1−21:魔物襲来
「……これから、どうします」
ポルト・アリアから離れ深い森の入り口に差し掛かった時、チューンは隣に駆け寄ってきた。
「とりあえず。ここの人達が向かう先に奴がいる、ってことでよいんだよな」
すぐ近くにはクリストムが、さらにその後方には200人の兵士が遅れて歩いている。
会話もなるべく小さくしなければならない。
「私めの想像でお話しすることお許しください。この人数を召集するということは、少なからず潜伏先の大まかな位置は掴んでいるんでしょう。ですが、人間にはヒビキをしっかりと把握するほどの力はありません。そのため、人海戦術に臨んでいるのかと」
彼女の言う通りだと思った。しかし、このまま彼らと一緒に行動して、同じタイミングでドライブたるデーモンを発見したとしても、もはやその時に戦闘が始まってしまう。それでは遅い。
「バフォメットは音力を感知できるって言ってたよな。それでドライブの居場所を先に掴むことはできないか」
「やってみます」
二人でコソコソ話をしている時、ふと気配が過ぎる。
「なかなか君たちは仲が良いんだね」
石鹸の匂い。それを先ほど隊長と名乗った男。ヘリオとか言ったか。
「な、なんだよ」
「いや。なかなか面白い気配をしている男女だったし。それに同年代かなとも思って声かけたのさ」
ヘリオはゆっくりと並走する。
「——なんなの。こいつ」
チューンは思わず吐露する。その悪態にヘリオも気づいたらしいが、さらに笑みを強めた。
「まあ。そんなことを言わないでよ。君たちはどこの街出身なの。ポルト・アリアじゃないよね。港町の人間にしては肌が焼かれていない」
「出身……」
嫌な質問をしてくる。ヘリオの緑の目が品定めをするように見つめる。
「ビャッコウ……だ」
「おっと。首都出身か。それだと僕と同じだ。いや同郷がいるなら心強いね」
ヘリオは同じ歩幅で森を進む。
「ヘリオ」
中々彼をことが撒くことができないなか、小柄な少女が近づいてきた。
「魔物がいる。ヒビキを感じる気をつけて」
ヘリオはその少女を横目で見る。そして手を大きく上げる。
「おしゃべりはここまで。全隊止まれ」
ヘリオの目つきが変わる。
隣にいるチューンを見る。彼女もまた頷く。
「この感覚。ハウンドドッグの群れです。魔界を外れた魔物には、真王様のことは分からない。襲われるかもしれません。ご心配なくマオ様は私が守ります」
クリストムも含めパーティのメンバーも構えた。それぞれが光り輝き楽器を召喚し始める。
音力を感じることなどできない俺でも分かる。
何かが、それもかなりの量が迫っている。
「う、うわぁ」
後方にいたパーティの男が叫び声を上げた。
人よりも一回り大きい黒い犬が覆い被さっている。
「魔物だ! 皆気をつけろ!!」
どこかで叫び声が。
「くそ」
クリストムはトランペットを強く吹く。すると彼にオーラが纏われる。そして、ハウンドドッグたる魔物を殴りかかった。
すると魔物はキャウン、と弱い声と共に吹き飛んでいった。
「強響ですか」
チューンは呟く。
「マオ様。気をつけて。来ます」
彼女も指を鳴らしハープを召喚する。そして彼女の読み通り、魔物が3体走り向かってくる。
「狂想曲第9番。仮想の山猫」
ざっと彼女が弦を弾く。するとダスト達が草木の端から湧き出て固まる。そして虎のような漆黒の猫が現れる。
そしてそれはザン、ザンと巨大な爪で魔物を薙ぎ払っていく。対して後ろの兵隊達は中々苦戦しているようにもみえた。
「ガウガウッ」
気を取られた瞬間、魔物は眼前に迫っていた。
「うわ。うわっ」
真っ赤な瞳。そして巨大な牙が眼前にっ。
「マオ様っ……!」
チューンが叫ぶ。その牙が自分の目に刺さりそうになった時、急に目の前の魔物の力が抜けた。
それが崩れさったた時、バイオリンの弦を剣のように構えたヘリオの姿が見えた。
「——これで48」
彼は倒した魔物を数えているようでもあった。ヘリオが助けてくれたのだ。何とか助かった。
しかし。
周りを見る。かなり悪戦苦闘しているようにも見えた。それは自分も同じ。
次々と襲いかかるハウンドドッグという魔物を倒していく。しかし、俺は何もできない。むしろ足手まといだ。
これが、真王いや魔王だというのだろうか。俺は、何かができるのだろうか。
鬱蒼とした森の中での戦いが続く中、自分の無力感は強まっていく。




