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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
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『ロシア連合の圧力』

カインの空間に接続した〈あまてらす〉だったが、ロバートソンは艦に残され、クラウディア代表団たちはカインの政務執行長官、エステル·ランスと会見する。そこではアメリカ政府とカイン、双方の立場の違いが明らかになる。会見が膠着する中、ロシア連合国防宇宙軍艦船のカインへの接近が知らされる。


『ロシア連合の圧力』




私が艦橋内で煙草を吹かし出すと五十鈴宙佐は艦の外で吸うように注意した。


「提督、艦橋内は禁煙です!〈あまてらす〉は私も含めて艦体自体がTX機関です。……申し訳無いのですが外でお願いします。」



「あっ、すまない! リベレーターじゃなかったんだな、……向こう側(カイン側)で吸ってくるよ。」、そう言うと私は直ぐに艦橋を出てカイン側の空間へ出た。


そこには三名のカインの憲兵が微動だにせず立っていた。私は斜め後ろからそれらの者を見ていたが、改めて観察すると彼女らの特徴がよく分かった。



(身に着けている物は別として、人間だけ見ても、やはり地上の人間と違うな、………例えるなら宗教者のような清浄感? いや、悟達感と言ったほうが良いか……?、それに加えて兵士のような意志の強さも見える。容姿は地上の人間と比べて完全に抜けてるな……、ある意味、没個性的とも解釈出来るが…、これはカインの文明の発達過程で形成されたのか?)



そんな事を思っている時、憲兵の一人が振り向いた。



「そこの小汚い地上のアベルの男っ、ここの空気を汚すなっ!」


私はアッ、と自分の持っている電子煙草に気が付き、直ぐにポケットの中にしまった。


(ここは異文化圏だったな………)、と私は改めて思った。





      ◆





カインの憲兵に連行されたクラウディアら代表団の一行は訳が分からないうちに建造物の通路と思われる所に現れた。憲兵の一人が先行し、壁に向かって何かを言っている……、壁にはドアのような物が無い代わりに黄色い縁取りの様なものが有った。



その憲兵はこちらを見て、”来いっ!“と合図をすると壁の中へ消えた。


黄色の枠の前まで来るとクラウディアは憲兵から、早く行けと言わんばかりに背中を押された。  目の前に壁が迫り、鼻先が壁にぶつかる瞬間、彼女は目を閉じたが、何事も無く壁を通り抜けて向こう側の部屋のような空間に出た。


(何かのトリックッ? ホログラムかっ……?)、とクラウディアは思った。



 

部屋の奥には床から生えたような机と椅子があり、背の高い黒髪の女性が座っていた。彼女は燻銀の様なボディースーツを基本に法衣のようなローブを纏い、頭には役職を表すようなサークレットをしていた。女性は疲れているのか?肌の色は白を通り越して少し青かった。



女性は机の前に床から生えた椅子に代表団を座らせた。



「私はカインの政務執行長官のエステル·ランスだ。君たち政府の事はメサイア(パイロット)のミカ·エルカナンから聞いている。彼女に酷い扱いをしたそうだな……」、と彼女はクラウディアを見て言った。



クラウディアは立ち上がり、次のように答えた。


「私はアメリカ政府の代表団責任者のS·クラウディアという者です。あの場に私も立ち会っていました。あれは文化的齟齬だと思って頂きたい。我々は過去に地球外文明に接した時、そのような事がなかった訳ではない、……我々アメリカ政府は正式にカインとの国交を希望している。私を含め、ここに居るものはその為に来た。」、とクラウディアは臆せず話した。



エステルは机に両肘を付き、手を組むとこう言った。



「国交、……何のためにっ?」


「我々は高次元の敵性異星人から攻撃を受けている。その為、もう一つの人類であるカインと改めて手を結びたい……、」、とクラウディア。



それを聞いたエステルは机をバンッと叩きアッハッハッ、と笑った。



「アベルが何を言うかと思えばっ……!」


「何が可笑しいのかっ!」、とクラウディアは少し語気を強めた。



「カインはプレアデスとの国交も有る。地上の情報も得ている。………アメリカ政府はロシア連合と敵対関係にある、と言うではないかっ!ロシア連合とはプレアデスを介して僅かだが情報共有も有る。お前たちの国は力で周辺の国を支配して来たのではないかっ?! カインは地上と争う意図はないが、現状、地上が争っている時に一国を国交の窓口とするのは現実的ではないっ! 先ず、貴国はロシア連合との和解が優先ではないか……、プレアデスも地上の人類に、そう働きかけてきたはずだ。」、とエステルは代表団に投げ掛けた。



クラウディアは次にこう言った。



「地上では植民地政策が長く続いてきた。今も形を変えてそれは有るが、それは地上を一つにするためのやむを得ない事だ。我が国は〈平和と自由〉を標榜し、その力を持っている。我が国の傘下へ入った国は平等に〈平和と自由〉を得る事が出来る。」


「よその国(ロシア連合)では、その資格はないっ、と言いたいのだな。とても愚かで哀れな事だ、………地上は何十世紀にも渡り、それらの戦争で文明や技術のリセットを繰り返してきたが、カインはそのような無駄なリセットも無く、文明と技術を積み重ねてきたのだっ!」、とエステル。




そんな時、一人の者が部屋へ入って来るとエステルに耳打ちをした。エステルは浅く頷くと席を立ち、クラウディア代表団たちに言った。


「ロシア連合の船が迫っている。貴方達は直ぐに帰った方が良い。」


(クソッ、イワンめっ!こんな時に………)、クラウディアはそう思うと席を立ち、手を上げて撤収を指示した。


クラウディアの横に座っていた国務省のエミリア·マーキュリー事務次官は国交プランが沢山入った鞄を持つと悔しそうに立ち上がった。


(せっかく色々なプランを作って来たのに……)、と彼女は残念に思った。





部屋を出る時、クラウディアはエステルに握手を求めた。当然、それは儀礼上だったがエステルはそれに応じた。この時、クラウディアはエステルに、ある事を尋ねた。


「この前、ここへ空間接続をした時に、”和泉“という男が行方不明になりました。こちらに迷い込んでいませんか?」


「そのような者は居ないっ!」、とエステルは何の表情も無く返した。しかし、一瞬だったが目を逸らしたのをクラウディアは見逃さなかった。


「………(これは、……何か隠している…)ありがとうございました、エステル政務執行長官。我が国はカインとの国交を諦めていません、次の機会を楽しみにしています。」、とクラウディア。




  ……………………………




〈あまてらす〉の艦橋内では五十鈴宙佐が接近するロシア連合国防宇宙軍の波動を捉えていた。


「敵性波動を検知、直ちにカインとの接続を解除せよっ!、と言って来ています。………、これはロシア連合国防宇宙軍の艦っ?」、と五十鈴は後ろに居たロバートソンに言った。


「この超次元空間へ入って来れるのが人間だけなら、それ以外考えられないだろう、……暫く待てっ、と伝えてくれ。代表団がまだ戻ってない!」、とロバートソン。



五十鈴宙佐は敵性を示す波動に対し、自艦の所属と接続解除には時間が掛かる旨を波動で送った。



「本艦は日本防衛省 JUDF-077”あまてらす“であるっ!カインとの接続解除には時間が掛かるっ、攻撃は行うなっ!!…………」



「反応はっ?!」、と私は五十鈴宙佐に聞いた。


「直ぐさま攻撃はして来ないようですが、攻撃性波動は大きくなっています。……艦に影響が出始めるまで時間はそう有りませんっ!」、と五十鈴。



そんな時、クラウディア代表団らがドヤドヤッと艦橋内へ戻って来た。私は人数を確認するとカインから離脱するよう五十鈴宙佐に指示を出した。


五十鈴は浅く頷くと前を向いた。



「了解っ! 〈あまてらす〉超次元空間からフェードアウトします!」






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