『最高評議会ケルブとセラフィム』
アメリカ独立新政府のハワードらはカインのエステル政務執行長官の出迎えを受けた後、先に会談を行った会議室へ飛ばされる。彼等を迎えたのはエステルに代わってクライシスト(カイン技術部門)の責任者、アクエラだった。アクエラはロシア連合艦の接近を知り席を外す。……そこで長い時間待っている間、各人は其々に話し合う。
アクエラが戻って来た後、大統領一行は遂にカインの最高意思決定機関である、最高評議会ケルブとセラフィムの大会議場(法廷)へ飛ばされる。そこには既にロシア連合の特使たちが横に座っており、大統領ハワードは、その中にロシア連合大統領のロスコフを見つける。驚くロスコフだったが、その様子を見たランドーはおかしな違和感を覚える……
『最高評議会ケルブとセラフィム』
大統領一行は憲兵に連れられ、会議室のような所へ飛ばされた。一瞬の出来事でクラウディア以外の者は驚き、周りを見回した。これに対しクラウディアは全員にこう言った。
「慌てないでくださいっ。これは此処では普通の事です、………私は壁も通り抜けましたよ。」、と落ち着いた感じで言った。
後を追って和泉が現れたがエステル政務執行長官の姿がない、………クラウディアはカインの代表者は来るのか和泉に尋ねた。それに対し、和泉は説明した。
「彼女は今日、体調が大変良くない、……表で貴方がたを迎えるのが精一杯だった。今日は別の者が対応します。」
「カインがっ!? 此処で健康に支障を来すような事が有るの?」、とクラウディア。
「いえっ、………言いにくいのですが原因は私や風早志門、他の日本人男性が持ち込んだものです。」、と和泉は答えた。
(他のっ?日本人男性……、一体何人がカインと接触しているっ!?)、とその時、クラウディアとハワードは思った。
「何かの病原体を持ち込んだのかっ……検疫は無いのかね?」、とハワードは聞いた。
「まぁ………、女性の方も居るので申し上げにくいのですが、簡単に言うと“生理”です。」
「なっ、………彼等は元々女性だろうっ!?」、とハワードは不思議に思った。和泉はフゥッと短い溜め息を吐いた後、次の様に説明した。
「カインは女性だけの社会で長い時を経てきました。勿論、知識上、対極として男性の存在は知っていましたが、事実上の接触は風早志門が初めてだったのです。それまで機能退化なのか、生理という現象はカインには無かったのです。」、と和泉は端的に言った。
そのやり取りの中、リードマンとランドー、そしてバートル大尉は一言も発さなかったが汗が顔に浮き出ていた。
(エディはこんな特異な人間に囲まれて居るのか……)、とバートルは思った。ランドーはエディから直接カインの出自を聞いていたので、敵性異星人のような強烈な非人類というイメージはまだ薄かった。しかし
、リードマンは報告でしか聞いていなかった為、非人類のイメージを払拭出来ずにいた。特に人間単体の空間転移やUFOの科学技術が余りにも飛躍し過ぎていたのが理由だった。
しばらく間を置いて、一人の女性が憲兵を伴って現れた。憲兵はその女性を離れ、大統領一行に近づくと腰のポーチのようなところから6mm程の球体を額に埋め込もうとした。この時、クラウディア以外は慌てた。
「やめろっ、我々を操るつもりかっ!!」、とリードマンは叫んだ。次の瞬間、全員身動き出来なくなり、全員、額に球体を押し付けられた。球体は皮膚に溶け込むように中へ沈んだ。
「安心しろっ、それは交感器だ。相手の意思疎通を促進するものだ。」、と離れた所にいた女性は言った後、自己紹介した。
「エステル政務執行長官は体調を崩されている。代わって私がカインの代表を行う、私はクライシストの責任者、アクエラだ。」、それを聞いたハワードはアクエラに次の様に要請した。
「私は大統領だっ、カインの最高意思決定機関のケルブとセラフィムとの会見を希望する。」
「大統領っ?……なんだっ、それはっ?!」、とアクエラ。和泉が説明した……
「一国の要職にある、一番上にいる人ですよ。アクエラさん、………大統領は政治経済、軍事の統率者です。」、と和泉は小声で控えめな感じで彼女に伝えた。
アクエラはフゥーンッ、といった感じで腕組みした。
端に座っていたランドーにニューラリンクを介して〈あまてらす〉から通信が入った。
“ランドー艦長っ、超次元空間にロシア連合艦らしき波動を検知しましたっ!!”、と五十鈴の声が入る。ランドーは、こんな時にっ!、と思った。ランドーは自分の意思をニューラリンクを通して五十鈴に返した。
“ロシア連合艦に攻撃の意図があるか探ってくれっ、会談は中断できないっ!!”
“了解っ、…………艦長っ、ロシア連合艦には攻撃の意図は無いようです。カインの空間を探しているようですっ、かなり近いっ!! ………向こうも空間接続をしているようですっ…”
“承知したっ、〈あまてらす〉が危険な場合は直ちに現時空間(三次元空間)へ帰還せよっ、こちらは何とかするっ!”
「おいっ、そこのお前っ、………お前だっ、聞こえないのかっ!!」、とアクエラはランドーに呼びかけていた。
「エッ、アッ、……何かっ?」、とランドーは顔を上げた。
「誰と話しているっ、………何か近づいている様子だな…」、アクエラはそう言うと、部屋に別の者が現れ、彼女に走り寄ると、何かを小声で伝えた。アクエラは軽く頷くと、その者に指示を出し、去らせた。
「別のアベルの船が我々の空間に入ろうとしているようだ、………その者を確認するまでしばらく待て。」、そう言うとアクエラは消えた。
ハワードはフゥーッと大きく息を吐いた。
「この私が、……こんなに緊張するのは初めてだ。」、とハワード。隣に座っていたクラウディアは彼に言った。
「ここでは地上の事は通用しません、大統領。………独立新政府も設立したばかりで我々の持つ資産も統合機動宇宙打撃群艦隊だけです。………此処で今の私達は、アメリカの名前を持つ只の人間です。最早、国内の政治は意味を成しません。」
「………君の言う通りだな。……私は一人の地上人として彼等と話さなければならない…」、とハワードは背中を折り、俯き加減でクラウディアに答えた。
連なって並んでいたリードマン軍人たちの中で、末席のバートル大尉はランドーに話し掛けた。
「ランドー艦長、エディは本当にこんな所、…失礼、カインに居るのですか?彼女は何でカインに付いたんでしょうか………」
「………彼女、エディは高次意識を持っていた。カインと共鳴するものが有ったのかも知れない。先の会談でMr.和泉の話した内容を聞けば、多分君も理解できると思う……」、とランドーは彼に言った。
「彼等の当たりは余り良くないように聞こえましたが、内実は平和主義者なんですかね?」、とバートルは訝しがった。リードマンはランドーとバートルの方を向いた。
「君達は黙っていたまえっ!、我々軍人はこの会談の証人に過ぎない。発言は大統領が行う。」、リードマン大将に諌められた二人は小声でハッ、と返すと黙った。
……………………………
それから暫く時間が経った。ランドーは〈あまてらす〉の超次元滞空時間を気にしていた。彼はニューラリンクを通して〈あまてらす〉の五十鈴宙佐に連絡を取った。
“五十鈴宙佐、この会談は長くなりそうだっ、〈あまてらす〉の超次元滞空時間は後どのくらい残っているっ!?”
“非戦闘状態で最大5時間程度ですっ、残り約3時間と言ったところですっ、”、と五十鈴は返す。
“承知したっ、もし、そちらに帰れない時は追って連絡するっ……”、そう言い、ランドーは通信を閉じるとリードマン大将へ報告した。
「リードマン大将、〈あまてらす〉の現時空間の滞空時間は後、3時間が限度です、……どうされますかっ!?」
「ウムッ………」、リードマンは思案すると大統領に向いて報告した。
「大統領っ、〈あまてらす〉の現時空間における滞空時間は後3時間が限界です。……どうされますか?」
「ここで帰る訳にはいかんっ!」、とハワードは声を大きくした。それを聴いた和泉は次の提案をした。
「艦ごと、こちらの空間へ入れて貰えればどうです。多分問題なく出来ると思いますよ。」、それを聞いてランドーは尋ねた。
「和泉さんっ、〈あまてらす〉は艦本体がこちらに来ている訳じゃないっ!来ているのは〈あまてらす〉の内殻部分ですっ、一度〈あまてらす〉の五十鈴宙佐と相談させて下さいっ!」
「そうして下さい。……」、と和泉。
ランドーは直ぐに〈あまてらす〉に継ないだ。
“ランドーだっ、五十鈴宙佐、艦をこちらの空間へ移動させた場合、問題は出るかっ!? 和泉副大臣が言うにはカインは艦ごと空間転移が出来ると言っているがっ……”
“艦長っ、それは止めてくださいっ!現在〈あまてらす〉の内殻は波動状態ですっ、それが三次元化すれば本体外殻との接続が破壊する可能性が有りますっ!!”、と五十鈴は悲鳴にも似た声でランドーへ返した。
「和泉さん、〈あまてらす〉は無理だと言っているっ!」、とランドーは和泉に言った。
「そうですか………、最悪時間切れの場合はロシア艦に乗せてもらうように頼んでみましょう…」
そう言っている時、アクエラが現れた。
「ロシア連合は最高評議会と会見するっ、お前たちも準備しろっ、議会へお前たちを飛ばすっ!」、アクエラがそう言うと全員、目の前が真っ白になり、次に目に入ったのは大きな会議室のような所だった。部屋の中央には一段上がった議長壇らしき物が在り、その左右を階段状に多くの者が座っていた。全員で50人程の者がこちらを見ていた…
(まるで法廷のようだな……)、とランドーは思った。自分たちのすぐ横には、ロシア連合の大使と思しき数名の者が既に着席していた。
ハワードはロシア連合の大使たちの一人に気が付き、アッ、と声を上げた。
「ロスコフ大統領っ!! 貴方も来ていたのですかっ!?」、とハワード。
ロスコフはエッ、と驚くと同時に、やぁ、と言った感じで手を上げ合図を送ると次の様に言った。
この時、ランドーはロスコフの様子に何故か違和感を覚えた。それは戦場で培われた直感のようなものだったのかも知れない………
(あの驚きは………何か違う。)
「ハワード大統領、……貴方はもう事故で亡くなったと思っていたっ!こうして、また会えた事を嬉しく思っている。」、とロスコフ。
数名の憲兵が来てリードマン他、ランドーとバートルを会議室から連れ出そうとした。ランドーはそれに従ったが、和泉の袖を掴んだ。
「和泉さん、チョッと大事な話があるっ、……我々とご一緒願いたい。」、とランドーは和泉に顔を近づけ小声で言った。




