モミアゲバナナやチョンマゲバナナを投げてやつらを遠ざけた。そしてエレベーターに飛び乗ると、俺は最後のバナナに火を点けて外に放り投げた。

「伏せろ!」

 急降下するエレベーターの中で、俺たちは乾いた空のような爆発音を聞いた。

「君、生きてるか?」

「うん。でも生きてるって、どんな気分なの?」

「さあな」

 俺は今朝の自殺を思い出した。

「なんかさ」女の子は、はねた髪の毛を指先でつまんだ。「すごくヘンテコな気分だね。生きてるって」


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