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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
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『宇宙と政治の水面下の動き』

要人たちを乗せた輸送艦スピアヘッドが艦隊を去った直後、敵性UFOが打撃群艦隊へ迫る。母艦アトランティスのFAIの指示を受けたSCV-01リベレーターは直ちに臨戦態勢へ入る。機動空母から迎撃に出た艦載機、Δ-9は敵の数に押され、戦線は押し戻されつつあった。アトランティスFAI(Fleet integration AI:艦隊統合AI)は艦隊統合機動(Fleet Joint Maneuver:艦隊統合機動)を発動させ、BS(Break Shot:指向性破壊波動放射)攻撃のため、艦隊の陣形を変化させた。

カインと会談を終えた副大統領エバンスと大統領補佐官のクラウディアらはハワードへ報告書を渡す。それを見たハワードは閣議を行う前に、VC-25Dエアフォースワンでロシア連合へと飛び立つ…


『宇宙と政治の水面下の動き』




「敵UFOが有効射程に入り次第迎撃せよっ!!」、とランドー。


「射撃管制室、対空兵装各個、有効射程に入り次第発砲を許可するっ!! 重粒子砲は敵を撃ち漏らすなっ!!」、とフスター少佐は射撃管制室へ下令した。


「アトランティスFAI、リベレーターを FJM(Fleet Joint Maneuver:艦隊統合機動)へ移行、艦、自動機動しますっ!!」、操縦航法管制の中島少佐が発した。


「了解したっ、スクリーンにFAI指示パネルを出せっ!」、とランドーが叫ぶとSAIは直ちにCIC中央の空間にオプティトロニックモニターを立ち上げ、艦隊全体の動きを映し出した。



「アトランティス、インデペンデント、輸送艦隊及び本艦はBS(Break Shot:指向性破壊波動放射)の陣形へ移動していますっ!!」、と中島少佐。



「TXソナー、敵の増援を確認っ!敵影が空間亀裂から溢れ出しているっ‼……、戦線が後退し始めていますっ!!」、と悲痛な声でマーベリット大尉が叫んだ。




(ヴゥッ……、敵の数が多すぎるっ!! 抑え切れるのかっ!?)




      ◆




その頃、アメリカ政府とロシア連合の大使たちを乗せた高速輸送艦ST-EPF-01スピアヘッドは地球公転軌道上へジャンプアウトし、周回軌道へ入った。


”アンダーソン(グアム)より誘導ビーコン受信、降下を開始するっ!“、と大使たちの居る部屋にCICの声が入った。



「アメリカ政府は、今回の和泉の話を飲めるのかね…」、とルフシェンコはエバンス副大統領に投げ掛けた。それに対し、彼は黙ったままだった…


「難しい話だが、ロシア連合は、……この話を進める、我々の連合は資源産出国が殆どだ。アメリカ連合国は工業を基盤に据えた国が多い。それだけに世界を作り上げてきた自負が強いだろう。それが一夜で崩れる………、社会は納得するかね…」、そう言い掛けたところで側近の者が制止した。


「ルフシェンコ特使っ、喋り過ぎですよ。」

「おっと、…余りに衝撃的な話だったので、つい口が走ってしまった…」、とルフシェンコ。




  ……………………………




グアムのアンダーソン基地(機動宇宙軍工廠)に降り立った輸送艦スピアヘッドから下艦した連合の大使たちは警護に付き添われ、其々が用意した専用機に乗り換え、直ちに本国へ向かった。


機内で補佐官のクラウディアは報告書を作っていたが、その手は重かった。一方、エバンスはホワイトハウスのハワード大統領と連絡を取り、国務省、国防省、商務省の各官僚を集め、緊急の秘密閣議を行うよう要請した。




     ◆




ホワイトハウスでエバンスから閣議実施の要請を聞いたハワードは、先ず情報をこちらへ送るように言ったが、エバンスは内容が内容なだけに暗号通信さえ拒んだ。


(クソッ、エバンスの奴っ!こういう事はスピードが命なのに………、一体どんな内容なんだっ、向こうで何が有った!?)



取り敢えずハワードは各省庁の官僚にホワイトハウスへ集まる準備をさせた。




  ……………………………




数時間後、ホワイトハウスへ着いたエバンスとクラウディアらは、先ず報告書をハワードへ手渡した。これにハワードは不満な顔をした。


「何故、暗号通信で送らなかったっ!」、とハワード。


補佐官のクラウディアは暗い顔をして答えた。



「大統領、報告書の内容に目を通して下さい………」


ハワードは面倒くさそうに報告書をクラウディアの手から奪った。椅子に座ると眼鏡を取り出し、報告書をパラッパラッ、と見て行く………。


「グッ………」、ハワードは息を止めた、いや止まったと言った方が良い。報告書を持つ手がブルブルと震えた。ハワードは椅子から立つと、クラウディアへ集まった官僚に一旦引き揚げて貰うよう指示を出した。



「少し時間が欲しい、………熟考が必要だ。エバンス、ご苦労だった。」、そう言うとハワードは執務室を出て自室へ向かった。



部屋へ入ると彼はネクタイを緩め、シャツのボタンを外した。洗面台へ行き、冷たい水でザブッザブッと何度も顔を洗った。そして鏡に映った自分の顔を見た…



「鏡の中の自分は、…………老けているっ…」



(これは日本政府が掲げてきた最終目標、ムーンショット計画そのもの、いやっ、それ以上だっ!!……アメリカはどう動けばいい、………私は大統領だっ、国民の生命と財産、そして福祉を顧みるのが国民から選ばれた者の責任だ。………ヴゥ…アメリカはずっと戦い続けて来た。だがっ、やっと戦争の呪縛から脱却できるかも知れない…)




リビングに戻ったハワードは再び報告書に目を通した。


(只の報告書、………只の文字が、……ここまで人に、……国に影響を与えるものなのか…)、ハワードは報告書を握りしめ部屋を出て執務室へ戻り、クラウディアを呼ぶと閣議の中止を言うと、国務省長官と国防省のマッカーシー将軍にコールサインVC-25(エアフォースワン)の準備をさせるよう指示を出した。




指示を受けた国務省長官のオックスフォードは直ちに日本政府を通じてロシア連合と連絡を取り会談の日時と場所のすり合わせを行った。これはロシア連合も望んでいたらしく、短時間の内に決定され、最優先事項の公式日程として明記された。オックスフォードの連絡を受けたロシア連合のルフシェンコはポツリと呟く。


「和泉の、その後の消息が鍵だな、………彼はカインに居る。」



日時は三月二十七日、予定時刻は13:00、場所はロシア連合の中心、ロシア連邦モスクワのクレムリンで会談が行われる事が確定した。



これに対し、アメリカの各省からは閣議で検討も行われていない事案をロシア連合へ持ち出す事に反対する勢力も居たがハワードはそれらの意見を黙殺した。特に軍産複合体に深く関係する国防省やエネルギー省の反発は大きかった。



ボーイング799-2をベースとしたエアフォースワン(VC-25D)は巨大なスパンローダー機で胴体中央の他、主翼部にキャビンやコンテナ格納スペースを有し、強力な熱核エンジンの搭載で高速と長大な航続性能を持っていた。



ハワードの他、S·クラウディア大統領補佐官、国務省事務次官のエミリア·マーキュリーらはワシントンD.C近郊のアンドルーズ空軍基地でVC-25Dに搭乗すると、護衛の戦闘機、F-47B4機に伴われて大西洋へ向かった。



VC-25Dは大西洋を横断しヨーロッパ上空に差し掛かった。本機を護衛していたF-47Bは燃料の都合で空中給油を受けなければならなかった。この様子を見ていたVC-25Dの機長、マクミラン大尉はコパイロットのビルブレイン少尉に面倒臭そうに呟いた。


「もう少し足の長い戦闘機を護衛に用意出来ないのかな……、今時液体燃料、ってのはな。」


「宇宙軍の方では熱核エンジン搭載の戦闘機ですら、時代遅れらしいですよ、大尉。」、とビルブレイン。


「帰りは日本経由になる、護衛機は三沢に降りて、代わりに空自がアラスカ手前までエスコートする、……ミッションスケジュールをよく確認して置いてくれ。」、とマクミラン。


「了解、………アラスカ上空で空軍のΔ-9?、が護衛に着きます。ここからのミッションコードは”ゴースト“……何か気味の悪いコードネームですね、私は、このΔ-9という機体はまだ見たことが有りません……」、そう言うと彼はモスクワからの誘導ビーコンの受信の表示ランプの点灯に気が付いた。


「来ました、モスクワからです。……照合完了!、距離320mi、…」


「了解した、AP、ON!向こうの誘導ライダーに乗れっ!」、とマクミランは指示を出した。




ハワードたちを乗せたVC-25Dは徐々に高度を下げて行った。







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