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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
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『マーベリット大尉の悲劇』

パーティーの会場で泣き叫びながら出て行くマーク少尉。それを見たロバートソンは事の経緯を調べる。そこには土星宙域で受けた高次干渉の影響が見て取れた。ロバートソンはメディカルセクションのマーティン中佐を訪ね、この件について話し合う。マーティンは人間関係の高次干渉の連鎖的な影響の可能性についてロバートソンに説明し、その解決策を話す。ロバートソンはランドーのもとへ走り、彼に対応を懇願する。その内容は口にするのも憚られるほど破廉恥なものだった。



『マーベリット大尉の悲劇』




ランドーがドアを開け、身を乗り出すように確認すると、そこには動力管制科員のマーク少尉の後ろ姿が見えた。


ランドーは彼を呼んだが彼はそのまま走り去った…



「一体、何事かっ?!……」、とランドー。



ランドーは自分たちがいる部屋を出て、彼が出て来たと思われる部屋を訪ねた。私も気になったのでランドーの後を付いて行った。


ノックをして部屋に入ると、そこには操縦航法管制の中島大尉と火器管制のマーベリット大尉の姿があった。二人とも表情が固まったまま、無言で佇んでいる……


「一体、何が有ったっ!」、とランドー。私は彼らがパーティーを開くことは聞いていたがメンバーが違うのに気が付き、マーベリット大尉に尋ねた。


「フスター少佐が今日の司会(幹事)ではなかったのかね、マーベリット大尉っ?」


「兄は、…少佐は射撃管制室から連絡が有って急遽、シフトを代われと言われたので私が来た次第です……」、とマーベリット大尉は答えた。


「でっ、先の悲鳴は何だっ?!」、とランドーは詰めた。



私は何かややっこしいものを感じたため、一旦、部屋に戻ると〈あまてらす〉のメンバーに今日の礼を言い、引き揚げてもらった。



ランドーの問いに対し、中島大尉が口を重くして気まずそうに答えた。


「艦長、チョッと此処では…、話しにくい内容です。」


ランドーは眉間にしわを寄せた。

「ハァッ、何だそれはっ?!」



私は〈あまてらす〉のメンバーを見送った後、戻って来て中島、マーベリットの両名に言った。


「今日はクリスマスだっ、リベレーターの竣工記念日でもある。そんな日に問題を起こすとは………、それもCIC科員がっ!少しは自分の立ち位置を考えたまえっ!此処で起きた事は後でSAIから調べて置くっ!」


ランドーは二人に自室に戻るよう命じ、その場を散会させた。



「クソッ、やらなければならない事も有るのに、何でこんな時に問題を起こすんだっ!……」、とランドーは腹が立った。


私はそれを聞き、この件は自分が調べ、後で伝えると彼に言い、艦長室へ戻らせた。



  ………………………



私は提督室には戻らず、ラウンジの奥、アンドロイドのコンパートメントで、先の出来事を調べた。



SA-023号(サービスアンドロイド:サンディ)は私の所へお冷やを持って来た。


「提督、……今日は……、何と言ってよいのか……」


「悪いが、この場所を使わせてくれ。今、問題の部屋で何が起きたのか調べている。」、と私。


SAIリンクで画像にアクセスしていた時、別の誰かがアクセスしているのに気が付いた。


「ランドーか、……彼には自分の仕事に専念してもらいたいが気になるのだろうな…」


サンディは後でカウンターに来てください、と言うと部屋から出て行った。





暫くの間、私は部屋の画像と中島大尉らの会話を聴いていたが、それは恐ろしく破廉恥な内容だった。私はある点に気が付いた。


マーク少尉の言動が、先の土星作戦の時に受けた高次干渉を引きずっているように感じた。


私はメディカルセクションへ行くため、部屋を出てラウンジのカウンターへ進んだ。待っていたサンディは申し訳なさそうに次の様に伝えた。


「提督、言いにくいのですが、今日の件でCIC科員の方は次に来る時は割増料金になります。あの状況(マーク少尉が泣き叫びながら出て行く様子)を見ていた一般兵士も多数います……、完全にマイナスイメージです。」


「クソッ、なんて事だっ!!」、と私は叫んだ。更にサンディは言った。


「提督からお預かりしたシップカードですが、既に上限を超えてマイナスが出ています。新たにチャージを……


「クッ!………」、私はサンディの差し出した自分のカードを引ったくるように取るとラウンジから出た。




      ◆




メディカルセクションでは通常通りマーティン中佐が診察室に居た。リベレーターのドック入りで特に傷病者も無く、たまに来るのは軽作業でかすり傷や打撲程度の者だった。


(ああ、すごく平和だなぁ………こんな時がいつまでも続いて欲しいものだ。医者の立場から言わせてもらえば、戦争なんかやめちまえっ!、て事になるかな……)



夜も遅くなりかけた診察室で、そんな思いの中、マーティンは机に向かっていたが、いきなり静寂は破られた。警護に守られたロバートソン提督が診察室へ入って来た。ドスッドスッという足音から普通の案件でない事がすぐに分かった。


マーティンは彼の顔を見たが、こめかみには青筋が立っていた。その様子を見たマーティンは一瞬、ヒッ!、と思った。



「てっ、提督、……一体どうされましたか?!」


「CIC科員が問題を起こした! この前の土星作戦時の高次干渉の記録を調べたい。君の意見も聞きたい!」、と私は彼に言った。


「誰です、何をしたんですかっ?」


「動力管制科のレオン·マーク少尉だ。」、そう言うと私はマーティンに顔を近づけ、小さな声で言った。


「今日、CIC科員数名がクリスマス……、いや、リベレーターの竣工記念日、と言うことにして置こうか。……パーティーをやっている時にマーク少尉が女性科員に、……下着を要求したらしい…」、私は言っている自分にさえ恥ずかしさを覚えた。



マーティン中佐はモニターを立ち上げ、外部機器との連携を切ると、高次干渉時のマーク少尉の記録を映した。そして自身のモジュラージャックのカバーを外すとダイレクトに有線で繋いだ。


「彼に艦に影響を及ぼすような言動は見当たりません…」、とマーティン。


「問題はそこじゃない。高次干渉の幻影が彼に与えた影響と、その後の彼の行動だ。艦に直接の影響は無いが対人関係に支障が出るかも知れんっ! その辺の安全性に関して君の意見が聞きたい。」



マーティンは腕を組み、暫く考えた。そして、モニターの端にサブ画面を立ち上げると、高次干渉の予防と後処置に関するガイドラインのデーターを映した。目を細めながら彼はそれを見ていた……


「高次干渉の軽度はマーク少尉の場合、特に高いものではない……、人を殺傷するような事は有りません…!!」


この時、マーティンはハッ、と気が付いた。



「これは盲点だったっ……、提督、私の誤診が有ったかも知れないっ! 危ないのはマーク少尉じゃなくて、バートル中尉ですっ! 彼は高次干渉の幻影、マーベリット大尉がマーク少尉を愚弄した事に対して激しい怒りを持ちました。彼は艦の備付の斧(Damage Control Axe )さえ持ち出しています。」


「どう対処すれば良いのだっ?!」、と私。



「高次干渉の幻影はマーベリット大尉でした。パーティーのような席で、この三人を絶対に並べないで下さい! マーク少尉とバートル中尉が一緒の時に、女性を並べて、もし、その女性が高次干渉のトリガーを引くような言動を発した場合は最大に危険な状況です。これはマーベリット大尉以外の女性でも有りえます。」



「CIC内だぞっ、密閉空間だ!この三人はほぼ、CICで顔を合わすっ!」、もはや悲鳴のように私は言った。



「高次干渉は強力な刷り込みです。提督、先に言った事を回避する方法は有ります。以前、グアムの高次干渉でランドー艦長が飛鳥大尉に襲われた時に、その後の対応を聞かれました。私はこう言ったんです、出来るだけ彼女の言う事を聞き入れて下さい、と。」



「今回の件について、具体的に頼むっ!」、と私。



「私も医師をやっていて、自分の口からこんな事を言わなければならないとは思いませんでしたが………、マーベリット大尉には下着をマーク少尉に渡すようお願いして下さい、出来ればバートル中尉がマーク少尉と一緒にいる時にです。 これに依って、マーベリット大尉とマーク少尉の仲が良い、とバートル中尉に誤認させるんです。」、とマーティンは顔を真っ赤にしながら説明した。


「刷り込みの上書き、と言う事だな、ありがとう、中佐っ!」



私はそう言うと、直ぐさまCICへ走った。



  

   ……………………………




艦内時間は既に翌日に移行していた。


私は艦長室を訪ねた。部屋の明かりは点いていて、ランドーも起きていた。


「提督、こんな夜更けに、……何か有ったのですか?」、と彼は尋ねた。私はメディカルセクションでマーティン中佐との話の経緯を彼に話した。


「悪いが君がマーベリット大尉に頼んでくれないだろうか、お願いするっ!」、当然、彼は慌てた。


「チョッ、チョッと待って下さい、提督! それを艦長である私の口から言えと言うのですかっ!?」


「私を見ろっ、この年で言ったら 、只の変態老人だっ。MSFP(Mobile Space Force Police:機動宇宙軍警察)に引っ張られる! 君は若いから、まだ酌量の余地が有る!……頼むっ、ランドー艦長っ‼」



余りに必死な要請でランドーは折れた……




     ◆




彼は立ち上がり艦長室を出ると、奥の管制科員の部屋へ向かった。マーベリット大尉の自室の前でドアをノックするランドー。



暫くしてドアが開かれ、そこには黒いボディスーツの第二種艦内服を着たマーベリット大尉が、眠たそうに口をムニャムニャさせて立っていた。


「こんな時間にすまない、昨日のパーティーの事は知っている、君と詳しく話したい。これには高次干渉の件が絡んでいる。」



マーベリット大尉はランドーを自室に入れた。



ランドーはベッド脇にあった椅子を引き寄せ、腰を下ろすと提督から聞いた話を全てそのまま伝えた。


「…………、という訳で君の下着をマーク少尉に渡してくれないか。……」



マーベリットの顔はみるみる真っ赤になって行った。






今回はハレンチ回です。耐性のない方はご注意ください。

尚、タイトルですが『機動空母リベレーター』から『機動空母リベレーター戦記』と言うように"戦記"の文字を追加させて頂きました。これにより、物語中に出て来るリベレーターがどのような戦いの軌跡を描いてきたか、読者様の想像の一助となれば作者として幸いです。内容は従来の路線通り変更は有りません、今後ともよろしくお願いいたします。


                      筆者    天野 了

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