1−1:転生
──何の音だ。
ドク、ドクと継続的で心地よいリズムが聞こえる。
そう、あの日。確かにあの日、自分は死んだはず。
そのはずなのに、聞こえてくるこの鼓動は、心臓の音がなぜ聞こえてくるのか。
自身の瞼を何とかこじ開けた。反射的に動かしていたものを意識的に、ここまで苦労して行ったのは初めてであった。
目を開けるとあの時最後に見た光景に近いどこまでも広い青空が広がっていた。
「目覚めたのですか」
そして近くから声が聞こえた。女の声だ。
ひんやりとした感触が背中全体で感じる。大理石で覆われた石畳に自分は寝転んでいるらしい。
首を何とか動かし、声の主へ目線を向ける。
青々とした草原が広がる中、若い女が心配そうな顔をしてこちらを見ていた。
長い金髪、整った顔立ち。ただ驚いたのは、彼女の頭には羊のような渦を巻いた角が生えていた。
「コス、プレ?」
「コス? ええと、なんでしょうか」
彼女は自分の発言を理解していないようで、驚きながら近づいてくる。
一体ここはどこなんだ。何かのイベント会場なのか。目をぐるぐると回してみる。
しかし、そこにあるのは広がる草原だけであり、ヒントになるものはない。
もう一度空を仰ぎ見る。すると、眩しい太陽が今度は視界に飛び込んできた。しかし、いつもよりも幾分か明るい気が。目を細めて見る。
「二つ?」
太陽が二つ。双子のように近くに光を放つ二つの存在がそこにはあった。目の錯覚などではない。
そして、今までの自分の記憶を頼る。しかし、当然過去に太陽が二つあったことなど、自分の知る地球、日本にはなかった。
「ようこそ世界へおいでくださいました」
彼女の声。
自分は、大地マオは、異世界に転生したようだった。




