2ー10:鬼パンツ覚醒
「ウォオオ」
鬼パンツも雄叫びをあげ、狼たちを向かい撃つ。
巨大な一撃を放つ。その瞬間雪が舞う。
「グル?」
しかし、屠ったと思ったのはあくまで雪でつくられた虚像であった。
その粉塵の中、きらめく牙が次々と赤い巨人へ襲いかかる。
鬼パンツは4匹以上のフェンリルと格闘している。腕や足を噛みつかれ、鮮血が雪に散る。
「くそ。ウマモドキ頼む! 加勢してくれ」
自分では何の力にもなれない。しかし、こいつはまだ力になる。
そう言って、雪の上に転がると「ヒヒン」と嗎、狼の群れへと向かっていく。
「抱きしめて、キスミー!」
チューンの指を赤く、血が滲みながら演奏を続ける。
今度はダストたちが雪から無数に這い出て、黒い波のように狼へ襲いかかる。しかし、この温度のためか動きは遅い。
「ワオーン、ワオーン!」
リーダーらしき巨大な狼は再び雄叫びを。
すると、チューンたちを襲った狼の群れはダストの黒い波から方向を変え、鬼パンツの元へ向かっていく。
「まずい。このままでは」
鬼パンツに向かってさらに狼が群がる。とうとう耐えきれず、ドシンと大きな音を立て雪の中へ倒れこんでしまった。
「このっ」
チューンはぶん、とハープを振るう。その向きの方へダストたちの波は向かっていく。しかし、その間も血飛沫が上がる。
まずい。このままでは。
自分に何か。何かできることはないか。
しかし。俺には音力がない。楽器を召喚することもできなければ、チューンやドライブのように戦うこともままならない。
では、俺に何ができる。
曲。皆が知らない曲を教えるだけ。
曲。そうか。
ダメもとではあった。しかし。
「チューン!。この曲を弾いてくれ。『おに〜パンツは良いパンツ!』これを繰り返してくれ『すごいぞ〜、つよいぞ〜』さあ!」
「へ?」
必死に演奏を続ける彼女は間抜けな返事をした。
「おに〜パンツはすごいパンツ〜」
「は、はい!」
なぜ極寒の地で前世で聞いた童謡を。国民的な児童曲を歌っているのかそれは俺も分からない。だからこそチューンはさらに自体は分からないだろう。
しかし、俺が名付けた「鬼パンツ」の名前の由来となった曲。それはあいつと意気投合した曲でもある。
俺ではなくとも、音力のあるチューンであれば。何かの作用はできるのではないか。そんな淡い期待を込め歌ってみせた。
そしてチューンは自分の震える歌声を汲み取り、ハープで演奏を開始。
聞き馴染んだ明るい音色が修羅場に広がる。
その瞬間。
「グルァアアアアアア」
巨大な雄叫びとともに覆いかぶさった狼たちは一気に空中へぶっ飛んだ。
そしてむくり、と立ち上がる鬼パンツ。傷はほとんど塞がっている。それだけではない。体はさらに巨大化しており、5メートルほどの大きさが倍以上になっていた。
その青い一つ目はいつもの青色の中に、まるで宇宙の星空のように煌めく光が無数に灯っていた。
「グォオオラアア!」
今度は鬼パンチは地面に腕を突き刺し、歯を食いしばりながら力む。
すると、ぐらり、と自分の足も揺れる。
鬼パンツは真っ赤な顔をさらに真っ赤にさせる。するとその周辺の大地そのものが浮かび上がる。地面ごと持ち上げたのだ。
「フンッ!」
そして、鬼パンツは大地そのものを放りなげる。
「キャン、キャン」
もはや逃げる子犬と化した狼たち。なんとか走って、その隕石から逃げることしかできない。
「グォオオ」
さらに両の手を広げる。すさまじい力を見せつけた鬼パンツ。
「凄い。サイクロプスにあの曲が強力な響励を与えた?」
ボスのフェンリルはさらに何度か吠える。
散り散りとなった狼たちは、その声に従い自分たちから離れ、ボスの周りに一度逃げていく。
「また来ます!」
チューンも身構える。
狼たちが再び襲わんとした瞬間。
「待て!」
女の声が響いた。
その瞬間、飼い慣らした犬のようにフェンリル達は座り込む。
後ろを振り向く。
雪のように白い長髪、整った顔立ち、特徴的な尖った耳。雪雲のような灰色のローブを被った女性がそこにはいた。
「あんたは?」
「私はメーデン。フロスト・メーデン」
水色の透き通った目がこちらを見ていた。
<ちょっと用語解説>
・響励:音力を使ったバフのようなもの




