『アメリカの栄光と闇』
Δ-9-A13二機に伴われてVC-25Dはアラスカ上空を飛び続ける。同機はレーダーで進路上に廃棄衛星の落下を捉え、回避しようとするが、Δ-9にコントロールを奪われたVC-25Dは衛星と衝突し破壊されてしまう。機長のマクミラン大尉はギリギリの所で大統領のハワードと補佐官クラウディアを緊急脱出ポッドで機外へ避難させる事に成功する。
訃報を受けた統合機動宇宙軍本部のリードマン大将は護衛機を飛ばしたシャイアン·マウンテン宇宙軍基地と国防省のマッカーシー将軍へ連絡を取った後、極秘の搜索回収部隊を編成し現地に派遣する。
ホワイトハウス内では副大統領のエバンスが国務省のオックスフォード長官と国防省のマッカーシー将軍と密談を行っていた。
『アメリカの栄光と闇』
VC-25DのコックピットではRWR(Radar warning Receiver:レーダー警戒受信器)の鳴動音で包まれた。
「大尉、警戒情報っ!! 本機進路上に高速飛翔体っ!距離720milっ!!」、とビルブレインは叫んだ。
「ミサイルかっ!?」、とマクミランはレーダーを注視しながらビルブレインに聞いた。
「この距離からだとなんとも、………あっ!! 飛翔体が分離しましたっ……」
ビルブレイン少尉の言葉でマクミランは国防省〈アメリカ戦略軍 (USSTRATCOM)〉とアメリカ連邦航空局 (FAA)とデータリンクするよう指示した。
ビルブレインは得られた情報をマクミランへ伝えた。
「これは廃棄衛星ですっ!!、大尉。」、マクミランは直ちに現在のコースを変更するよう、VC-25Dの左右に着いているΔ-9-A13に要請した。
「エアフォースワンよりゴースト1、進路上に廃棄衛星が落下しているっ、直ちに進路を変更せよっ、繰り返すっ、……」
何回も呼び掛けたが、応答は無かった。
「応答が無いっ…、少尉、マヌーバをマニュアルに切り替えろ、急げっ!」
「了解っ!」、そう言うとビルブレインはヘッドアップコンソールの、先にRC(Remote Control:遠隔操縦)にしたダイヤルを MC(Manual Control:手動操縦)の位置へカチッと回した。
「手動へ変更したっ!」、とビルブレイン。
マクミランは操縦ハンドルを左に僅かに回した。巨大な機体はゆっくり左に傾いたが、奇妙なことにロールは止まった。一瞬だったが彼の視界に映った2機のΔ-9が光ったように見えた。彼は更にハンドルを回したが機体はロール角度を維持したままだ。
「なんだっ!? 一体どうなっているっ!」、マクミランはビルブレインに油圧動力系に異常が無いか確かめさせた。ビルブレインは計器を調べた、がっ、そのとき彼は悲鳴をあげた!
「たっ、大尉っ、大気速度がっ、……ゼロですっ!!」
「バカなことを言うなっ!! 本機はGPS標示で確実に移動しているっ………クソッ!」、マクミランは再度、ハンドルを回したり引いたりしたが全く反応が無いのが分かるとパイロットシートを立った。
「このままだと、衝突コースだっ!! 脱出の準備をさせるっ、此処に居てくれっ!」、そう言うとマクミランはコックピットを出て、下層のキャビンへ降りた。彼は大統領を含む全員に脱出ポッドへ入るよう指示を出した。
「何が有ったっ!? 故障なのかっ?」、とハワード。
「大統領、説明は後でっ、急いで下さいっ!!」、そう言うとマクミランはハワードとクラウディアをポッドへ押し込み、Exit(イグジット:脱出)レバーを引いた。
“ビィイイイーッ”、という緊急音と共にポッドは床に沈み機外へ放出された。
残りの事務次官のマーキュリーらをポッドへ誘導している時、機内マイクでビルブレイン少尉の声が響いた。
“大尉っ、衝突しますっ、……ウワァアアアーッ!!”
次にドオォーンッ!!、という音と、金属の拉げるような音を立て機体はバラバラになった。
ハワードとマーキュリーが乗った脱出ポッドは投下された後、50m下で引っ掛かるように静止していたが、VC-25Dが破壊されると同時に自由落下を始めた。
……………………………
落下の途中でパラシュートを展開したポッドは風に流され、氷原の約20mの高さでスラスターを点火し、降下速度を緩めたが氷原の軟弱地盤の為、ポッドは横倒しになってしまった。
ハワードはシートベルトを外して身体を自由にすると、横に座っているクラウディアを助けた。
「大丈夫かっ!?、シンシアッ! 今、ベルトを外してやるっ…」
「大統領っ、……何が起きたんですっ!?…」、とクラウディアは手で顔を押さえながら言った。
「分からないっ、……機長に聞こうとしたが間に合わなかった……、VC-25(エアフォースワン)は破壊された…」、ハワードは天井になった彼女の座席のベルトを外すと、優しく抱き抱えて彼女を降ろした。
ポッドは横倒しでドアが開かなかった。ハワードはポッドの緊急開放レバーを引き、爆発ボルトでポッド上部のキャノピーを飛ばした。
ポッドを出た二人の前には広大な氷原が広がっていた。
◆
VC-25D墜落の報を受けた統合機動宇宙軍本部のリードマン大将は、椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がった。直ちにシャイアン·マウンテン宇宙軍基地へ連絡を取った。
「本部のリードマンだっ! そちらのCIA担当責任者の、………ケベック大佐を出せっ!!」、暫くの内線コール音のあと、ケベックが出た。
「貴様っ、何をやったっ!? 最新鋭のΔ-9だぞっ、それでVC-25Dを守れなかったっ、とでも言うつもりかっ!?」、とリードマンは激怒した、そして更にケベックを詰めた。
「詳しい状況を話せっ、今、此処でだっ!!」
{ 廃棄衛星の落下軌道と偶然重なってしまっただけです………… }、とケベック大佐は歯切れの悪い返事をした。それを聴いたリードマンは暫く黙ってから、次の様に答えた。
「機体の搜索はこちらで行うっ、CIAを含め、他部門は一切手を出すなっ!」、そう言うとリードマンは通信を切り、次に軍総本部ペンタゴンへ繋いだ。
「マッカーシー将軍、リードマンです。VC-25墜落の報告は聞きました。今回の件は最新鋭機のΔ-9も絡んでいますっ、搜索活動はこちらで行うっ!他の部門は動かさないで頂きたい。」、とリードマン。それに対し、マッカーシーの返事は冷ややかなものだった。
{ もう、残骸しか見つからないだろう……、廃棄衛星の大気圏突入スピードは極超音速ミサイル以上だ。死体も見つからない………、ファッハッハ… }、と彼は最後に笑った。
(これは………)
リードマンは彼の様子に疑念を抱かざるを得なかった。
……………………………
リードマンは搜索回収部隊を編成させ、墜落した上空エリアを徹底的に調査させた。これにはΔ-9-A13とVC-25Dを製造したロッキードマーティンとボーイングの技術者も駆り出された。
リードマンは搜索部隊に一つの指示を出した。
「もし、脱出者や遺体が有っても絶対に外部の者には知られるなっ!FAA(Federal Aviation Administration:アメリカ連邦航空局)は排除せよっ!これは極秘任務だっ!! それとCVR(Cockpit Voice Recorder:コックピットボイスレコーダー)とFDR(Flight Data Recorder:飛行データ記録装置)は優先して回収せよっ、絶対に見つけ出せっ!!」
……………………………
政府の報道官はVC-25Dの墜落を公表し、搭乗者の生存は絶望的、とした。大手メディアも大統領死去と大きく騒ぎ立てた。
ホワイトハウスでは副大統領のエバンスが大統領代行として政務を執行した。
執務室では国務省長官のオックスフォードと戦争省(国務省より改称)のマッカーシー将軍がエバンスと懇談していた。
「アメリカ政府は今まで通り、戦争を続ける。この国は多くの軍需産業とその経済によって強化されて来た。………それを今更、失くすなど有り得ないだろう。オックスフォード、君はどう思う?」
「我が国がいきなり平和国家になれば私は仕事が無くなりますよ、副大統領、いやっ、大統領でしたね。……彼、…ハワードが望んでいた事は国そのものが無くなると言う事でしたから。」、そう言うと彼は顔をニヤつかせた。また、国防省のマッカーシー将軍も次の様にエバンスに言った。
「大統領が亡くなったのは非情ぉーっに痛ましい事だ。だが、これで大手メーカーも今まで通り兵器を作り続ける事が出来る。エネルギー省の官僚たちも心配しておったからな………、重ねて言うが、彼の死去は残念だったがアメリカの未来にとっては有意義な事だ。」、とマッカーシーは如何にも態とらしく話た。
エバンスはテーブルのコーヒーを取ると一口飲み、次の様に言った。
「私もカインの話を聞いた時、………あぁっ、日本政府の和泉の話を聞いて、これは凄いっ、と思ったよ。但し、悪い意味でだっ!それは最悪だっ!!」、エバンスは椅子から腰を上げるとマッカーシーへ言った。
「私はカインを落とそうと思う。アメリカは時代を継ながねばならないっ!」




