「戦いの後、其々の思い」
敵性異星人の火星基地の攻略に成功したSCV-01リベレーターは陸戦隊のランダー収容と整備を行う。提督のロバートソンはTX機関動力室へ向かうが、中で見たものは疲弊衰亡しかけの動力操作員エディ・スイングだった。ロバートソンはエディを診ていたGE(ゼネラルバイオエレクトリック社)のシュミット博士とTX機関の運用について話し合う
帰還した陸戦隊のシャーマン・ライト少佐は航空団のライトニング少佐に対し皮肉交じりに「航空団が羨ましい…」と発言する。その発言の真意を即座に理解するライトニング…
ランダー隊のジールは自室で作戦終了間際に起きた誤射事件を思い返し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する。
其々の思いの中、CIC作戦室で実戦評価が行われようとしていた…
「戦いの後、其々の思い」
リベレーターは宙兵隊のランダーが制圧した敵地下施設上に降着し、陸戦隊を回収を行っていた。
CICではランダー隊の機体番号とパイロットの確認が進められた。
「フレデリック大隊、クルーガー大隊及びライト大隊…本艦に集結、回収中です。機体番号に欠損無し、MIA(missing in action:作戦行動中行方不明)、KIA(killed in action:戦死)共に無し……」
火器管制のフスター大尉は驚いたように目を見開いて報告した。
上段の統括エリアで報告を聞いていた私は軍棒を脱ぎフゥ~ッと大きく息を吐いた後、汗で濡れた髪を掻き上げた。
(先ずは第一段階……TX機関の高次ジャマ―と防御フィールドの有効性は確認できた…)
「ランドー艦長、私はTX機関動力室へ行く、引き続き指揮を頼む」と私はランドーに言った。コンパートメントで待機していた護衛のアンドロイド二体を伴って出口へ向かう。
「承知しました!」ランドーは敬礼で私を送った。
私はCICから出る時に再度、彼の横顔を確認したが、そこには感情らしきものは表れていなかった。
(せめて…御一緒します、とか……いや、彼は軍人なのだ)私は自身の中に彼に対する葛藤を抱きながらリニアチューブへ入った。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
セントラルデッキ下部に位置するTX機関動力室には二名の歩哨(人間の乗組員)が立っていたが私の顔を見ると敬礼し、私もそれに応じた。
私は護衛のアンドロイドを入口に残しエアロックを開けて中へ入った。そこにはベッドに横たえられた操作員のエディと心配そうに横に付くGE(ジェネラルバイオエレクトリック社)のシュミット博士の姿が在った。
気が付いたシュミットは私の方を振り向く…
「提督…」と彼。
「博士、エディの状態は?」と私は彼に聞いた。
シュミットはエディに向き直ると次のように答えた。
「彼女はTX機関から発生するエネルギーの指向性を操作できるが…近接や白兵戦闘のような状況には彼の人間的な部分が耐え切れない……彼は戦闘員ではない。元々は艦の航法や推力システム、探索、探知の力として用いられるはずだった…」
私は帽子を脱ぎ呟くように言った。
「博士……戦争なのです。何れ本艦は最大の攻撃兵器としてブレイクショット(指向性破壊波動放射)を使う事になります。」
それを聞いたシュミットは立ち上がり次のように警告した。
「これ以上、個々(生命)の破壊を彼に見させてはいけない! “Thing X” (物質 X:TX機関のエネルギー発生源)は彼と同期している。エネルギーの指向性(志向性)に問題が生じる可能性は否定できない!」
私は彼の警告に対し、控え目ながら軍人として苛立ちを覚えた。
私はエディの入っていた操作カプセルと横に並ぶ人工生体脳AQB-09(通称:09)、更に離れた所にある長方形のカプセルへ目を向けた。私はそれに近づき中に入っている物を確かめた。
長方形の台座の中には分厚い透明金属系のカバーが掛かっており、その奥には薄ピンク…例えようもない鮮やかに輝く色、敢えて例えるなら純銅の輝きを更に高めた色の剣が収められていた。正に “ Thing X ” と呼ばれるに相応しい妖艶さに満ちていた。
(ヒヒイロカネ、又は同種のオモヒカネ……欧米ではオリハルコンとも呼ばれている伝説の金属。まさか、超太古の遺物が人類の切り札になろうとはな……)
私はTX機関の運用について出来るだけ検討する旨をシュミット博士に伝えると動力室を出た。
◆
ランダーの収容が終った後、アンドロイドたちによって整備補給作業が始まっていた。
ライトは自分たちのエリアへ行く途中、航空隊のライトニング少佐と通路で遭遇した。ライトニングは少し言いにくそうにライト少佐に声を掛けた。
「大変だったな、ライト……」
ライト少佐は立ち止まり、前を向いたままボソッと呟いた。
「ジョン(ジョン・F・ライトニング)、今から俺が言う事で気分を害したら許してくれ、自分の正直な気持ちだ………」
「言えよ、聴いてやる」とライトニング。
「今回ほど俺は航空隊が羨ましいと思ったことは無い…」とライトは言った。そこには皮肉が込められているであろう事は理解できた、しかし…
ライトニングは直ぐに察した。航空と陸戦では職種が違うとはいえ、恐らく厳しいものだったに違いないのだ。
「ライト、もし時間が許すなら後でラウンジで一盃やるか……その時はジール大尉も一緒にな。帰ったら打ち上げを約束してたんだ」
「すまない、ありがとう。ジョン…」
ライトは何とも言えない顔でライトニングの肩を掴み揺すった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ジールは自分の部屋に戻ると気密戦闘服を脱ぎベッドに腰を下ろした。
まだ心臓の鼓動は激しく感じる……地下での戦闘の記憶が頭に焼き付いていた。
「一機の脱落も無い……私は生きている……リベレーターに帰っている…だけど…」
ジールは冷蔵庫から冷たい飲み物の入ったパックを取り出しのチューブを口に含むと一口吸った。冷たいものが胃に落ちていくのを感じた。この時、やっと…やっと自分を取り戻した気がした。
改めてミッションの最後辺りを思い出してみた……
▶‥‥‥‥
{各機、火器管制をマニュアルへ!……おい?待てっ、誰が撃てと言ったっ‼…やめろっ、 CF、CF、CF…‼}
「少佐、火器管制がTX機関に固定されています!ダメだっ、トリガーがロックされてる!」(私)
{誰か止めてくれ‼}
{機体のコントロールが出来ない‼}
{やめろっ、止めてくれぇ‼}
{ウワァアアーッ、止めろぉっ‼}
{オーバーキルッ、オーバーキルッ‼}
“ヴウゥ~ン‥‥ガラガラガラガラ‥‥" 〈火器の弾切れ音)
‥‥‥‥‥‥■
「私じゃない……私がやったんじゃないっ‼ 畜生っ!」ジールは飲物が入ったパックを握りつぶし、思わず口に出して叫んだ。
そんな時、艦内スピーカーでASI(艦統括AI)から声があった。
{艦内時間18:00、CIC作戦室で実戦評価を行う、各科士官は集合せよ!}
◆
18:00、作戦室にはCIC当直士官の他、航空団、陸戦団、デッキステーション指揮官や作業用指揮アンドロイド(マスターアンドロイド)が顔を揃えた。
私は実戦評価を始める前、全員に今回のミッションを労った。
「諸君、ご苦労だった! 諸君らの働きでミッションは無事に完了した!」
私が言った後、艦長のランドーは号令を発した。
「全員、提督へ敬礼!……着座!」号令と共に全員が敬礼し、そして椅子へ腰を下ろした。