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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
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『消えた和泉副大臣』

超次元空間でカインの波動と同期した〈あまてらす〉は遂にカインと空間の接続に成功する。寺坂と五十鈴は空間の接合面の安全を確かめ、カインの都市の一部をペリスコープで目の当たりにし驚く。防衛省副大臣の和泉もそれを確認するが、その後、彼は不可解な行動を取る。和泉は理由を語ることなく、一人カイン側の空間へ姿を消す……。リベレーターへ帰還した五十鈴と寺坂は和泉の失踪を事故とし、その後の対応を政府に要請するようランドーに伝える。


『消えた和泉副大臣』




カインとの空間接続に成功した五十鈴たちはエベレーターカプセルに入ると、カプセルは時計回りに回転し、三時の位置でエアロックを開放した。


エアロックから3mの所に白く光る霧のような壁が有った。


「艦橋右舷ハッチはカインの都市の大通りの端に接続している筈です。」、と五十鈴は寺坂に言った。


「君にしか分からないからな………、慎重にやってみるよ。」、そう言うと寺坂は持っていた棒を引き伸ばして倍くらいの長さにした。


「接続のオーバーラップは1500、………このくらいの長さで良いかな…」、寺坂は金属棒をゆっくり霧の壁に差し込み、更に左右に振ってみた。



「OK、……障害物や物質とのオーバーリンクは無いようだ。」


寺坂は慎重に金属棒を抜くと、棒の切断や破損、材質の変化が無いか表面を詳しく見た。


「どうですか?」、と五十鈴。


「ウンッ、行けそうだな……」、と寺坂。



横で見ていた和泉が寺坂に尋ねた。


「我々は白い霧の壁のような物を見ている訳ですが、向こう側から見た場合、どの様に見えるのですか?」


「反対側から見ても同じ様に見えるはずです……、これは理論上です。実験艦の〈ことしろ〉ではデーターとなる対象が無かったんです。今、我々がやっている事は初めてです。」、と寺坂は和泉に言った。それを聞いた和泉は少し不安になった。



(もし、向こう側に人が居たら気が付かれてしまうんじゃないかっ!? こちらに乗り込まれでもしたら……)、と和泉は思った。寺坂はそれを分かっているのか、和泉に説明した。


「空間接続の時に五十鈴宙佐が出来るだけ人の居ない所を選んでいます。勿論、絶対に見つからない訳ではありませんがね……」


説明の後、寺坂は五十鈴から手渡された長いペリスコープを慎重に霧の壁へ差し込んだ。そしてスコープを覗き込んだ。そこに映し出されたものは……



「これは凄い!! 五十鈴宙佐っ、君も観てみろっ!」、と寺坂は興奮気味に発した。



寺坂に代わり五十鈴がスコープを覗く……


「これがカインの都市っ!! 凄いっ、……寺坂さん、私たちは世界で初めて空間を繋ぐ事に成功したんですよっ!!」


「すまないが私にも見せてくれっ!」、と和泉は言い、五十鈴と交代した。



そこで見た景色は、先の尖った窓の無い高層建築物と、それを覆う巨大な天蓋、広い道路の様な物だった。和泉が見入っていると、寺坂はペリスコープを取り、回収しようとした。


「和泉さん、目的は達しました、引き揚げましょう!」、と寺坂。


和泉は寺坂を制止した。

「寺坂宙佐、待ってくれっ!」


寺坂と五十鈴はエッ?、となった。




「私は向こう側へ行ってみる!」、と和泉。


それを聞いた寺坂は慌てた。 


「バカなことを言わないで下さいっ、向こう側は不可知領域ですっ、目視で確認しただけでは分からないっ! それに異星人の都市ですよっ、安全は保証できないっ!」、と強く言った。



和泉は静かに寺坂に言った。


「私はたぶん戻らない、………寺坂宙佐、私の事は事故として処理してください。」


寺坂は和泉の腕を掴み、引き寄せた。


「和泉さん、あんた……、俺たちに何か隠しているなっ!政府かっ!?」


和泉はゆっくり寺坂の手を解くと次の事を伝え、背を向けた。


「何も言えないっ……、五十鈴宙佐、ここまで連れて来てくれてありがとう、感謝する。〈あまてらす〉艦橋内の記録は消去して置いてくれっ!」、和泉はそう言うと、白い霧の壁へ飛び込んだ。



「和泉ぃーっ!!」、と叫ぶ寺坂。クソッ、という感じで寺坂は五十鈴の方を振り向き〈あまてらす〉の滞在時間のリミットを聞いた。


「現次元の滞空時間は、あと15分程度がリミットですっ!」、と五十鈴は答えた。


「クッ!……」



寺坂は五十鈴に撤収を命じた。


「リベレーターへ帰還するっ!! 五十鈴宙佐、空間接合面で起きた事の情報は消去して置けっ!」



「………了解しました!」、と五十鈴。





      ◆




リベレーターCICでは操縦航法管制の中島大尉が〈あまてらす〉の帰還を確認した。後方の動力管制エリアのマーク少尉も〈あまてらす〉へ補助電源APS接続がなされた事を報告した。


「〈あまてらす〉へAPS接続、リベレーターSAIとの連携完了………〈あまてらす〉主機停止しました。」 

     


上段の指揮統括エリアからランドーと私はその様子を確認していたが、次にSAIが〈あまてらす〉に関する緊急報告を発した。


{〈あまてらす〉超次元空間内で行方不明者有りっ!情報レベルA、艦長へ情報を送りますっ! }



それを受けたランドーは私をCICに残し、〈あまてらす〉へ走った。


彼が近づいた時、リベレーターのセントラルデッキの中央構造部からは、まだボーディングブリッジが伸びていなかった。


ランドーがボーディングブリッジの先に辿り着くと、漸くボーディングブリッジは〈あまてらす〉の艦橋へ向けて伸び始めた。

ボーディングブリッジが〈あまてらす〉艦橋に着いたが、まだ〈あまてらす〉側のエアロックは開放されていなかった。


「五十鈴宙佐、ランドーですっ!エアロックを開けてくれっ!」、とランドーは通信チャンネルとリンクし艦橋内へ呼び掛けた。



暫くしてエアロックは開放された。ランドーは乗り込むとエレベーターカプセル内へ入り、次に艦橋内へ進んだ。


そこには五十鈴宙佐と寺坂宙佐の二人しか居なかった。



「何が有ったっ!?」、とランドーは二人を詰めた。


寺坂が前に進み出た。が、それはゆっくりした感じでランドーは少し違和感を覚えた。


「超次元空間でカインの波動に継なぐ事は成功しました。だが、和泉副大臣が向こう側へ行ったっ切り、戻って来なかった、………〈あまてらす〉の超次元滞空時間のリミットが近づいていたので一時撤収しました。」、と寺坂。


対してランドーは和泉の生命の安全を問うた。


「和泉さんはっ、彼は大丈夫なのかっ?!」


「断定は出来ませんが、恐らく、……向こう側をペリスコープで除いて見たのですが危険な物は確認できなかった……、ただ、向こう側の大気組成や、その他、人体に影響のある物質の存在までは分かりません。」



「ランドー艦長、大丈夫です。向こう側にはカインの他に風早志門も居ます。確証は有りませんが人が住める所です。」、五十鈴は何となく落ち着かない様子だった。



「救助はどうするのだっ?!」、とランドーは聞いた。


寺坂は腕を組み考えた後、次の様に言った。


「直ぐには危険です。カインがどのような対応をして来るか分からない、………先ず〈あまてらす〉が超次元空間でカインとの波動同期に成功して、空間接続が出来た事を上に報告して下さい。そうすればアメリカ政府はカインとの交渉に動き出すでしょう。和泉副大臣の回収はその時合わせて行う事が出来ます。」


「ウゥームッ、……承知した。だが、準備には時間が掛かるはずだ。その間、和泉さんの安全は保証出来ないが良いのかっ!?」、とランドーは言った。


「今回の不明者は我が国の政府関係者です。それに対して動くのは軍ではなく政府の方が良いでしょう。………

私は〈あまてらす〉の超次元空間接続が成功したので本国へ戻りますが、作戦司令部を通して政府に報告します。その後の対応は日本政府とアメリカ政府の話し合いになるでしょう。」



「承知した、私も先ず、統合機動宇宙軍本部へ報告しなければならない、寺坂宙佐、五十鈴宙佐、ご苦労でした。」


ランドーはそう言うと〈あまてらす〉の艦橋を出て行った。




「フゥーッ…」、と寺坂は大きな溜め息を吐いた。






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