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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
82/83

『機動宇宙打撃群艦隊の善戦』

火星公転軌道上で行われる熾烈な戦闘……、機動宇宙打撃群艦隊は敵の数の前に、その戦線は後退し始める。府中の作戦司令部が送り出した支援艦隊は足が遅く、到着する頃には戦線自体が消滅する恐れが有った。苦悩するカートライトの横でロバートソンが何気なく言った言葉が戦況に転機をもたらす。


『機動宇宙打撃群艦隊の善戦』




火星軌道上の機動宇宙打撃群艦隊はBS(Break Shot:指向性破壊波動放射)を用いて、何とか敵の第二波を退ける事に成功していた。だが、その緊張は解かれることが無く、艦隊各艦はコンバットポジションレベル2を維持していた…



リベレーターCICでは、シフトに関係なく管制科員たちは全員自分の持ち場に着き、その場で仮の休憩を取った。


ランドーはキャプテンシートに座したまま、敵の動きと、もう一つ、カインの会談の事が重く自分の頭の中に伸し掛かっていた。



「フスター少佐、敵の残存数はTXソナーで確認できるかっ!」、とランドーは火器管制へ問うた。


「ソナー最大レンジで敵の存在強度は、……現在、約300と言ったところです。」、とフスター少佐は答えた。彼の顔には疲労が浮き出ていた。


「敵の漸減は上手く行っている、………だが、これは単に向こうとこちらの戦力対比でしかない。」、とランドー。


「フスター少佐、敵の動きに変化が有れば呼んでくれ。私は艦長室へ行く。」、そう言うとランドーはキャプテンシートから立ち上がり、後方の艦長室へ向かった。



艦長室へ入ったランドーは机のモニタージャックと自身のニューラリンクのモジュラージャックの蓋を開けて有線で繋ぐとSAIを呼出した。


「SAI、外部とのリンクを切れっ、……これから話す事は、此処だけの話だ。」


[ 了解、全外部リンクを遮断、コミュニケーションD、艦長室内。……どのような話ですか? ]


「私のニューラリンクのメモリーから、そちらへ情報を送る、……意見を聞きたい。」




時間にしてコンマ数秒も経たずにデーターはSAIに送られた。


[ これらの話には物理的実証が不足しています。 ]、とSAIは答えた。


「確かにそれは無いが、全て事実として認識してくれ。………最終的に我々の動きは何処へ向かう。」


[ これを事実として観るなら人類には大変喜ばしい事です。現在抱えている問題は全て解決します。但し、………実現移行には政治的な障壁が有るかも知れません。 ]


「どのような事が起きそうか?」、とランドー。


[ 大きな変革の時には必ず反対者が暗躍します。人類の歴史を振り返れば1963年11月22日に起きたJ·F·ケネディ大統領の暗殺が現在の世界情勢と98%の確率で合致します。………それと人類のカインへの対応は、…………戦争として、先ず人類側から為されるでしょう。 ]


「そうなった時、本艦の動きはどうか…………」


[ SCV-01リベレーターの機関〈あまてらす〉は唯一カインと接触に成功し、これを代替する事は出来ません。本艦が戦闘の前面に立つ可能性は回避出来ません。 ]、SAIの冷たい人工音声がランドーの頭の中に突き刺さった。



「…………SAI、私はそれを回避させる。」


[ ………意味不明です。 ]、とSAI。



「今はまだ分からなくてもいい……」、そう言うとランドーはモジュラージャックからコードを抜き、会話を終了した。




”ランドー艦長っ!敵UFO、第3波接近中っ!!“、とフスター少佐の声が部屋に響いた。



「承知したっ!!」、ランドーは立ち上がり艦長室を後にした。




     ◆




アトランティスCICでは敵UFOの第3波襲来を受け、コンバットポジションを再びレベル1へ引き上げた。敵の第3波は更にその数を増し、艦隊に対し、現時空間距離で約0.3AUまで迫った。


「TXジャマー、最大で発信せよっ!少しでも足を遅らせるんだっ!!」、発令センターに居るカートライト提督は火器管制エリアへ向かって叫んだ。


「提督っ、艦載機の喪失は20%に達していますっ!」、と私ロバートソンは彼に報告した。


「………敵の物量に対応出来ない………、まだ、府中の作戦司令部から支援は無いのかっ!」、とカートライト。


通信管制科員が府中の作戦司令部から発された量子暗号電文をカートライトへ知らせた。


「府中作戦司令部より入電っ!! 現在、建造途中の〈あまてらす〉級、〈せおりつ〉と〈そさのを〉から超次元攻撃を行うっ、との事ですっ!その他、イギリス防空軍のバリアント、ドイツ国防宇宙軍のSU-147級3隻をこちらの宙域へ派遣したっ、と言ってますっ!!」



「間に合わんかも知れんな………」、とカートライトは呟いた。



そんな折、戦線に僅かに変化が有った。


「敵の足が鈍ったっ、これはっ!?………」、と私が言い掛けると発令センターの空間に投影されたFAI指示画面に映し出される防御ラインにTXエネルギーの干渉が確認出来た。


「ロバートソン、これはさっき府中の作戦司令部から連絡の有った日本の艦のものだっ!………イギリスとドイツ艦はまだかっ!?」、とカートライトは航法管制へ向けて叫ぶ。


「まだ距離がっ……打撃群艦隊まで1.2AUっ、まだ数回のTXジャンプが必要ですっ!」、と航法管制。


アアッ!、と言ってカートライトは手でかおを押さえた。


「同じシステムでもSCV-01級と比べたら、一回ごとのジャンプ距離が短いんだっ…クソッ!」、とカートライトは発令センターの手摺をダンッと叩いた。


「リベレーター級は機動空母の中でも高速な足を持っています。これに随伴する為に遠征高速輸送艦ST-EPF-01スピアヘッド級が建造された訳ですからね。…」、と私は何気なくカートライト提督へ言った。



それを聞いたカートライトはバッ、と顔を上げ、私の方を振り向いた。


「そいつだっ!! ロバートソンッ、よく言ってくれたっ!」、彼はそう言うと直ぐさまFAI(Fleet integration AI:艦隊統合AI)へ次の様に問うた。



「輸送艦ST-EPF-02、03、04は艦隊を離れ、増援部隊をTXジャンパーでこの戦域まで運ぶっ!、出来るかっ!?」


[ 現在計算中、…………可能です! ]、とFAIは答えた。カートライトは、直ちに輸送艦3隻を、こちらに向かっている支援艦隊へ送るよう命令した。




  ……………………………




リベレーターCICでは……



「航法管制より艦長へっ、輸送艦アークセイバー、アックスバーン、アイアンロッドが戦線を離脱しますっ!、FAIが指令!………今、各艦TXジャンプしましたっ!」、とアスカが叫んだ。



「何だとっ!? 〈しきしま〉と修理中のフリーダムはどうするつもりだっ!!」、とランドー。


「FAI指令の内容は、現在接近中の支援艦隊、イギリス防空宇宙軍のバリアントとドイツ国防宇宙軍のSU-147艦隊の足を速めるのが目的です。」、と中島少佐が返した。


「間に合うのかっ!? 戦線は押されているっ、現在の戦力で更に艦数を減らせばマズイぞっ!!」、とランドーは叫んだ。


「これは母艦アトランティス作戦司令部の決定になっていますっ!」、と中島少佐は続けて答えた。



「間に合えば良いがなっ………」、とランドーは軍帽を深く被り直した。




  ……………………………




大遠距離のTXジャンパーにより、支援艦隊とランデブーした輸送艦各艦は支援艦隊へ密集陣形を組むよう指令を出すと、それを取り囲むように三方向へ分かれた。


ST-EPF-02アークセイバーのSAI(Ship integration AI:艦統合AI)はバリアントとSU-147各艦のSAIにBS(Break Shot:指向性破壊波動放射)シーケンスに入るよう指示を出した。



輸送艦3隻はTXフィールドを艦隊の形状に合わせ、そのままTXジャンパーのシーケンスへ移った。




     ◆




アトランティスCIC。



「艦隊各艦のBSシーケンスは完了したかっ!?」、とカートライト。


「フリーダムを除く全艦、完了しましたっ!」、と火器管制科員が報告した。


「提督、輸送艦が戻ってからのBSシーケンスには時間が掛かりますっ!戦線は縮小しています、間に合いますかっ!?」、と私。


「FAIの見積もりでは敵UFOが170000kmの位置に達した時に輸送艦のBSシーケンスは完了する、この距離は時間でコンマ何秒のレベルだ、絶対に成功させるっ!! 此処は絶対防衛圏なのだっ、ロバートソンッ!!」、とカートライトは言葉に力を入れた。




”支援及び輸送艦隊、ジャンプアウトッ!!“、と航法管制の声が響いた。



「射撃方位、FAI誘導っ、全ターゲットロック、BS、艦隊一斉発射まで12sec!!」、火器管制の声が響く中、重なって声が有る…


「戦線崩壊っ!! 敵UFO、突っ込んで来るっ!距離200000kmっ!」


[ ………3,2,1、ファイヤッ!! ]、とFAIの声。


艦隊の前面に発生した、輝く巨大な壁が拡散放射された。アトランティス直前まで迫った敵のUFOは跡形もなく消滅した。



  ……………………………




リベレーターCICではFAI指示画面の戦域モニターの球状空間に光が満たされていくのを確認していた。



「レンジ内、敵掃討っ……、現時空間及び高次元に敵影無しっ!! 何とか間に合ったようです、艦長っ!」、とフスター少佐はフゥーッと大きく息を吐き、宇宙服の襟回りを開けた。



ランドーはキャプテンシートに身体を預けると軍帽を脱いでコンソールの上に置き、袖で額の汗を拭った。 







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