1−13:船をつくろう
「では。聞いてくださいまし。『抱きしめてぇ。キッスゥミー』!!」
なぜか癖の強い言い方でハープを演奏し始めた。
城外。それも海側。城のすぐそこは岸壁であるが、少し歩くと浜にあたる場所があった。
もともと船を止めるための桟橋があるようで、朝からその場所で船の建造工事にあたることにしたのだった。
船、といっても巨大な艦船というわけではない。あくまで、俺とチューンが乗れる程度。ただし、ズーイの言葉を信じるならばデーモン族の一人、ドライブという男が西国の街へ、ここの魔族を引き連れ向かったという。
すくなくとも彼らの人数が分からないが、乗れる程度の大きさの船が欲しいところであった。
今、彼らがどうなっているのか検討もつかないが。
「さあ。ダスト達よ。真王のために働きなさい!」
そうして、黒い一つ目の小さな精霊のような塵の化け物のような者達が、わらわらと土や砂浜から這い出てくる。
一つ一つは小さいが、少ない経験ではなるが、今まで見た中でも一番の量だった。それは働きアリの群れを彷彿とさせる。
「マオ様。これはすごい力です。この量を使役することなど、初めてで」
確かに自分の作った曲ではあるが、ハープを凄まじい速度で弾くため、実際は違う曲にも聞こえる。
しかし、それは彼女流にアレンジをしているとも捉えることができ、良い曲だとは手前味噌ながら感じた。
そしてあれよあれよとダストと呼ばれる精霊、まあ精霊ということにしておくが、草原や城の方へと散り散りに向かっていく。するとすぐさま、材木の類を運んでくるもの、縄を持ってくるものなどが現れ始める。
そして、チューンは『抱きしめてキスミー』もとい『ん抱きしめてぇ。キッスゥミー』を演奏し終えると、額に汗を流しながら呼吸を荒くしていた。
「だ、大丈夫か」
演奏は終わってもなお、ダスト達はセカセカと動き続ける。律術、といっただろうか。その力がまだ働いているということなのだろうか。
しかし、ここまで彼女が疲弊しているのは初めて見る。
「だ、大丈夫です。この曲。凄まじい音力を使うことができますが、その分、私のヒビキがかなり。ええと消耗されるようです」
近くに転がる岩に彼女は腰を下ろすと、大きく深呼吸をする。
「この世界にある曲。それらについての知識は多少心得ているつもりです、それらは一通り修練もしました。しかし、マオ様が生み出されたこの名曲。それは何にも引けを取らない『力』を秘めているようです。ふう、ふう」
「それは、そのすまなかった」
「何を仰いますか。これはマオ様の才能。いえ。天賦の力でございましょう。私めも修練に修練を重ね、この賜った『んんっ。抱っきしめてぇえ。キッスゥミィん』」をマスターすれば、さらなる貢献ができると確信しております」
なんかさらに癖が強くなった気がする。
だが。
自分の中の音、というものを目を閉じて感じてみる。心臓の鼓動。だが、それ以上に何か感じるか、と言われれば何も感じない。
風が草むらを撫でる音。波が押し寄せ、引いていく音。あとは、あとはなんだ。
目を開き、指を鳴らしてみる。
しかし、楽器は現れない。
そう。現れないのだ。
「──現れませんか。ちょっと、私めでよろしければ、もっと詳しく手ほどき致しますが」
「ご、ごめん。お願いします」
そう言って、ダスト達が船を組み上げる最中、1日を通してチューンから「自身の楽器」を生み出し方を教えてもらった。
だが、船が出来上がり、帆が張られ完成するまでの時が経ったとしても、それを生み出すことはできなかった。
「申し訳ありません。私の教え方が下手で」
チューンも若干の疲れを見せ始めていた。
「いや。いいんだ。きっと俺には才能がないんだろうな」
「そんなことは決してないと思いますが」
「疲れたろう。船も君のおかげで出来上がったところだし」
「いえ。本当は今日中にでも出帆したかったところですが、支度もあります、明日の朝にいたしましょうか」
「そうしよう」
ダスト達も消え、夕闇が支配する時分。二人で城へと戻った。
そして向かえる次の日。
「さあ。マオ様、いざ参りましょう!」
「西国。ポルト・アリア。だったか。ここから大体どのくらいのかかるんだ」
「そうですね。ここは東国を面しておりますから、少し長い道のり。数日はかかろうかと。あ。でもご安心くださいまし。準備はこの通り万全。船には湯浴みできる場所もご用意できております!」
作り上げられた船は、中規模程度の船であるようだった。食糧や水もそれなりに積んでいる。とりあえず二人分の荷物であるから、そこまで場所も取ってはいない。
「すまんな。ウマモドキ。お前は少し留守番だ」
そういって黒馬の喉を撫でる。すると悲しそうに、ヒンと少し鳴いた。
「よし。それじゃあ出発」
「あ。ちょっと今、簡易的ではありますが船員を用意いたしますね」
彼女はハープをならし、ダストを召喚。それらが船のあちらこちらに配置される。
少し肩透かしなところではあったが、帆は膨らみ、海原へ一歩を踏み出した。




