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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
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『SCV-01リベレーター戦線復帰へ』

カインとの接触に成功したアメリカ政府代表団は直ちにホワイトハウスへ戻り、ハワード大統領にカインとの交渉継続の可能性とロシア連合の国防宇宙軍の事を報告する。

エドワーズ統合機動宇宙軍工廠に在るSCV-01リベレーターは機動母艦アトランティスを中心とする恒星戦略機動打撃群へ再編され、その準備に追われる……


『SCV-01リベレーター戦線復帰へ』




リベレーターへ帰還した代表団たちは、直ちに輸送機に乗り換えワシントンへ戻った。



ホワイトハウスの大統領執務室でハワードはクラウディアたちを迎えた。


「良くやってくれた、皆!其々、自室に戻って休み給え。詳しい話はクラウディア補佐官から聞いておく。」



クラウディアを残し、全員執務室から退出した。



「カインの感触はどうだったね、シンシア…」、とハワード。


「まあ、事前連絡無しで良く受け入れてくれたと思います。国家レベルなら門前払いが普通ですから……、思っていた通り、と言うか予想通りの反応でした。こちらのスタンスはハッキリと伝えました。イワン(ロシア連合国防宇宙軍)の接近で会見は非常に短い時間で終わりましたが、次の交渉をカインは否定しませんでした。」



「ありがとう、シンシア。カインとの交渉は長丁場だ、焦る必要はない。我々は既に超次元空間において接触に成功した、これの意味するところは色々な意味で大きい。………しかし、問題はロシア連合だ。彼等も超次元の巡航艦を出してきた、となると一触即発の可能性も出て来る。」、とハワードはフゥーッ、と溜め息を吐いた。


「どうされますか、大統領……」、とクラウディアは聞いた。



「ロシア連合にカインとの接触について話し合うよう、持ちかけてみよう。日本政府ならアメリカ連合国の中で唯一、ロシア連合とのパイプを持っている。直ぐに動くようマーキュリー事務次官に伝えてくれ。それと………」、とハワードは言葉を止めた。


「なにかっ?」、とクラウディア。



「国防省からSCV-01リベレーターを戦線へ戻すよう要請が有った。機動母艦アトランティスは木星宙域で滞宙して、そこから土星、海王星エリアへリベレータークラスの機動空母を展開する。その中にリベレーターも入る、との事だ。」


「リベレータークラスはネームシップのリベレーターと2番艦フリーダムと3番艦インデペンデントですね。………確か母艦のアトランティスはリベレータークラスを4隻まで運用可能な筈ですが……」、とクラウディアは言った。



ハワードは親指と人差し指で輪っかを作り、予算だっ!、と言わんばかりに手首を振った。


「国防省では地上打撃群を縮小して、その分を統合機動宇宙軍へ割り振っているっ!それでも予算が不足しているんだっ!」



「国防予算は既に国内総生産(GDP)比で実質5%を軽く超えています。教書演説では3%と言ってますが…」、とクラウディアは溜め息を吐いた。


「国防予算の超過はその後のリターンを見込んでの事だ。我が国は国防産業(軍産複合体)で成り立っている……、戦うことをやめればこの国に何が残るっ、平和かっ?!、違うだろう!」、とハワードは言い切った。




     ◆




アリゾナのエドワーズ統合機動宇宙軍工廠に在る、リベレーター艦内は俄に緊張した空気に包まれていた。


統合機動宇宙軍本部から機動母艦アトランティスを中心とした恒星戦略機動打撃群に加わるよう正式に通達が成された。


急ぎ兵装の拡充と武器弾薬の追加補充が行われた。一時は降ろされた物理兵装のミサイル類も戦術の新たな見直しにより再度艦に積まれた。航空機の不足を補う為、現行のTR-3Dの他、新型のΔ-9、12機と専用のパイロットも補充された。セントラルデッキの中央構造部にあるデッキステーションに隣接するブリーフィングルームとΔ-9のリモート操縦室とパイロット待機室ピストも新設拡張改修された。



CICでは1月中旬の艦隊の進宙に向け、火器管制のフスター少佐と操縦航法管制の中島少佐(大尉より昇格)らが中心となり必要な作業が進められた。


リベレーターの機関となった〈あまてらす〉は、新型のTX機関の供給が間に合わない事もあり、そのままUSSFに在籍となった。




此等、艦隊の運用は地上の統合機動宇宙軍作戦司令部ではなく、母艦アトランティス内に独立した作戦司令部が置かれることになった。


艦隊指揮艦はFFSP(Space Strike Force Project:宇宙打撃軍計画)の頃から名を馳せたA·カートライト提督(大将)とリベレーターの提督である私、JC·ロバートソン(少将)が就く事となった。


リベレータークラスの機動空母ではSCV-01リベレーターの艦長は引き続きR·ランドー大佐が行い、2番艦SCV-02フリーダムはL·ダグラス大佐、3番艦SCV-03インデペンデントにはJ·パワー大佐が就任した。




  ……………………………




私はリベレーターの艦長室に赴き、ランドーと別れの挨拶を交わした。



「私は母艦アトランティスの副官としてカートライト提督の元へ行く。……ランドー艦長、リベレーターを頼むっ! この船が就役してそれほど経っていないが、私にとって長い実務の時間だった。私は艦を離れるがリベレーターと君を誇りに思っているよ。……この後のリベレーターのストーリーはランドー、君が作るんだっ!」



互いに握手を交わしたあと敬礼し、私は艦長室を去った。



  ……………………………




この日を境にリベレーターの管制各科の者は艦隊司令部のアトランティスへ出向き、自艦と他の艦の連携について合議が重ねられた。SAI(艦統合AI)は、その基幹となるアトランティスの FAI(Fleet integration AI:艦隊統合AI)へ連携リンクされ、艦隊行動の高密度化が進められた。


リベレーターは最初の艦だけに、他の艦との違いが多く、その統合を進めるのに苦慮した。先ず機関が日本防衛省から貸与されている〈あまてらす〉であり、これらの予備部品や修理機材などは日本から持ち運ぶ必要があった。また、性能面においても他の艦と違う事から、リベレーターには特別な運用方法も割り当てられた。



動力管制のバートル大尉(中尉より昇格)の口述ではリベレーターの機関〈あまてらす〉は他の2番、3番艦と違い、機関としての能力は高い反面、リベレーター艦体を含む超次元航行は先の土星宙域の戦闘で不安定さが指摘されている点だった。他の艦は超次元空域の作戦展開時間は〈あまてらす〉ほど長くはないがTX機関操作員に係る負荷は遥かに少ない、と報告された。但し、リベレーターは運用面に於いて〈あまてらす〉単艦による超次元空域の活動が可能など、他の艦と一線を画す部分も有った。



兵装の進化点として、火器管制のフスター少佐の報告では、物理兵装と超次元空間を用いた”空間接続物理兵器“の搭載が挙げられた。従来の超次元空間からの攻撃は波動攻撃しかオプションが無かったが、超次元の特性を活かし、空間接続を用いたゼロ距離ミサイルが初めて搭載された。これは空間接続時、又は超次元空間からのフェードアウトの過程でターゲットの次元で起爆させる事が出来た。これにより、物理、高次元の存在に対し、安全を確保しつつ、攻撃性を高める事に成功した。




操縦航法管制に於いてはSAI(艦統合AI)の関与が強化され、人間のパイロットは実質必要ないまでになった。リベレーターのパイロットは飛鳥大尉が居なくなった後、依然として中島少佐一人だったが、そのサブとしてSAIリンクを受けたアンドロイドが彼の横に着く事になった。

このアンドロイドは中島少佐の強い意向で外観を特別に装われた物で、彼はそのアンドロイドを”アスカ“と呼んだ。この時、ランドーは中島少佐と色々話し合ったが、折れて渋々承諾した。それはアンドロイドの外観が亡くなった飛鳥 麗大尉と同じだったからだ……、中島少佐としてはイングリット大尉の件で、リベレーターの最初の頃、飛鳥大尉がいた時の雰囲気を壊したくないっ、との事だった。



ランドーはそのアンドロイドと向き合った時、かつての飛鳥大尉とリベレーター艦内で有ったの事を思い出さずには居られなかった…



(また君のことを思い出してしまいそうだ……麗。)、とランドーはこのとき思った。




     ◆




艦隊の進宙式が迫る中、日本の府中基地の作戦司令部から山元 葵一等宙将がエドワーズ基地に到着し、リベレーターを訪れた。





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