『ロシア連合機動艦隊と国防省の陰謀』
敵UFO群を掃討した機動宇宙打撃群艦隊。その直後に現れたロシア連合国防宇宙軍は、艦隊の指揮権を渡すようカートライトに迫る。
一方、ロシア連合の中心、ロシア連邦のモスクワでロスコフ大統領との会談を成功裏に成し遂げたアメリカ政府の大統領ハワードは再び本国への帰途に着くが、そこには国防省の裏切りとCIAの罠が彼等を待ち受けていた。帰還ミッション“ゴースト”を受け、駆けつけたCIAのΔ-9-A13は遠隔コントロールによりハワードらの乗ったVC-25Dをアラスカ湾上空へと誘導する…
『ロシア連合機動艦隊と国防省の陰謀』
敵UFOを掃討した機動宇宙打撃群艦隊だったが、次のFAIの警報で全艦騒然となった。
”近傍の空間に不明艦多数がジャンプアウトッ!!“
敵UFOを撃退した事で、脱力していたCIC内は再び緊張した空気が張り詰めた。
「クソッ、まだ残っていたかっ!?」、とカートライトは油汗を滲ませた。
「火器管制っ、距離を知らせっ!!」、と私は叫んだ。
「距離5000!!……、待って下さいっ!、IFF(Identification Friend or Foe:敵味方識別装置)に応答っ!……これはっ…ロシア連合艦ですっ!!」、火器管制科員はこちらを振り向き叫んだ。
「通信は可能かっ!?」、とカートライト。
「通信システムストレージを調べています………反応有ったっ! 提督、そちらへマイクを回します!」
「こちらはUSSFアトランティスであるっ、そちらの旗艦名と目的を知らせよっ!!」、とカートライト。
暫くの沈黙の後、返信が有った。
「RUDSF(Объединенные Космические силы обороны России:ロシア連合国防宇宙軍)、第2機動艦隊旗艦〈ウラジーミル〉であるっ。アメリカ政府の要請により正式に派遣された、……貴艦隊は消耗して損傷艦を伴っている、指揮権を渡せっ!」
これを聞いたカートライトは奥歯をキシらせた。私も同じ思いだ。
「ロシア連合艦は我々の戦闘を観ていたようですね…」、と私。
「指揮権を……、渡せっ、だとっ!?」、そう言うとカートライトは軍帽を床に叩きつけた。
……………………………
リベレーターCICでは、突然のロシア連合艦の出現に緊張が走った。が、アトランティスのFAIの指令で火器管制が一時的にロックされた。
「アトランティスより入電! ロシア連合艦はアメリカ政府の要請で派遣された、との事です。」、とマーベリット大尉は報告した。
「戦闘が終わった後でっ……か。都合の良い筋書だっ。」、とランドーは渋い表情を浮かべた。
◆
ロシア連邦首都モスクワ、クレムリンの会議室では長大なテーブルに大きな距離を開け、椅子に座っているハワードらアメリカ政府と、その遠く離れた向かいにはロシア連邦(連合)大統領のロスコフが居た。その容貌はハワードより少し年を重ねた感じだったが、大国のリーダーとして、その威厳は確かなものだった…
ハワードは声を掛けたが、余りに距離が離れているため、彼は声を大きくしなければならなかった。
「先ず、私たちアメリカ政府の要請で宇宙軍を支援に送って頂いた事を感謝します、ロスコフ大統領。」、とハワードは対面に座っているロスコフに伝えた。
「対敵性異星人については立場は同じだ。………ハワード大統領、こうして公式にアメリカ連合とロシア連合が会談を持ったのは何年ぶりだろうか………」、とロスコフ。
「台湾戦争以降、ロシア連合とは距離が開き過ぎてしまった……、今回の会談は両連合の距離を再び元の距離まで戻すものだと私は思っている………、本題に入りたい。貴方もカインの事でルフシェンコ特使から詳しい話を聞いていると思う。ロシアはどう動きますか。」、とハワードはストレートに聞いてみた。
ロスコフは落ち着いた感じで言った。
「ロシアはこれを進めようと思います。勿論、アメリカ政府も同じだと思う。貴方がたはその為に此処まで足を運んだのですから。………これが実現すれば、資源、領土、食料、エネルギーに関係する汎ゆるインフラは全て国民、いや世界の全人類の各個人が持つことになる。いつでも食べて、いつでも、何処にでも移動出来る、車や飛行機も必要なくなる……今、喫緊の課題である対敵性異星人の問題も無くなる。国民はこれを受け入れるだろう。だがっ……」、そう言うとロスコフは席を立ち、ツカツカとハワードへ歩み寄った。そして、少し悲しそうな顔をして言った。
「これを快く思わない人間も居る………」
ハワードはその意味を分かっていた。彼は静かに席を立ち、ロスコフと目を合わせると手を差し伸べた。最早、この話に細かい事務レベルの協議など必要無く、お互いの合意だけで十分だった。
「それでも私は国民の福祉を優先します、私たちの国是は『自由と平和』なのですから、大統領。」
ハワードとロスコフは固く握手を交わした。
アメリカ連合とロシア連合という、世界を二分して来た二大勢力の国境は二人の心の中で融けていった。
……………………………
会談は極めて短時間だったが成功裏に終わり、ハワードは再びVC-25Dに乗り込むと本国のアメリカワシントンのアンドルーズ空軍基地を目指した。
ロシア連合の国境空域までロシア国防軍のMig-41戦闘機4機が帰りの空路をエスコートした。
VC-25Dがロシア領樺太上空へ差し掛かると、何回かローテーションで入れ替わりにエスコートしていたロシア国防軍機は翼端を上下に振り、VC-25と護衛のF-47Bの編隊から離れていった。また、護衛のF-47Bが燃料の関係で日本の三沢基地へ向けて離れると、入れ替わりで空自のF-3戦闘機2機が護衛に着いた。
……………………………
この動きはアラスカのフェアバンクスに位置するアイルソン空軍基地のレーダーが確認していた。
国防省ではこれを受けて最新型のΔ-9-A13、2機を差し向けた。A13はCIA用に改装された機体だった。
マッカーシー将軍はVC-25Dの空路と、老朽化を理由に廃棄される監視衛星の大気圏突入コースを注意深く見ていた。
「これはとてもマズイ事だ、非常ぉーにマズイッ、………A13のパイロットには情報をしっかり伝えておけっ!」、とマッカーシーは少し表情を崩した感じで命令した。
ミッション“ゴースト”を受けたCIAでは直ちにパイロットがΔ-9-A13に乗り込み、シャイアン・マウンテン宇宙軍基地から飛び立った。
この事は統合機動宇宙軍本部のリードマン大将には知らされておらず、ただ軍総本部のマッカーシー将軍の直接の命令、としか彼には伝えられなかった。同じ宇宙軍内だったが、機体がCIAと言う事もあり、リードマンは特に注意を向けなかった。
(CIAの偵察活動かっ……?)、とリードマンは思った。
◆
アラスカ沿岸のアダック上空に差し掛かると、途中、空中給油を受けた空自のF-3は反転して消え去り、それと入れ替わるように超高速で2機のΔ-9がVC-25Dにピタリと着いた。
VC-25Dのコックピットでは、機長のマクミラン大尉がΔ-9、2機を確認した。
「こいつかっ、…Δ-9、恐ろしい機動性だな…」、そう言っていると、この機体から通信が入った。
“VC-25へ、こちらはゴースト1だっ。ミッションゴーストへ移行する。そちらのAP(Auto Pilot:自動操縦)を RC(Remote Control:遠隔コントロール)に変更せよっ…”
(引っ張ってくれるらしいな……)、そう思い、マクミランはコパイロットのビルブレイン少尉に切り替えを指示。彼はヘッドアップコンソールのAP操作ダイヤルをカチッカチッとRCの位置へ切り替えた。
「気味の悪い機体ですね、大尉……」、とビルブレインは黒いΔ-9を見てマクミランへ呟いた。
「確かに、………見ているだけで何か異様な感じだな。」、とマクミラン。
それから数十分、アラスカ湾上空に達した時、VC-25Dのコックピット内でレーダー警戒音が鳴り響いた。




