『エアフォースワン墜落の疑惑』
氷原を歩き続ける大統領のハワードと補佐官のクラウディア。二人は途中で暫くの間、カインの会談の事について話し合う。その中で、新しい世界を創るためには、現在の世界を創った者、風早志門の娘の命が必要であることを知る。それでも新しい世界を創るには、現在社会の支配構造がそれを妨げる事を二人は現在の自分たちの姿から理解する。
リードマンが編成した搜索回収部隊に確保されたハワードとクラウディアは、極秘裏にアリゾナ、エドワーズ統合機動宇宙軍工廠へ運ばれ、そこで統合機動宇宙軍の責任者、リードマン大将からVC-25Dの意図的墜落の疑惑を聞く事になる。
『エアフォースワン墜落の疑惑』
氷原は二人の足を引っ張り、思うように前に進むことを拒むかのようだった……
ハワードとクラウディアは脱出ポッドに備え付けられていたエイドキットと保温用のエマージェンシーブランケットを纏い、氷原を進んでいた。
「大丈夫かっ、シンシア…?」、とハワードは斜め後ろを付いてくるクラウディアへ声を掛けた。
「なんとか………、」、とクラウディアは言ったが、その顔には疲労が浮き出ていた。ハワードは一旦歩みを止め、彼女に休むように言った。そして、出来るだけ目立たないよう、雪が段になっている所を見つけ、その影に身を寄せた。
「済まない、君を巻き込んでしまったな、………これは事故じゃない。多分だが………」、とハワード。
「私が選んだ道です。気になさらないで、大統領……、此処はアラスカですね。黒いΔ-9が護衛についていたから本国の防空圏内に入っていたと思います。」
「シンシア、今は大統領じゃなくてハワードでいいよ。私は多分死んだ事になって、副大統領のエバンスが大統領の執務を行っている筈だ、…………一つ気になる事は彼がカインとの会談で向こうに脅しとも取れる発言をした事だ。君はどう思う?」、とハワードは彼女に問うた。
「我が国は確かにパワー外交ですが、………あれは悪手だったと思います。私は向こうの代表者であるエステル政務執行長官の顔を見ていましたが、最早、友好的とは言えない顔をしていましたよ。」、とクラウディア。
「……その場に居た向こう側の者は代表者の他、確か風早志門とそのワイフの女性と、元USSFリベレーターの機関操作員、エディ·スイングと日本政府の和泉だったな、………和泉の提案は…、シンシア、君の報告書を読んだ時、相当ショックを受けたよ。」、ハワードはブランケットに包まり膝を抱えて言った。
「あの場では、確かに和泉はそう言った訳ですが、私は物証を確認していません。それはロシア連合のルフシェンコ特使も同じです。ですが………、カインの技術力なら可能かも知れません。彼等は一度、前の世界を壊し、現在の世界を創った実績が有ります。」、とクラウディア。
「世界を創りし者、……か。風早志門と言う日本人だったな。彼はどう言っていた?」、とハワードは聞いた。
「あの坊や………、もう戦争は止めないかって言ってた。…………元リベレーターの機関操作員のエディ·スイングも戦争を止めなければ、亡くなる者の命は二度と蘇らない、と。」、それを聞いたハワードは手で顎を揉んだ。
「その辺の意味が分かりにくい………、報告書では読んだが。」
「今の世界で戦争が無くなれば、風早志門の娘の命は救われる、と言う事らしいです。和泉の提案では人柱が必要で、それが風早志門の娘、だと言うことです。和泉の提案する世界が実現すれば、死んだ人間が復活しますが、風早の娘は二度と人の形として生き返ることは無いと…………」、とクラウディアは俯いた。
「………個人として考えると、心が引き裂かれるような思いだ。他の者の亡くなった家族や友人が生き返るのに自分の家族だけ違う、か………現在の世界で戦争を止めて平和を維持できれば、風早志門の娘も救われると言う事だな………、現状で平和を目指すか、それとも和泉の提案する新しい世界かっ………、私は後者を選び、ロシア連合のロスコフ大統領も賛同した。」、ハワードは顔を膝の間に埋め、呟くように言った。ハワードを見ていたクラウディアは顔を逸らし、ポツリと呟いた…
「支配、と言う言葉がある限り、………すんなり、そうさせてはくれないようですね。これが私たちの今の姿です……」
二人が話している時、頭の直ぐ横にアサルトライフルの銃身が突き出された。
「喋るなっ、そのまま動くなっ!!」、と男の声がした。
ハワードとクラウディアは振り返らず、正面を見たままフリーズした。数名の者が氷原を踏むザッザッ、という足音が聞こえ無線連絡を取っている声が聴こえた。
「脱出者を確保した、コールサインP、男性女性の2名っ!」
“了解したっ、直ぐに基地へ運べっ!! 外部の者に悟られるなっ!”
二人は目隠しをされ、雪上車の中へ押し込まれると服を着替えさせられた。
雪上車は暫く走った後、何処からとも無く現れたテイルローター機がすぐ横に着陸し、雪上車ごと彼等を連れ去った。
◆
アリゾナのエドワーズ統合機動宇宙軍司令部では、リードマン大将が日本の府中統合機動宇宙軍作戦司令部の山元 葵一等宙将と極秘連絡を行っていた。
ホログラムで映し出された山元にリードマンは次の様に言った。
「私は前線のアトランティスへ向かう。君も知っての通り、我が国の政情は極めて不安定な状況にある。恐らく、統合機動宇宙軍の動きにも影響が有る筈だ。不測の事態が起きるかも知れないっ……、私は前線へ向かうが、作戦司令部は私の指示に従ってくれ。これは軍総本部の命令でも動いてはならんっ!必ず私を通せっ、良いなっ!」
「承知しました、リードマン大将!宙路、お気を付けてっ!」、そう言うと山元は敬礼し、ホログラムは消えた。
次にリードマンは内線で工廠の航空機管制センターへ継なぎ、VC-25Dの生存者を乗せた機が到着したか確認した。
“既に到着して、特待室へ案内しています。”、と管制科員は答えた。
「承知したっ、アンダーソン(グアム)へ向かう高速輸送機の準備は出来ているかっ?」
“はっ、既にっ! SC-130を待機させてありますっ!”
リードマンは腰を上げ部屋を出た。
……………………………
特待室の前に来たリードマンはネクタイを締め直し、衣を正して部屋へ入った。そこには軍服に着替えた大統領のハワードとクラウディアがおり、リードマンの方を向いた。リードマンは先ず敬礼で答えた。
「大統領、ご無事で安心致しました。」
クラウディアは立ち上がり、他の者の安否を尋ねた。
「他の者はっ!? …エミリア(エミリア·マーキュリー国務省事務次官)はっ?」、それを聞いたリードマンは顔を暗くして答えた。
「補佐官、………生存者は確認できませんでした。」
それを聞いたクラウディアは手で顔を覆い嗚咽を漏らした。
「エミリア、………ああっ、…なんて事……」、横に居たハワードは彼女の肩に手を置き引き寄せると深い溜め息を吐いた。次にハワードはリードマンに説明を求めた。
「何がどうなったと言うんだっ、説明したまえっ!!」
「廃棄衛星との衝突です……ただっ、………これが意図的かどうかはCVRとFDRの解析を現在進めております。………大統領、貴方は既に死んだと政府は発表しています。十分な調査の結果が出ていないタイミングで、です。大手メディアも死去、と騒ぎ立てています。ここから先は私の推測になります、………この件はCIAの最新鋭機Δ-9-A13が絡んでいる為、私は統合機動宇宙軍だけで捜査を進める為に国防省、……失礼、戦争省へ連絡を取ったのですが、明らかに様子がおかしかった…」
「戦争省っ!? そんなものは知らんっ!誰が変えたのだっ!!」、とハワードは目をカッと見開いてリードマンを詰めた。
「政府の執務権限は大統領に万一の事が有った場合、副大統領のエバンス氏に移譲されます…」、とリードマン。
「まさか、……そんな…」、とハワードは固まった。
リードマンは腰を屈めて二人に言った。
「この問題を明らかにするには、大統領、…暫くの間、身を隠して下さい、……私に良い考えが有ります。」
「良い、………考え?」、とハワードとクラウディアはリードマンを見た。




