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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
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『敗走』

TXジャンパーとアレクビエレ·ドライブをキャンセルしたランドーは現状を維持する事を決める。その頃、機動宇宙打撃群の中核である、アトランティスのCIC発令センターではカートライト提督とロバートソンが現状と、敵の数多な残存数を考え、絶対防衛圏の火星軌道まで後退する事を決める。

この情報を得た地上のアメリカ政府はホワイトハウスに要人を集め、今後の方向を話し合う。一方、府中の統合機動宇宙軍作戦司令部は打撃群艦隊の補給計画を策定、実施に移す。


『敗走』




ランドーは後ろに下がってキャプテンシートに身を沈めた。そこで少しの間、目を閉じた後、CIC管制各科員と〈あまてらす〉の五十鈴宙佐へ伝えた。



「TXジャンパー及びアレクビエレ·ドライブはキャンセルッ!! ………五十鈴宙佐、シーケンスは解除せよ!……メディックをそちらへ送る、そのまま待機だ。」



それを聞いたCICの管制各科員はホッと胸を撫で下ろした。



「了解っ、三次元基準航行、最大戦速を維持しますっ!」、と航法管制の中島少佐は返した。



ランドーは火器管制のフスター少佐に下令した。


「先行したΔ-9はアトランティスとフリーダムの援護へ回れっ、マーベリット大尉、インデペンデントの位置はっ?」


「インデペンデントはTXジャンパーでアトランティスの居る宙域に出ました、………既に戦闘を展開していますっ!」、とマーベリット大尉は答えた。




      ◆




母艦SMS-01、アトランティスのCIC(発令センター)ではカートライト提督とロバートソンが敵の攻撃に対し、打つ手が無くなりつつある事に苦慮していた。


高次元から現時空間に現れ始めた敵性UFOの数は、撃破した数を遥かに上回っていた…



「ケンタウリの奴らめっ、ドラコと組んでどれだけの船を用意したんだっ!」、とロバートソンは吐くように言った。カートライトは厳しい表情を見せつつも、次の様に言った。


「彼等のUFOとて直ぐに建造出来るものじゃない、………だが、建造期間をずらす事が出来る、………時間を掛けて未来で出来上がった船を現在に持って来ている、全ての時間を現在に集中できるのが奴らの強みだ…」



火器管制へカートライトは次の様に下令した。



「TXジャマー最大発信、敵が現時空間に出てくるところを重粒子砲で叩けっ!! ………航法管制っ、TXジャンパーは可能かっ?!」


「TX機関……、5基の内、3基は機能不全っ、D、Eのみ継続稼働が出来ますっ!」、と航法管制科員は答えた。


「超次元空間で消耗した……」、とカートライト。ロバートソンは別の案を提示した。


「提督、BS(Break Shot:指向性破壊波動放射)の使用を、……インデペンデントも既にこの宙域に出て艦載機で攻撃を行っています!、母艦とインデペンデントのBSを使えば………」、言い掛けたところをカートライトが遮った。



「ロバートソンッ、一発勝負に出るなっ!BSシーケンスにはTXジャマーや防御フィールドのエネルギーも一時的に消えるっ、そこを突かれたらお終いだっ!!」



カートライトは航法管制へ発した。


「母艦及び各艦は、これより絶対防衛圏(火星軌道)へ後退を行うっ! FAI(艦隊統合AI)、インデペンデントとリベレーターへ打電せよっ!!」



 

  ……………………………




宇宙打撃群艦隊の絶対防衛圏への後退は、FAIにより速やかにリベレーターへ伝えられた。



CICでは全員、顔を暗くした。


ランドーは艦の進路を中島少佐に伝え、火星の公転軌道へ向けさせた。



「リベレーター、コース自動算定……火星公転軌道まで凡そ1.5AU(天文単位)ですっ!」、と中島。


「了解した……、マーベリット大尉、Δ-9の1個小隊をリベレーターの直掩に戻せっ!」、とランドーは火器管制エリアの方を向いて下令した。マーベリット大尉はデッキステーションのライトニング少佐と継なぎ、先行したΔ-9三機を戻すよう伝えた。




ランドーは〈あまてらす〉の艦橋にチャンネルを切り替え、五十鈴宙佐の様子を伺った。


全球スクリーンの左側に投影されたサブ画面にマーティン中佐の他、数名のメディックが五十鈴宙佐の周りを取り囲んでいるのが見えた。



「マーティン中佐、五十鈴宙佐はどうだっ?」、とランドー。それを聞いたマーティンは画面の方を向くと次の様に言った。



{ 超次元の戦闘で相当消耗している……、TXジャンパーを安定して行うには、もう暫くの時間が必要だ。もし、〈あまてらす〉がリベレーターへ帰還した直後に連続でTXジャンパーを行っていたら、彼女の生命は危なかった…… }



「分かった、……マーティン中佐、暫く五十鈴宙佐を頼む。」、そう言うとランドーはサブ画面を消した。そして、火器管制のフスター少佐に次の事を聞いた。


「TXソナーに、こちらへ向かう敵性UFOの影はないかっ? こっちは止まっているのと同じだ。多數で攻撃されればΔ-9三機では抑えられないっ……」



「まだ確認出来ていません、………今のところ…」、とフスターは暗い表情で返した。




     ◆

 



機動宇宙打撃群の状況は機動宇宙軍本部を通して軍総本部ペンタゴンとアメリカ政府に伝えられた。



ホワイトハウス内の会議室では軍総本部のK·マッカーシー将軍と統合機動宇宙軍のリードマン大将、国務省のF·ザイアー長官と事務次官のE·マーキュリー等が集まり、大統領のハワードと補佐官のクラウディアたちと話し合っていた。


「現在、機動宇宙打撃群艦隊は防衛圏から火星軌道の絶対防衛圏まで後退しました…」、とマッカーシーは言った。それを聞いたハワードは表情を曇らせ、艦隊の継戦能力と敵の規模の詳細をリードマンに尋ねた。リードマンは壁にスクリーンを投影し、艦隊の損害と敵の規模についてデーターを映し出した。


「艦隊の損害はSCV-02フリーダムが大破、……母艦アトランティスが接続回収しています。後、リベレータークラスの艦載機、Δ-9を戦闘で三機喪失、これはフリーダムの艦載機で艦載状態で敵に破壊されました。他、インデペンデントとリベレーターですが損害の報告は有りません。………継戦能力はHZMを含むミサイル等、遠隔兵装は残量が僅か、TX兵装は超次元空域で使用限界を超えました………、」、リードマンは俯き口を閉じた。



ハワードはテーブルをバンッ、と大きく叩いた。



「早く次を言わないかっ!敵の規模だっ!!」


リードマンは俯いた状態で目線だけを上げ、敵の規模について説明した。


「敵の規模は開戦前では総数600、内訳はスターシップクラス50、クルーザークラス120、その他430です。現在、確認できているものはクルーザークラス80、その他316となっています……」


「敵の残存は、約400っ、と言う事だな………」、とハワードはテーブルに肘を付き、拳で頭を抱えた。フゥーッと大きく息を吐くと国務省のザイアー長官に尋ねた。



「カインの事で、ロシア連合との話し合いは進んでいるのかね……」


「日本のロシア大使館を通じて接触を試みていますが、返事は有りません。」、とザイアーは言った。


「カインの事もそうだが、今回の機動宇宙打撃群艦隊の事は緊急を要する!対地球侵略はロシア連合でも同じ筈だっ、ある程度の情報共有はやむを得ない! 何としてもロシア連合と協議を行うのだっ!日本政府の外務省を使っても構わんっ!!」、ハワードは既に椅子から腰を浮かし、肩で息を吐いていた。




 ……………………………




統合機動宇宙軍本部から情報を得た、府中の機動宇宙軍作戦司令部は直ちに補給計画を策定、これを実施した。



軌道ドック〈しきしま〉のCICでは艦長の林 稔二等宙将が作戦司令部の山元 葵一等宙将と通信で話し合っていた。







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