『艦隊血戦』
地上政府の敵宇宙艦隊を前に、母艦アトランティスのカートライト提督は密集陣形を取るよう各艦に通達する。陣形を整えた打撃群艦隊は敵艦隊を圧倒しつつ、敵艦隊内へ突入するが敵の猛攻に打撃群艦隊も少なくない損害を出す。打撃群艦隊前衛に位置していたSCV-01リベレーターも艦体に数カ所の直撃弾を受けてしまう。CIC後部の居住エリアに被弾し、減圧するCIC内。ダメージコントロールを行っていた動力管制のバートル大尉は完全に閉鎖されていないエアロックを手動で閉鎖する為、CICを出る。
『艦隊血戦』
母艦アトランティスの発令センターでカートライトは報告されて来る情報に耳を傾けていた…
(敵性異星人ではなく、同じ人間同士で戦う事になるとはなっ………皮肉なものだ…)
火器管制から声が聞こえた。
「敵性艦隊、数およそ40、機動大型艦12、……距離、30万km、RWR(Radar Warning Alert:レーダー警戒警報)!! TXソナーが干渉し合っていますっ!………Δ-9エンゲージッ!!、交戦開始したっ!!」
「周囲の走査を怠るなっ!! 敵性異星人のUFOの接近は無いかっ!?」、とカートライト提督の隣りに居た私は怒鳴るように発した。
「TXソナー、レンジ最大っ!………ソナー反応有りっ!! 数は分かりませんが広範囲に分布っ! 距離6.5AUっ、火星公転軌道へ接近中っ!!」
「クソッ、こんな時にっ!!」、と私は歯軋りした。カートライト提督は私の肩を掴み、ギューッと力を入れた。
「ロバートソンッ!!、君ならどうするっ!?」、とカートライトは前を凝視したまま言った。
「先ず、地球の反対勢力を叩きますっ、我々のアトランティスは搭載されているTX機関の数で上回っているっ………強力な防御フィールドを形成出来ますっ!他の艦と連携すれば更に強力になりますっ!!」、カートライトはンッと頷いた。
「決まりだっ!! 各艦へ下令っ!直ちにアトランティスを中心に密集陣形を取るように伝えっ、FAIが使えんっ、各艦の航法士へ腕を見せろっ、と伝えろっ!!」
それに合わせCICでは各管制官たちが下令を復唱し、全艦へ発令した。
「艦隊各艦は密集陣形を取れっ!! アトランティスの射線を妨げるなっ!対空対艦、対高次元戦闘っ!! A-HZM(Anti-Hyperdimensional Zero-range Missile:対超次元ゼロ距離ミサイル)防御準備っ!!」……
カートライト提督と副官ロバートソンの後ろで大統領ハワードと補佐官クラウディアは既にスーツを脱ぎ、艦内用第1種戦闘服に着替え、総司令官用シートに着座して各科員の動きを見ていた。
「この戦いのハードルはかつて無いものだっ、だがっ、……絶対に勝たねばならんっ!! 今こそアメリカの栄光を示すときなのだっ!」、横にいるクラウディアは静かに頷いた。
「そうですっ、大統領っ、……真の自由と平和を勝ち取るためにっ!!」
………………………………
母艦アトランティスから電文を受けたリベレーターCICでは航法管制の中島少佐がリベレーターの位置変更を行った。SAIの補助で艦の位置を精密に割り出し、定位置へ着ける……既に艦隊の速度は最大に近づいていた。
「アトランティス左舷前衛っ、………アトランティス兵装射線外、……」、中島少佐はアトランティスの四角錐の底面を上下方向に合わせたような管制、兵装、動力エリアに挟まれた、巨大で広大な中央デッキにリベレーターを水平に合わせた。
「対空対艦射線外位置、確保っ、SAIっ、艦を固定しろっ、母艦アトランティスに機動を合わせっ!!………艦、定位置に着いたっ!」、と中島少佐は後を振り向き発した。
「この速度のマヌーバで良くやったっ、中島少佐っ、……他の艦はどうだっ!?」、とランドー。
「まだ完全に定位置に着けない艦が有りますっ、右舷前衛に03インデペンデント、スターン(stern:艦尾)直方へ02フリーダムっ、……4時5時及び7時8時に輸送艦隊が着きますっ!……リベレーターの右舷主翼のウィングレットとアトランティスのデッキとの距離は僅か数十メートルですっ、これは難しいですっ!」
「アトランティスの対空兵装の死角はデッキの水平面しかないっ……機動ドック〈しきしま〉はっ!?」、とランドー。
「〈しきしま〉は艦隊から離れましたっ……現在、衛星フォボスの影に退避しています。」、と火器管制のマーベリット大尉が報告した。
アトランティスのカートライト提督から全艦へ声が入った…
“艦隊戦闘フォーメーション完了っ!此れより最大戦速で敵艦隊中央へ突撃するっ!! 各艦、TX防御フィールド最大っ、対艦戦闘用意っ!!”
戦略機動宇宙打撃群の母艦SMS-01アトランティスの艦体は更に速度を速め、各艦はSAIリンクにより、その位置を保っていた。
「アトランティスSAIリンクッ、攻撃開始まで6secっ!……3、2、1、ファイヤッ!!」、とフスター少佐が発した。
リベレーターの全対空火器と重粒子砲が一斉に放たれた。母艦アトランティスと他の艦の火器曳光が前方に立ち塞がる地上政府の艦隊へ向け集中する。
「有効弾っ!、大型の機動空母、2隻っ、艦隊から離れて行くっ!!」、と火器管制のマーベリット大尉が発した。敵艦隊が放った電磁キャノンと対艦ミサイル、対空火器の攻撃は密集陣形を取り、強力なTX防御フィールドにより、殆どが無効化された。
先制攻撃に出ていた艦載機のΔ-9隊は敵空母から発艦した艦載機と戦っていたが、ロシア連合国防宇宙軍とアメリカ同盟国で、地上政府に加担する一部の統合機動宇宙軍の艦載機は噴進システム(ロケット)の機体で、殆どがΔ-9により破壊された。
Δ-9隊は打撃群艦隊の進路を空けるように散開し、打撃群艦隊の周囲に着いた。
「相対距離っ、30000っ!更に接近っ!!」、と航法管制の中島少佐は発した。
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アトランティスCICでは……
「提督っ、奴らはBS(Break Shot:指向性破壊波動放射)を使いませんねっ!?」、と私はカートライト提督へ言った。
「これだけ距離を詰められれば、使いたくても出来ないのだっ!BSシーケンスには時間とTXエネルギーが一時的に使えなくなる弱点があるっ!!、今回は其処を突いたっ! だがっ、気を抜くなっ、近接戦闘だっ!、敵の電磁キャノン全てを防げる訳ではないっ…向こうもTXエネルギーで干渉を仕掛けてくる筈だっ!」
既に敵味方とも火器管制レーダーにロックされた状態で艦隊同士がぶつかり合った。
電磁キャノン、重粒子砲、対艦誘導ミサイル、CIWS(Close- In defense Weapon Systems:近接防御兵器システム)が止むことなく火を吹く……
母艦アトランティスのTX防御フィールドは接近する敵艦を進路から押し出す、だがっ、その大きさ故に敵の電磁キャノンにより被弾した。
◆
前衛に位置していたリベレーターも無傷では済まなかった。
CICでは動力管制のマーク中尉がダメージコントロールを報告するが、余りにもその箇所が多かった…
「左舷垂直尾翼、推力トリム破損っ、機能喪失っ!! 左舷第27ブロックに直撃弾っ、……アンドロイド喪失及び死傷者多数っ!!、左舷第1主翼被弾っ、熱核主機1番停止っ!!」、とマーク中尉は叫ぶように報告した。横に居たバートル大尉は継戦能力を報告した。
「バイタルエリアはまだ大丈夫だっ!! 熱核炉は出力を維持し続けているっ!TXエネルギーコンデンスはまだイケますっ!!」
バートル大尉がそう言った時、CICが大きく振動し、揺さぶられた。
「CIC、後部居住エリアに直撃弾っ!!」、とマーク中尉。同時に全員が息苦しくなり耳鳴りを訴えた
「CIC内、気圧低下っ……通路エアロックの一部が完全に閉鎖されていないっ、……クソッ!!」、とバートルはコンソールに置いた手を握り締めた。
CICに居るものは緊急用の軟質透明樹脂で作られたヘッドキャノピーを背部から出して被り、気密ファスナーを閉じた。
バートル大尉はマーク中尉に後を任せるとCIC後部へ走った。作業用アンドロイドのコンパートメントは直撃弾の衝撃でアンドロイドごと潰されていた。
動力を失い、完全に閉鎖されていないエアロックを見つけたバートルは、直ちに手動で閉鎖を試みた。
火器管制のマーベリット大尉は敵味方の艦隊がすれ違い、離脱するまでの時間を報告した。
「敵艦隊を突破するまで、あと18secっ!!」、艦が動揺する中、それを聞いたフスター少佐はセンターコンソールの端を握りしめた。
(持ちこたえてくれっ、リベレーターッ!!)、と心の中で叫ぶように祈った。
本エピソードのタイトルですが『艦隊決戦』ではなく、意図して『艦隊血戦』と記しました。“決”ではなく“血”とする事で物語を外から観るのではなく、物語に出てくる登場人物たちと共感して頂ければ幸いです。




