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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
70/80

『異文明圏へ』

エドワーズ統合機動宇宙軍工廠のSCV-01リベレーターへ到着した政府の代表団を迎えたランドー。彼はカインとの交渉が進む事を願っている、と代表団責任者のクラウディアへ期待の言葉を贈るが、責任者のクラウディアは軍人は政府の指示通り動けと冷たく突き放す。ランドーはこの事で政府に対し疑念を持ち始める。

〈あまてらす〉は予定通り、超次元空間内でカインとの空間接続に成功し、政府の代表団はカイン側の空間へ出るが、カインの司法機関、サンヘドリンの憲兵に拘束されてしまう。艦と代表団に危害を加えないよう申し出るロバートソンだったが、彼は艦に留まるよう憲兵から言い渡される。


『異文明圏へ』




輸送機から降りて来た、アメリカ政府の代表団を私は歓迎し、責任者の大統領府補佐官のS·クラウディアと握手を交わした。


「ようこそっ、リベレーターへ!お待ちしておりました、クラウディア補佐官。……日立宇宙工廠以来ですね。直接お会いはしておりませんが……、こちらはSCV-01リベレーターの艦長、R·ランドー大佐です。」、と私。


ランドーは進み出て彼女と握手した。


「艦長のランドーです。リベレーター、〈あまてらす〉共に万全の態勢です。この度のカインとの交渉が進む事を期待します。」、ランドーがそう言うと、クラウディアはフフンッ、といった感じでランドーに言った。



「期待などしなくても良いのです、軍は政府の指示通りに動きなさい。」


「……………」、ランドーは黙し、ただ敬礼で返した。


この時、ランドーはクラウディアに対し、あまり良い印象を持たなかった。




私は責任者のクラウディアを始め、国防省事務次官のE·マーキュリー他、五名(全員女性)をセントラルデッキ内に在る〈あまてらす〉へ案内した。




  ……………………………




〈あまてらす〉艦橋内へ入ると、五十鈴宙佐は、ご苦労さまですっ!、と敬礼で私たちを迎えた。五十鈴はクラウディアと目が合った。


「この前は死に損なったわね、貴方……」、とクラウディアはわざとらしい笑みを浮かべた。


「はいっ、隊員(軍人)としてあの様な場で死ぬ事は、銃を与る者の本義では有りませんっ!」、と五十鈴は強く言った。



「艦を出しなさい!」、とクラウディア。



既に〈あまてらす〉は超次元移行の為の機械的シーケンスは完了していた。五十鈴は自身のバイタルのシグナルグリーンを確認した。


「艦橋ハッチ及びエアロック閉鎖確認、………ボーディングブリッジ撤去完了、セントラルAデッキ内クリア確認。………リベレーターデッキステーションよりGOサインッ!」、五十鈴は艦とその周囲の最終チェックを行った。



「〈あまてらす〉、超次元移行カウント、………4、3、2、1、ブレイクナウッ!!」




     ◆




リベレーターCICでは〈あまてらす〉の発進(発信)を確認した。



「〈あまてらす〉、飛び立ったっ!」、と火器管制のフスター少佐が艦長のランドーへ報告した。ランドーはこの時、珍しく下に在るエリアへ降り、フスター少佐の横に来た。


「〈あまてらす〉のEAT(Estimated Time of Arrival:帰還予定時刻)は?」


「待って下さい………」、フスター少佐はSAIのリンクで〈あまてらす〉の超次元滞空時間の設定を見た。



「概ね三時間と言ったところです。今回は戦闘ではないので長めの滞空時間ですね……」、とフスター少佐は答えた。


「カインとの交渉、……上手く行けば良いのだがな。フスター少佐…」、とランドーは全球スクリーンの隅のサブ画面に映し出された〈あまてらす〉を見たまま、フスターに言った。



「少佐、我々軍人の本義とは何だっ、………」


フスターは怪訝な顔をしたが、次の様に答えた。


「国民の生命と財産を守る事、……というのが一般的な答えです。」



暫く間を置いてランドーは呟くように言った。


「我々は使い捨ての駒なのか………」


フスターは目を大きく開き、ランドーを見入った。


「どうしたのですかっ?! 艦長、……一体!」



ここでランドーはフスターが問いかけている事を無視したように違う事を言った。それは独白に近いものだった。



「私は前にTX機関の操作員、エディ·スイングに逃げられてしまった、……自分は彼女に酷い事を言ったが、それは軍の組織内では、まだ許容できるものだった。しかし、軍は国や政府の命令で、時には人道を外すことさえある。それは国や政府の命令を正義として受け止めているからだ、…………だがっ、その正義が歪んでいたらどうかっ?!………私はアメリカ政府のカインとの交渉には賛成だが、その前にやるべき事は足元に有るはずだ。……ロシア連合国との交渉は無いまま、地上では緊張と対立を生んでいる。更には敵性異星人と戦っている状況だっ! そこで、カインとの交渉?! 何か違うんじゃないかっ……」



フスターはフゥッ、と溜め息を吐いた。


「戦争は経済のシナリオの中に組み込まれています。戦争は終わらない、ではなく終わらせない、というのが正直、私の思うところです。」



暫く黙った後、ランドーは呟くような声だが、確かな声で次のように言った。


「いつか必ず終わらせてやるぞっ………」





  ……………………………




〈あまてらす〉は超次元空間への移行を終え、空間接続面のチェックを五十鈴宙佐が行っていた。



「接続面の安全は確認出来ました。行けますっ!」、と五十鈴。



代表団はお互い顔を合わせ、ウムッといった感じで互いに頷いた。


「では行ってくる。五十鈴宙佐、留守を頼む。」、そう言うと私は代表団の後について白い霧の壁の中へ足を踏み入れた。壁の中は明るい白色で二、三歩進むと視界が開け、以前に月のドローン作戦で見た映像の場所に出た。



鈍く光る鉛色の道路と、それと同じ材質で建造された様な、窓の無い先端の尖った高層建築物、そしてそれらを覆う巨大なクリスタル?の天蓋が有った。天蓋の外は暗くなく、先ほど通り抜けた壁のように白く光っていた。


(間違いないっ、あの時UFOが通り抜けた天蓋だっ!)、と私は思った。



クラウディアたちは動かず周囲を観察していると、代表団の周囲に突然人影が現れた。それは、いつ現れたのか分からないほど、一瞬の出来事だった。



周りを取り囲んだ者は燻銀のような液体金属の様なボディスーツを纏っており、それは頭部のヘルメット形状の物と繋がっていた。また、左手首には同質の少し大きなブレスレットをしていた。



私は身体を動かそうとしたが、どういう訳か一ミリも動かず、他の者も同じ様で、慌てているのか顔には汗を滲ませていた。取り囲んだ者の一人が進み出て腰のポーチの様な部分から6mm程の丸い粒を取り出し、動けなくなった我々の額にそれを押さえ込むと、その丸い粒はまるで溶け込むように皮膚の中へ消えた。



「これでいいだろう……、我々の言葉は理解できるな?」、とその者は言った。


「お前たちは何者だっ、何をしたのだっ?!」、と私はその者に言った。


「我々はサンヘドリンの憲兵だ、さっき額に入れたものは意思疎通と感情を相互に交感する為の物だ。………お前たちが我々の空間に穴を開けたのは分かっている。お前たちを連行する、言い開きはサンヘドリンへ着いてからだっ!」



私は思わず叫んだ。



「危害を加えないでくれっ、それと我々の艦を攻撃しないでくれっ!」


その者は目を細めて私をジロジロと観察した。そして、次にこう言った。



「お前は自分の船に引っ込んでいろっ!! 此処から先は選ばれた男性以外、入らせないっ!」、そう言うと、その者は仲間を数名、空間の接続口に立たせ見張らせた。


私は代表団の方を見たが彼等は既に消えていた。私はクソッ、と思いながらも〈あまてらす〉に戻る他なかった。



私が艦橋内に帰ると、余りに早い帰還に五十鈴宙佐は慌てた。


「ロバートソン提督っ、何か有ったのですかっ?! さっき出たばかりですよ!」


「私は追い返されたっ、選ばれた男性以外は入れないらしい!」、と私。


「〈あまてらす〉に危険は無いですか?」、と五十鈴は艦の安全を気にした。


「多分、大丈夫だと思う。攻撃の意図が有るならこっちへ乗り込んで居ただろうからな……」



私はそう言うとポケットから電子煙草を取り出した。それを見た五十鈴宙佐は嫌な顔をした。






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